第4話
人は死ぬとどうなるのか。
天国とか地獄とかに行くのか。
生まれ変わったり転生したりするのか。
それとも、何もかもが無くなるだけなのか。
少し興味があった。
光。
光を感じる。
暖かく穏やかな光を瞼越しに感じる。
死後の世界はこんなに優しい場所なのか。
きっと目を開けたら素晴らしい景色が広がってるのだろう。
そんな期待を胸に俺は瞼を開いた。
眼の前には白い天井が見えた。
太陽の光が体に当たる。体はどこも痛くない。
おかしい、俺は死んだはずでは?それともあの世ってのは現代風な場所なのか?もしかして異世界か何かか?と色々思案したが例の声を聞いて確信した。
「あー!!!ダーリン起きたー!!!!」
俺は死んでなかった。だってパモンがいる。
「え……ちょっ」
パモンは俺の肩を揺さぶる。
「もー!!!心配したんだからー!!!!」
耳元で出していい声量ではなかった。頭が痛くなりそうだった。だがそれよりも知りたい事が沢山あった。
「なあ、パモン。ここはどこなんだ?ていうか俺は
「そんな事どうだって良いじゃん!!!!ワタシは三日ぶりにダーリンと話せて嬉しいんだよー!!!!」
三日。
パモンは確かに三日ぶりと言った。俺は耳を疑った。
「ちょっと待って、三日ぶりってどういう……?」
俺が質問しようとした時、部屋の奥の扉が開いた。扉の先にいたのは
「相変わらず喧しいフェアリットだな
「えっと、北見……さん?」
「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな。魔術事件特別捜査隊の北見
北見の眼はあの時と同じで鋭かった。
「ああ、どうも……」
よく見たら北見の体に傷は一つもなかった。俺と同じく完治したようだった。だが、三日の間で完治するとは思えなかった。それは俺も同じだった。だからつい質問してしまった。
「えっと、俺あの後どうなったんです?」
「あの後か?報告によれば『布袋』の攻撃で致命傷を受け、気を失って倒れた。その後治療されてここで寝かされた」
「それっていつの話……?」
「三日前だ」
どうやらパモンの言った事は事実らしい。本当に三日間俺は眠っていたようだ。
「でも俺、怪我治ってますよね?三日で治るような傷じゃなかったと思うんですけど」
「機密事項だ」
「ええ……?」
北見はどこか気まずい表情を一瞬浮かべた。とは言え、一般人に答える筈はない。当たり前と言えば当たり前だ。
北見の目は相変わらず鋭い。
「取り敢えず早くそこから起きてくれないか。休憩室が使えなくて皆困っている」
「休憩室?それってどこの?」
「
「ええ!?なんでですか!?」
「お前が寝ている間にお前とパモンの処分が決まったんだ。そして隊長直々に上層部からの決定事項を伝える」
北見はそう言うと部屋から出ていった。
俺は唖然としていた。正直何がなんだかわからなかったし、何を言われるのか不安しかなかった。あと、パモンの視線がすごく気になった。
「なあパモン、その……」
「なーにダーリン?!!!」
「俺着替えるから外に出てもらえない?」
可愛い女の子の目の前で着替える、裸を晒すのは流石に羞恥心が勝つ。そんな事で興奮する程俺は変態ではない。
「えー!!!別にいいじゃん!!!!」
「いや、流石に恥ずかしいし……」
「契約してるんだしいいでしょー!!!」
「それとこれとは別だろ!」
「でもワタシとダーリンは恋人なんだから、気にしなくてもいいじゃん!!!!」
「こ、恋人!?」
パモンは常に俺の事をダーリンと呼んでいる。恋人と思われているのは薄々気づいていた。
だが実際に面と向かって言われると今までにない恥ずかしさがあった。
「そうだよ!!!恋人だよ!!!!」
「いや、そんな勝手な……!!」
━━ガラッ!!
扉が勢いよく開く。
「喧しい!早くしろ!!」
北見は珍しく大きな声を出していた。
その気迫に押されて俺とパモンは素直に従う事にした。
パモンは渋々部屋を出た。出る瞬間のパモンの顔はとても不服そうだった。
着ていたパジャマを脱ぎ捨てて自分の体をよく見てみた。あの時の怪我は綺麗さっぱり跡形も無くなっていた。まるであの日の事が夢みたいだったかのようだった。
(本当に治ってる……どういう事なんだ?)
