第2話 第一冒険者発見
馬車が砂利道を通り始め揺れる体を抑えるためにけつに力を入れる。荒い木目の座席は乗り心地最悪で尻が痛すぎて痔でもできそうだ。
「やぁやぁこんにちは、私は冒険者の”ルナ”、君の名前は?」
「ルイだ、よろしくルナ」
「ルイか、いい名前だね!!」
はじめての馬車に緊張していた俺に話しかけてきてくれたのは金髪ショートボブのそばかすが目立つ女の子だった、肌の露出が多い子で太っているわけではないのにショートパンツから見える太ももがやけにムチムチしている。
男子高校生には刺激が強すぎるぜ!!
《だいぶ変態な男子高校生ですね》
なぜこんなことになっているのかというとときは20分前にさかのぼる。
「なぁ二号、俺はこれからどうしたらいいと思う?」
《まずは左手の骨折を直すのが優先だと思います》
「そうだよなー、こんな手だと何もできないしな」
草の
「けどこの怪我治すのに2か月くらいはかかりそうだけどな」
《否、この世界には薬草というアイテムがあります、そのアイテムを口にすればその程度の怪我はたちまち治ります》
「なんだよそれ超便利じゃん、それどこにあるの?」
《基本道具屋に売っているものですがここから一番近いのは”バリッタ”という町の道具屋キュリソーです》
「よしじゃあ行こう今すぐ行こう!!」
《了解しました、では一番安全な馬車乗り場までのルートを案内します》
「おう、頼むぜ相棒!」
《私の名前は二号です》
・
ってな感じでこの馬車に乗っているというわけだ。
「君もバリッタに行くの?」
随分気さくな人だな、まぁこの馬車に乗っているのが俺だけで気まずくなるからっていうのもあるか。
「そうだな、俺もその町に行こうと思っていたところだ」
「そうなんだ、じゃあ君もやっぱりあの噂を聞いたのかな?」
「噂?」
「あれ?もしかしてあの噂を聞いてバリッタに行くわけじゃないの?」
「あぁ、俺はこの手を直すための薬草を買いに行くだけだったんだが、ほほぅ、噂ねぇ?」
「ふ、ふ、私知らないよーー?」
できるだけ知らんぷりを決め込もうとそっぽを向いてへたくそな口笛を吹くがもう遅いぞ、その情報吐いてもらおうか。
《まるで悪役ですね》
うるせぇよ。
「そんなこと言ってー実は知っているんでしょう?教えてくださいよー」
「お、お金を払ってくれないと話せないなー」
だろうな、この世界はもう簡単に情報が手に入る日本じゃない、だからこそ情報に価値が生まれる。
ふー、仕方ないか。
「いいぜ、これでいいか?」
取り出したのは初期装備の腰巾着の中にあった大量の貨幣らしきもののうち一つを取り出してルナに差し出すように掌に乗せる。
《その貨幣の名前はバナ、1バナで日本円で言うところの10円ほどの価値がありまます》
了解だ相棒、でもそれ言うの遅すぎたんじゃないかな、だってそうなるとルナの隠したがってる情報には10円の価値しかないって意味になるんじゃないか?
《………》
喋んなさいよ!!
「え、1バナ?」
「………」
あー、もうだめだ後に引けない、真顔でルナの目を見つめるしかない。
(あまりにも豪胆!!この世界において装備よりも重要な情報を買うのにうまい棒ほどの価値しかない1バナだけを掌に乗せておいて一歩も譲る気がないというようなこの瞳、私にはわかる、この子はきっと大物になると………)
「負けたわ、どうやら情報を吐くしかないみたいだね」
「え、あ、うん」
えー急にどうしたんだろう、ミスったのは完全に俺なのになんかうまく行ったんだけど。
………まぁいいか!たった1バナで情報が聞き出せたんだもんな。
「じゃあ話すね、私が知っている噂のことを………」
ルナはムチムチの太ももをこれでもかと見せるように足を組んでから話を始めた。
ねぇ知ってる?バリッタ周辺にはある特異的な魔物が潜んでるんだって、その魔物の名前は”ハンドベア”、推定討伐レベルは32、ウェルツに初めて来た初心者が最初に訪れる町として有名なバリッタ周辺の魔物としては異次元の強さ、しかしその強さに見合った経験値ももらえるんだ。
そこに目を付けたバリッタの冒険者がね………
「待ってくれ、冒険者ってなんだ?」
「あー、それはこの世界に訪れた人間のうち魔物と戦って素材を売ったりしてお金を稼ぐ人達のことだよ、まぁある種の職業みたいなものだと考えていいと思うよ」
「そうか、ありがとう続けてくれ」
俺がそう言うとルナは首を小さくうなずいて再び話をつづけた。
それで冒険者のあるパーティーがハンドベアを10レベル以内の低レベル帯でも倒せる方法を編み出したんだって、それを聞きつけたから私は遠征からわざわざ急いで戻ってきたんだ。
「なるほどな、ところでパーティーってなんだ?」
「………もしかしてルイって最近ここに来た初心者?」
「ん?そうだが」
「やっぱりそうかー、じゃあ初心者ガイドブックも見てない感じだね」
「初心者ガイドブック?」
《通常は腰巾着の中にあるものです》
相棒にそう言われたので腰巾着の中身をもう一度確認したもののそのようなものはなかった。
「いやないぞ」
「え、嘘そんなことってあるんだ!?」
「あるらしいな」
「それじゃあどうやってこの馬車駅までたどり着いたの?」
「え、そんなのAIに聞いてだけど………」
「AIって!じゃあ君”英雄候補”なの!?」
「英雄候補?」
《英雄候補、それは我々AIが見出した"シナリオ"を出現させる可能性が高い人間たちのことです》
え、じゃあ俺って期待されてるの?まさか俺って英雄になるべき人間みたいな扱いってこと?
