第7話
「パモン!」
「わかってる!!!」
パモンは炎に包まれた動く焼死体達を次々と薙ぎ倒していった。しかし数は減らないどころか増えていく一方だった。
「何なのこれ!!キリがない!!!」
パモンなら一体は一撃で倒せる。だが俺とりとちゃんを守りつつ無数の敵を相手にするのには限界があった。
「しぶといわね。でも、これならどう!?」
更に
「
[
炎と焼死体が俺を取り囲み近づいてくる。俺は炎の熱気と煙で気分が悪くなっていた。打開策を考えないと間違いなく死ぬ。必死で策を考えた。
どうする?
どう行く?
どう戦う?
自分じゃ戦う事はできなし、パモンの力にも限度はある。
何か使える物は……?
「パモン!王冠からビーム!できるだけいろんな方向に!!」
パモンが応えてくれると信じて俺は頭を伏せて叫んだ。
「オッケーダーリン!!!クラウンビーム!!!」
パモンは冠から無数の光を全方位に向けて放った。何本もの光線が焼死体達を蹴散らしていく。だが、死体を一掃する事はできても炎の勢いは止まらない。
「無駄よ。炎がある限りバンデッドは何度でも蘇るのだから」
才苗さんは微笑む。どうしようもない俺たちを憐れむでもなく、蔑むでもなく、淡々と穏やかに事実を伝えてきた。そして焼死体が次々と湧き出そうとしてくる。
でも、ピンチは終わった。俺の作戦が上手くいったのだ。
━━━!!!
突如として大きな破裂音が響く。
そして水飛沫が周囲に飛び散った。
水飛沫は勢いを増した炎を一時的に止めるには充分すぎる量だった。
「何よこの水は!?」
才苗さんは少しだけ驚いたようだった。
焼死体達は炎を消されて、瞬く間に倒れていった。
「貯水槽ですよ。学校の屋上なら確実にあると思ってやたら滅多に撃ってみたんです。どうやら運良く当たってくれたみたいで助かりましたよ」
さも、してやったりみたいな顔をして言ったが内心ではやべー!奇跡的に上手く行ったー!あぶねー!と情けなさ全開だった。
「そこだー!!!」
隙を見せた才苗さんに向かってパモンは飛び込んだ。しかし才苗さんは即座に反応して身構えた。
「ファイアホイール!」
火炎を纏う車輪がパモンの拳を弾く。そして車輪が回転しパモンの体に直撃する。
「本当にイヤなお友達ね……」
才苗さんは呟きながらりとちゃんを見つめた。
りとちゃんは座ったまま怯えていた。
「な、何でなの……才苗さん?どうして、どうしてこんな事するの?」
震える声でりとちゃんは叫んでいた。
才苗さんはにっこり笑って優しい声で返した。
「それはね、りと。私があなたを愛しているからよ。私だけが、あなたを真に愛しているの」
そして少しずつりとちゃんに近づいていく。
コツコツとヒールの音が響く。
「でも他の人間の愛は偽りの物。だから私が偽りの愛でりとが騙されないように燃やしたのよ」
才苗さんはりとちゃんを優しく抱きしめた。
その姿はまるで聖母のようだった。
「あの人達も真にあなたを愛していない。この学校にいた人達もね。だからこうして纏めて燃やすの」
その姿は宗教画のように美しかった。
その言葉は悪夢のように狂っていた。
「……やめて」
「……やめてよ」
「……どうして私の……」
りとちゃんが静かに呟く。
「今すぐりとちゃんから離れろ!」
俺は才苗さんに怒りを覚えていた。
自分だけが愛されたいが為に、りとちゃんが関わった全ての人の命を奪った。それが許せなかった。
だから、何となく、二人のいる方に走った。
何ができる訳でもないのに走り出していた。
「あなたも、りとを誑かすのね……」
才苗さんがこちらを向くと、隙を見てりとちゃんが突き飛ばした。
「━━━りと?」
「返してよ!家族も、友達も、学校も!私の大切な物、全部返して!」
叫ぶ声はとても悲痛な物だった。
顔を真っ赤にしてボロボロと涙を流していた。
「りと、何を言ってるの?偽物の愛なんかより、私の愛が良いに決まってるでしょ?」
才苗さんは不思議そうな顔をしていた。自分のやっている事の意味がわかっていないようだった。俺はそんな顔が許せなかった。
「それは違う!一方的に押し付けるだけで、自分の都合のいいようにしてるだけで、そんな物は本当の愛じゃない!!誰かから奪うなんてやり方は間違ってる!」