支給されていたワイシャツと黒いズボンに着替え、顔を洗う為に洗面台に向かう。そして鏡を見てみた。
そこにはよく知ってるようで、でも見た事がない自分がいた。
寝てる間に剃られたのだろうか、前まで生えていた無精髭は綺麗さっぱり無くなっていた。
天パはモジャっとしていて、整えようと思ったがとてもどうにかできるものではなかった。
俺はこれからどうなるんだろう。
自分の顔を見て思う。
思うだけで何も出来る事はなかった。
休憩室を出ると北見とパモンが待っていた。
北見はオフィスまで案内してくれた。
廊下は無機質でシンプルな物だった。
パモンは静かに着いてきていた。
そのまま進むと突き当たりに扉があった。
ごくごくありふれた扉には『魔術事件特別捜査隊本部 事務所』と書かれていた。
この先にM,I,S,I,の隊長がいると思うと息が苦しくなった。
深く息を吸う。そして吐く。
扉を開けるのは怖い。でも仕方ない。行くしかない。後戻りはできない。
ノブに手を掛けて静かに扉を開けた。
「すいません、お待たせしました!」
思いっきり頭を下げて取り敢えず謝った。
緊張して声は少し震えてしまった。
少しの静寂の後、声が聞こえた。
「あはは。大丈夫、気にしてないよ。さ、顔を上げて」
とても穏やかな優しい声が聞こえた。
こんな風に言われるとは思ってなくて、俺はきょとんとしてしまった。おかげで緊張も少し解けた。
「あ……えっと……?」
頭を上げて正面を見た。
先ほどの声の主が机越しに座っていた。
少しやつれて白髪が混じった頭。スーツを着て眼鏡を掛けた優しそうな中年の男だった。
「はじめまして、東京人君。私は
「は、はぁ」
「君のことは北見君やパモンちゃんから聞いてるよ。三日前は災難だったねぇ」
真中は穏やかな笑顔を見せながら語りかけてくる。俺は思わず安心してしまう。
「取り敢えずこっちに来て、話をするから」
俺は真っ直ぐ机の前まで向かった。
他の机にも隊員の人達が座っていた。
あの日倒れていた
「それじゃ早速だけど、君とパモンちゃんの処遇について伝えよっか」
「……はい、お願いします」
今から何を言われるか、それだけで頭の中がいっぱいだった。もうどうにでもなれ、と心の中で呟いた。
「東君は三日前の夜に魔召喚士の契約書にサインをした。そしてパモンちゃんを召喚して自分を襲った魔召喚士とパモンちゃんが戦った」
「その後事件の調査に来ていた北見君とパモンちゃんが戦ってパモンちゃんと君は確保された。」
「確保された後、布袋と名乗る人物に襲撃されて、北見君達が全滅しそうになった所を東君とパモンちゃんが撃退した。それに間違いはないかな?」
真中はつらつらと事実を並べた。
その言葉に間違いはなかった。
「はい。そうです」
「無認可で魔召喚士になった上で大規模な魔術戦闘を行った。さらにM,I,S,I,の隊員とも戦闘し危うく魔術の存在を一般人に晒しかけた。しかもパモンちゃんはフェアリットとしては異例の契約者と完全に独立した存在。こういったレアケースは未知の危険性があるから、施設で完全に管理される場合もある」
「でも、君は君の意思でM,I,S,I,のメンバーを助ける為に戦ってくれた。パモンちゃんが君の指示に従って、おかげで隊員三人の命も助かった。その事にはとても感謝している。東君、本当にありがとう」
「いえ、そんな……」
自分は何もやっていない。
なんとなく誰の命が奪われるのを見るのが嫌だった。
それだけだった。
褒められるような事はしていない。
「それでね、君とパモンちゃんの活躍を鑑みて私は思ったんだよ。君達をM,I,S,I,の隊員に引き入れたいってね」
「え?」
まさかの言葉だった。
真中は俺とパモンをM,I,S,I,の仲間にしたいと言っているのだ。
「そしたら上層部と結構揉めちゃってね、上層部は君を管理対象にしておくべきだって言うんだよ。で、色々話し合って二つ条件をクリアしたら認めるって事で話がついたんだ」
「そうだったんですか」
真中は首を縦に振る。
「で、その条件の一つ目がパモンちゃんの自由な行動を禁止するって事。そして二つ目が東君が魔術事件を三日以内に一つ解決するってものなんだよ」
「だから治療中ずっと君の事を見ていたパモンちゃんを説得して、東君のこれからを保証する為におとなしくするように頼んだんだ。そしたらパモンちゃん、君の為ならなんでもやるって張り切ってね、ずっと君の側に付きっきりだったんだよ」
そうだったのか。
