忘却の艦隊

第75話 食事

　食堂に着いたダレンとレイクルは、上級士官用のテーブルに座った。周りにはダレンの部下や同僚たちがいたが、彼らはダレンの横にいるレイクルに興味津々だった。レイクルはダレンの恋人の１人であるミカとの喧嘩の噂を聞いていたが、それが本当だとしたら、ダレンは自分と食事をすることでミカに嫌がらせをしているのだろうか。それとも、レイクルに何か別の目的があるのだろうか。

　レイクルはダレンの顔を見て、彼の表情から何かを読み取ろうとしたが、ダレンはいつものように穏やかで優しげな笑顔を浮かべていた。レイクルはダレンの笑顔に惹かれてしまい、自分の心が揺れるのを感じた。これまでの上辺だけのあの筋肉たまらない！抱かれたい！というのではなく、レイクルは本気で自分がダレンに恋をしているのだと気づいたが、それは危険なことだとも思った。ダレンは自分の上司であり、恋人もいる。レイクルはダレンの恋人の１人になることができるのだろうか。レイクルは自分の気持ちを抑えようとしたが、それは難しいことだった。

　ダレンはレイクルの様子に気づいていたが、それを問い詰めることはしなかった。ダレンはレイクルに興味を持っていたが、それは恋愛感情というよりも、彼女の才能や能力に対するものだった。ダレンはレイクルが開発しているプログラムについて聞きたかったが、それは今はまだ伏せている任務だったので、ここで話すことはできなかった。

ダレンはレイクルに他の話題を振ったが、レイクルはぼんやりとした返事しかしなかった。ダレンはレイクルが何かに悩んでいるのだと思ったが、それが自分に関係することだとは気付けなかった。

そう、舞い上がり、ひょんなことから憧れの人と食事をしているからだ。

　２人は食事を終えて、ダレンの部屋に向かった。ダレンはレイクルにプログラムの進捗を報告してもらおうとしたが、レイクルはそれを遠回しに拒否した。

ダレンの部屋に入ることに抵抗を感じていたからだ。

それはダレンの部屋には彼の恋人たちの匂いや痕跡があるのではないかと思ったからだ。

レイクルはダレンの恋人達に嫉妬していたのだ。自分の気持ちを伝えたいと思ったが、今は無理だと思った。

レイクルはダレンに別れを告げて自分の部屋に戻ろうとしたが、ダレンはそれを許さなかった。

「待ってくれレイクル。君はどこに行くつもりだい？」

　ダレンはレイクルの腕を掴んで引き止めた。

「私はもう行きます。報告は明日にします」

　レイクルはダレンの手を振りほどこうとしたが、ダレンは離さなかった。

「いやだ。君はここにいてくれ。君と話がしたいんだ」

　ダレンはレイクルの目を見つめて言った。

「話？何の話ですか？」

　レイクルはダレンの目をそらそうとしたが、ダレンはそれを許さなかった。

「君の話だよ。君はどんな人間なのか、どんな夢や希望があるのか、どんなことに興味があるのか、そういうことを知りたいんだ。端的に言うが、君に興味がある」

　ダレンはレイクルに真剣な表情で言った。

　これは司令官として、重要な任務をこなす下士官と話をする必要を感じたからだ。

「私はただの兵士です。夢も希望もありません。興味があるのはちょっとした個人的な趣味と体を鍛えること、それにプログラムだけです」

　レイクルはダレンに冷たく言った。いや、テンパっていて冷や汗をかいていたのだ。

「そんなことない。君はただの兵士じゃない。特別な人間だ。天才的なプログラマーだと聞いている。君にならこの艦隊の未来を変えることができる！それに私の心を動かすことができる」

　ダレンはレイクルに熱く言った。

　ミズリアに人格に難アリの査定があると聞いていたが、眼の前にいるのはまるで少女のような純粋なただの女性にしか見えず、保護欲を掻き立てられた。

　緊張からくる態度だったが、レイクルにとっては幸いだった。

「私の心を動かす？どういう意味ですか？」

　レイクルは驚きダレンに聞いた。

　しかしその時端末のアラームが鳴るが、それはミズリアからでこの後ある予定時間の連絡だった。５分後に当直以外のブリッジクルーと行う会議の時間が迫っていると・・・