自分の中の正論をぶつける。カッコつける気は無かったが、周囲から見ればカッコつけてるように見えるかもしれない。そんな言葉を並べた。もしかしたら以前にも自分はこんな事を言っていた事があったかもしれない。
俺はりとちゃんの側まで近づき、彼女の前に立った。才苗さんの目に光は無かった。
「これ以上りとちゃんからは奪わせない」
そう言い切った。恐怖は無かった。
「こっちを向けー!!!」
その先にパモンは才苗さんの背後で拳を構えた。
「パモンパーンチ!!!!」
才苗さんは光の槍に気づいて二つの車輪を盾にした。そこにパモンの拳が激突し大きな衝撃と共に火の粉が散る。パモンが押し勝っていた。このままやればいける!俺はそう思った。
「フレア・スピン!」
[
だが、突如二つの車輪が回転を始め強力な炎の渦を作り出した。その勢いにパモンは圧倒され吹き飛ばされてしまった。
「パモン!?」
「あっつ!!!何なのこれ!!!!」
パモンはそのまま屋上から落ちてしまう。俺は完全に孤立してしまった。
「いい加減、りとから離れてくれます?」
才苗さんの矛先はこちらに向けられた。だが流石にりとちゃんに目掛けて攻撃はできないはずだ、そう踏んでいた。
だが……
「纏めて燃やすわよ、りと。お友達のせいであなたも。あなたを愛していないから、そんな事をするのよ、その人は」
才苗さんの声に合わせて炎と車輪が一箇所に集まっていく。
そしてこれまで何度も見た巨大な炎の塊が作り出された。
才苗さんは炎の中に消えていくと、炎を纏うチャリオットと共に飛び出してきた。
「これが『カッシャーン』の真の姿、真の力、真の愛よ」
炎のチャリオットは凄まじい熱気を放ちながら高速でこちらに向かってくる。
「やばいっ!!」
俺はりとちゃんを抱えて間一髪で避けた。だが、炎がわずかに足を掠め火傷を負ってしまった。
(やばい……足に火が……このままじゃ)
再び炎がこちらに迫ってくる。今度は避けきれない。せめて、りとちゃんだけでも……
━━━━━━!!!!
[
炎は俺達に当たる事はなく、目の前で止められた。
炎を止めたのは巨大な腕と脚を持つ3m程のロボットだった。
「なんだ?こいつは?」
俺が呆然としていると上空で光る物が見える。
「ベバー!!そのまま止めといて!!!パモンスカイキーック!!!!」
光の正体はパモンだった。パモンは足を構えて超スピードで炎の塊に突撃した。
だが炎の壁は厚い。キックの一撃を受け止めている。
「まだまだまだまだーーー!!!!」
パモンは動けない敵に目掛けて左右を入れ替えながら何度も踏みつけ続けた。
「はあーーー!!!!!」
そしてトドメの一撃に思いっきり踏み込んで炎の壁を貫き、才苗さんに右脚を直撃させた。
炎の塊は消し飛び、才苗さんは吹き飛んで倒れた。
「やった……大丈夫?怪我はない?」
俺は火傷した左脚の痛みに耐えながらりとちゃんに声をかけた。
「はい……大丈夫です。それより
「あはは、確かにやばいかも」
子供に心配されるなんて世話ないなと、少し自分に呆れていたが、何とか上手くいった事に少し安心していた。
「ところでパモン、そのロボットって?」
「あー、これ?!!本当は使いたくなかったんだけど、やばかったから召喚したんだよ!!ワタシの使い魔のベバーっていうの!!!さっきはありがとね!!!」
パモンがそう言うとベバーは魔法陣の中へと消えていった。
「でもびっくりしたよね!!!りとじゃなくてあっちの女の方が犯人だったなんて!!!」
「ほんとだよ、パモンが感じた魔力の流れって何だったの?」
「あの時はホントに同じだったんだよ!!!」
「えっと、お二人って何者何ですか?」
りとちゃんは疑問の表情でこちらを見ていた。
何か言い訳しようと思った。だが……
「━━━━まだ……まだよ」
「な、まだ意識があるのか!?」
才苗さんは立ち上がった。あれだけの攻撃を受けて体はボロボロだったが、それでも精神力だけで立ち上がっていた。
「そこから、消えなさいよ━━━━ッ!?」
だが、才苗さんの胸が突如真紅に染まった。
それは刃物で貫かれた傷だった。
「なに……?これ……?り……と……」
才苗さんの体が誰かに押し倒されたかのように倒れた。
それは明らかに異常な光景だった。だが、俺にはその原因がわからない。
(なんだ?何が起きてるんだ?どうして才苗さんが胸を貫かれて倒れたんだ?)