パモンは俺の心配をずっとしていてくれたらしい。だから今も俺の後ろで静かに立っているのだろう。
「パモン……」
振り返ってパモンを見ると少し恥ずかしそうにしていた。本当は俺にその事を知られたくなかったんだろう。でもその表情を浮かべる理由はそれが本心だからに他ならない。
「東君、ここからが問題なんだ。一般的に魔術事件を捜査して解決するとなれば一週間どころか何ヶ月も掛かることが多いんだよ。つまり今から三日で解決するなんてのはかなりの無茶振りなんだ」
「え、そうなんですか?」
「そう、魔術を使えば証拠は殆ど残らないし、どんなやり方でやったかなんて予想がつかないから目星もつけにくい。基本的に現行犯じゃないと捕まえるのは難しいんだ。でも私は君を何がなんでもM,I,S,I,の一員として認めたくてね、こっちで解決できそうな事件をリストアップしておいてもらったんだよ」
そう言うと真中は隊員の一人を呼んだ。
するとさっき座っていた女性がこちらにやってきた。真中からは相沢君と呼ばれていた。
「はじめまして東京人。私は
相沢はとても丁寧に話をしてきた。俗に言う出来る社会人のそれだった。
相沢は10cmはある紙の資料を渡してきた。そこには地図や被害者のデータ、事件が起きた時間帯などがみっちり記載されていた。
「では、私はこれで。失礼します」
相沢は深々とお辞儀をして戻ろうとした。
「なんか相沢いつもと違くない?!!!」
空気を読まない発言をしたのはパモンだった。
「うるさいわね当たり前でしょ!!初対面で仕事の話なんだから多少は取り繕うわよ!!」
相沢はさっきとは別人みたいに大きな声で反論した。間違いなくこっちが素なのだろう。
「よく見たら机にあった空き缶の山も全部捨ててるじゃん!!!」
「あーも!言わないでよ!!さっき急いで片付けたんだから!!」
そしてまんまとボロを出している。二人の言い争いはとても見てられるものじゃなかった。
「ちょっとパモン落ち着けって!喧嘩するなって!」
「ミナミちゃん、まだ東君いるから!あんまり騒がないの!」
俺と真中は二人の口論を止めにいった、またやってるよと北見は表情で語っていた。
暫くして静かになると真中はこちらに目を向けた。
「あー、えっと、取り敢えず今から調査に行って来てくれないかな東君」
「あ、はい……わかりました」
「それじゃ
「はーい、了解です」
返事をしたのは太った男。あの時は倒れていたから顔を合わせるのは今が初めてだ。
「初めまして、僕は白壁ジュンペイ。ここの会計を任されているんだ。よろしくね東くん!」
なんとも陽気と言うかこっちの気も知らないでと言うか、白壁はゆったりとした喋り方をしていた。
「はい、わかりました」
「えー!!!ジュンペイと行くのー!!!!」
パモンは嫌がっている。目の前でこんなことを言われる白壁が不憫でならない。俺ならかなり落ち込むだろう。だが白壁は気にも止めない様子だった。
「そんな事言わないでよパモンちゃん。北見さんよりはマシでしょ?」
「まあそうだけどさー!!!」
二人揃ってとんでもなく失礼な事を言っている。北見の方を見ると、いつもより鋭い視線を送っている気がした。
「とにかく早く行きましょう。急がないと俺ヤバいんで!」
「ああ!そうだったそうだった!」
白壁を強引に急かして俺は場を収めた。
白壁の空気の読めなさに、俺はぶん殴ってやろうかとまで思ってしまった。
「それじゃあこっちに着いてきてね!」
白壁は扉の方に向かって行った。俺とパモンはそれについていく。
事件を解決できなければ俺に自由は無くなる。
今からやる事に俺のこれからの人生全てがかかっている。
絶対に成功させると決意した。
なんとなく、そう思った。
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ファイルNo????
事件概要
北区連続放火事件
場所
時間
18時から24時
被害
五日間で全焼した家屋が47軒、死傷者は112人
被害者の共通点は一軒家に住む家族である事
その他
一日の間に5〜10件の家屋に放火されている。
一つの家屋が燃えると次に燃えるのはそこから数100m程離れた家屋になる。
周囲の監視カメラには道路上を高速で動く炎のような光が記録されている。
常に南から北に向かっての順に家屋が放火されている。
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