第3話 奇怪な侍少女?
「へいらっしゃい!今日も色んな魔物の肉仕入れてるよ!ゴブリン、ホブゴブリン、ニアホーク、そしてレッサードラゴンの太ももまで!皆さんが満足できるような品揃えだよ!」
今まで馬車で通ってきた砂利道は一体何だったんだと思うほど整備されている石畳の道、日本の商店街をにおわすような騒がしい喧騒、立ち並ぶ建物の前に連なっている屋台の列はまるで夏祭りのようにきらびやかだ、行きかう人々は親子連れやカップル、子供同士など様々だ。
懐かしい焼き鳥の香ばしいにおいが俺の鼻孔をくすぐる。
「うわぁすご………」
《この地域に転送されてくるのは日本人が多いため日本の文化が色濃く受け継がれているようです》
なるほどなぁ、どうりで見覚えのあるものしかないわけだ。関所もなぜか無駄に厳しかったしな、まぁ厳しいというより細かいって感じだったけどな。
だがバリッタに入ってしまえばこっちのもの、いっぱい楽しんでやるぜ。
「ちょっと寄り道を………」
《ダメです、最初に行くべきは冒険者協会です》
「えーでもちょっとだけならいいじゃーん」
《ダメです、最優先は冒険者協会に行って身分証を発行してもらうことです、その次に薬草を購入して骨折したその左手を直すこと、観光はその後です》
「わかったよ、もう………」
たくっお母さんかよ。
「じゃあ冒険者協会までの道のりを教えてくれよ」
《了解しました、ルート案内を開始します》
まるでカーナビだな。
・
「もうすぐか?」
《はい、そこの突き当りの角を右に曲がれば目的地です》
カーナビのような二号の言葉に従っていると、先ほどとは打って変わった静かな場所になっていた。人の往来も少なく、建物の整備もあまりされていないため少しばかり匂いがきつい、二号が言うにこの道は冒険者協会までの近道らしい。
「早く終わらせて、観光がしてーよ」
などと、すっかり太陽が沈み暗くなった空を見上げる。
そんな時柄の悪いしゃがれ声が聞こえてきた。
「ねぇねぇお嬢ちゃん、俺らのパーティーに入りなよ、いい思いさせてあげるよ?」
「ふむ、拙者がお前らのいうぱーちぃーとやらに入ればお菓子とかがいっぱい食べられるのか?」
「あぁ、もちろんさ、だからちょっとだけ俺らの部屋でお話しようぜ」
やけに物騒な刀を携えた武士のような恰好をした少女が下品に舌を伸ばしているヤンキー共に絡まれている。ついには少女の手をつかみやがった。
全くもってこの世界でもこんな輩が存在するっていうのか。仕方ない、助けてやるか………
後頭部をかきながらその少女に近づく。
「おい、あんたら………」
「居合・峰打ち」
俺が声をかけた瞬間、短い息を吐いた少女はつむじ風を引き起こし、瞬く間に周囲のヤンキーたちは声を出す間もなく倒れていた。その剣筋がまるで見えなかった。
「む?何用でござるか?」
俺の気配に気づいたのかポニーテールにまとめられた髪を翻しながら振り返った少女の顔はまさに童顔で、大きな瞳、小さな鼻、そして168㎝の俺が見下ろせるほどの小さい体、おそらく中学生か小学校高学年くらいの年齢だろう。
しかし、舐めてかかれないと強く感じるほどの神秘さを彼女は纏っていた。だからこそ返答に口ごもる。
「え、あいや助けようと」
「ふっそれならば無用でござるな」
「あぁ、見ればわかるよ」
周りを見るとぴくぴくと死にかけの虫のような挙動をしているヤンキーたちが目に入る。
「なぁ君の名前はなんて言うんだ?」
「名は咲、あざなは宮本だ」
「俺の名前は鳴神累、咲、君は強いんだな」
「当たり前でござる、拙者はいずれ空を断つ者、この程度の輩に遅れはとらんよ、それより拙者の居合はどうであった?」
一人称とは裏腹の子供のようなきらめいた瞳が俺の心臓を射抜く。
「あぁすごかったよ剣筋すら見えなかった」
「そうであったか!やった!」
無邪気にその場で跳ねる咲の頭を撫でまわしたいところだったがさっきのヤンキーみたになる未来が見えてしまったのでそれはやめた。
「やった、やっ、た………」
目の前で倒れる咲を思わず腕で抱える。
「おい!大丈夫かよ」
やせ細った華奢な体はちょっとでも力を入れてしまえば折れてしまいそうだ。一体彼女の体に何が………。
「………腹が、減った」
「はぁ?」
しかし予想以上にくだらない返答に腰の力が抜けてしまった。
・
とりあえず近くにあった”暴食の店長”という謎のネーミングセンスの飲食店に咲の肩を抱えながら入る、店内は表の看板のように虫食いだらけというわけじゃなく案外綺麗で、自然の落ち着いた匂いが俺を包んでくれる。
「らっしゃいやせー、お好きな席へどうぞー」
いかついモヒカンを立派にそびえ立たせた店員さんにそう言われ俺はなんかかっこいい雰囲気のあるカウンター席に座ろうとしたが「テーブルにせんか?」と咲に言われたため、口をすぼめながら渋々テーブル席に腰を落ち着かせる。
「で?なんでお前は腹が減ってたんだよ」
和紙のような分厚い紙でできたメニューを開きながら聞く。
「拙者には金がないのでござる」
「ん?そりゃあおかしいだろ、この世界に転送されてきた時点である程度の金があるはずだろ」
「転送?………あぁ拙者は奇怪な術でこの世界に転送してきたわけではないのでござる」
「はぁ?そりゃあどうゆう」
「拙者はこの世界で生まれた人間なのだ」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
開いた口がふさがらないとはこうゆうことなのかとこの時初めて知ることができた。
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