意識を巡らせてよく聞くと炎の音の中に足音があるのに気づく。
間違いなく、誰かがいる。
「パモン、誰かが近くにいる。気をつけて……」
「━━ああ、気をつけな」
声が聞こえた。
俺の耳元で誰かが囁いた。
低い男の声。それが吐息まで感じる距離で聞こえてきた。
パモンは即座にこちらに注意を向けた。
「おいおい、気をつけろって言ったじゃないか。変に動くとこうだぜ?」
ぐさり。
静かな音と共に激痛が走った。左腕に刃物を刺されたようだった。だが、姿は全く見えなかった。
「うああああああっっっ!!!」
俺は痛さのあまり叫んでしまった。
だが、何事もないように声の主は話だした。
「良い事教えてやるよ。お前が抱えてるそのガキ、あそこで倒れてる女に一週間前に殺されてたんだぜ。んで、さっきまでお前達が戦ってた死体どもと同じように、操られてたんだ」
なにを言ってるんだ、と思ってりとちゃんの方をに目を向ける。だが、声だけの男の言った通り、呼吸は止まり脈動も完全に消えていた。りとちゃんは一切動かなくなっていた。
「そんな……嘘だろ!?りとちゃん?りとちゃん!」
声をかけても返ってくるはずがないのはわかっていた。
「惜しかったな。あの女が死んだら魔術も終わる。そのガキは元の姿に戻ったって訳だ」
男はただ静かに囁くだけだった。
だがその声は俺の無力さを嘲笑うかのようだった。
「じゃあな、ミシーの新人さんよ。今度会う時は命はないぜ」
その言葉と共に男の気配は一瞬で消えていった。足音は炎ですぐに聞こえなくなった。
悔しかったが、出来ることは何も無かった。
炎は激しくなり、俺達は退路がなくなっていた。もう終わりだとは思いたくなかった。
「大丈夫か!?」
だが運のいい事に北見の声が聞こえてきた。
どうやら生徒達の救助は終わったらしい。
「北見ーー!!!!こっちこっち!!!!」
パモンが叫ぶと炎は北見の鞭でかき消されていった。俺達はどうにか脱出する事ができた。
捜査車両内部
「…………以上で本件の報告を終了します」
「そうか。北見君、報告ありがとう。そして、お疲れ様。それと……
「……はい、ありがとうございます……」
画面に映る
「……
「はい」
気を遣ってフォローしてくれたが、俺の心は晴れそうに無かった。
「……東、気を落としている場合じゃない。解決できていない事件はまだあるんだ。すぐに治療して次に行くぞ」
北見さんは相変わらず淡々としてハンドルを握っていた。そうか、きっとこの人はこういう事に慣れているんだろうな。そう思った。
「何だよ北見!!!こっちの気も知らないでさ!!!」
「そんな事ないよパモンちゃん。北見君は多分一番東君の気持ちをわかってると思うよ」
「隊長。報告は終了しました。通信を切断します。いいですね?」
「え?ちょっと?え?」
ツー、ツー
北見は何かを隠すように通信を切った。
そしてふと車内ミラーを見て呟いた。
「パモンがその姿という事は……したのか?」
「え?」
「キスはしたのか?」
意外すぎる質問に俺は驚いた。とてもそんな事を気にするような人間には思えなかった。
「したに決まってるじゃん!!!」
パモンは相変わらずの大声で返した。
すると北見は何か冷ややかな目でミラー越しにこちらを見ていた。
「そうか……したのか……」
「何か気にする事なんですかそれ?」
「いや、何でもない」
「ええ……?」
落ち込んでいる俺は北見さんの謎の発言のせいで、ただただ困惑してしまう。
ただ、間違いなく言える事は左脚の火傷と左腕の刺し傷はずっとズキズキしてとても痛いという事だった。
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