《·····まぁそうですね》
そんな冷たい反応されるとちょっと傷つくんだけど·····
「まぁ簡単に言えばこの世界を終わらせることが出来る人達って言われてるね」
「終わらせる?シナリオを終わらせるとこの世界は無くなってしまうのか?」
「そう言われてるよ」
《はい、個体名"ルナ"の言う通り、ある一つのシナリオを終わらせればこの世界はおそらく消えてしまうでしょう》
そのシナリオってなんなんだ?
《それは"メインシナリオ"と呼ばれているもので世界の根幹に触れることが出来るシナリオです》
じゃあ他のシナリオはあまり意味ないものなのか?
《そうですね、メインシナリオと比べたら他のシナリオはサブシナリオともいっていいものです、ですが全く関係ないとは言えませんメインシナリオをクリアするにはいくつかサブシナリオをクリアさせる必要があります》
なるほどな、全くの無関係って訳じゃないのか。
「なるほどな、だいたい分かり始めてきたぞ」
「ねぇ、ルイはまだパーティーを組んでないの?」
ルナが前かがみになった時に見えるサラシのような薄い布では隠されないほど大きな胸の谷間に目が行ってしまう。
できるだけ見ないように横に目をそらす。
「まずパーティーがなんなのか教えて欲しいんだが」
「いいよ、パーティーっていうのはね·····」
《パーティーとはこの世界に転生してきた人間達により作られた徒党のことです、"徒党の腕輪"というアイテムをつけてお互いの同意のもとその腕輪を触れ合わせることでパーティーは作ることができ、魔物を倒した時の経験値の分配が貢献度によって分配されます》
と、ルナが説明をしようとしたところで一号が少しデカめの機械音声ボイスで口を挟んできた。
何、説明役を取られて嫉妬でもしてるの?
《··········》
·····その貢献度の判定は誰がするんだ?
仕方ないのでこのまま二号に聞き続ける。
《この世界のシステムAIである一号が公平に行います》
なるほどな、不当な経験値の分配はされないってことか。
「この"徒党の腕輪"を身につけたもの同士で·····」
「あ、ごめん、もうAIに教えてもらった」
「あ、そうなんだ、やっぱり便利だね」
「え、あーそうだな」
二号さんをはっきりと便利と言うにはいささか癖が強すぎる。
「それじゃあ本題なんだけど、私と一緒にバリッタにいるハンドベア討伐パーティー"青龍"に入らない?」
「·····それは·····」
確かにルナと一緒にそこに入れればかなり心強いだろうけど、なんか胡散臭いんだよな、そのパーティー。
《私もあなたの意見に賛成します、この世界における完全に安全な魔物の討伐方法など存在するはずがありません》
ちなみに二号さんは青龍についての情報は何か知らないのか?
《·····最近では女冒険者をかき集めているらしく、何かよからぬことを夜な夜な行っているようです》
決まりだな。
「なぁルナ、そこに入るのはよした方がいい、あまりにも胡散臭い」
「そっかルイは私の心配をしてるんだね、でも舐めないで、私のレベルは15、そこらの冒険者より一段上なんだから」
ルナの顔は険しく眉を潜めており、俺を厳しく睨みつけている。突き出した短剣は俺が持っている初期装備のものだったがまるで違うものに見えた。
どんなことにも揺るがない、絶対的な強さへの自信がその瞳に込められている気がした。
「お客さんら付きましたで、ここがバリッタですわ」
馬車が止まったことによる横揺れが襲った。馬車の騎手が俺達が乗っている荷台の布を上げる。
数時間ぶりに見えた太陽は赤みがかっていてもうすぐ日が落ちるであろうことがわかった。
二の一番に馬車を降りたのはルナだった、軽快な足取りとは裏腹にその表情は険しく硬かった。
「·····じゃあ私は先に行く、私はこの世界を今度こそちゃんと生きてやるんだ、じゃあね」
「………あぁまた会えるといいな」
「うんそうだね」
少し寂しく微笑むルナの後ろ姿を俺はただ見届けるしかなかった。
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