第3話
魔召喚士とは。
魔なるモノ、妖なるモノと契約しその力の一部を持つフェアリットと呼ばれる存在を召喚し変身する事で魔術を扱う力を得た者。
フェアリットとは。
魔召喚士によって召喚される悪魔、妖怪、妖精、魔神、悪神、精霊などの一部分の力を宿した使い魔。姿形も能力も様々である。
そのような事を
パモンはフェアリットである。つまり何かしら魔の力の一部を持った存在という事になる。
「
「上位って……でも何で俺なんかがそんなすごいのと契約できるんですか?俺ただの一般人ですよ」
「何が召喚されるかは契約者との相性なんっす。しかも契約した時点では誰が召喚されるかはわからないんっすよ」
そう言うと滝川は少し表情を曇らせて続けた。
「フェアリットは基本的に善の存在じゃないっす。契約した後で自分や周囲に多大な被害を引き起こすケースもよく見受けられるっすね」
それを聞いて自分を襲った高校生とパモンの事が頭をよぎる。
「正直パモンは危険な存在っすから、上層部から管理対象に選ばれると思うっすね。もちろん契約者であるあなたもっす」
俺は嫌な予感がした。
「それはつまり?」
こういう時に限って悪い予感は的中してしまうものだ。俺にとって最悪な事実を滝川は回答する。
「完全に隔離された場所で管理を受けながら余生を過ごす事になるかもしれないっす。契約を解除できればいいんっすけど、ほとんどのフェアリットは許さないっすから」
「そんな……」
落胆した瞬間、俺が乗っている護送車が急に停車した。滝川は何かを警戒した様子だった。そして滝川の無線機に通信が入る。
「…………了解。すぐに向かうっす」
無線を切ってこちらの方を向く。
「緊急事態っすね。自分は外に出るんでここで待っててほしいっす」
そう言うと滝川は厳重な扉を開けて外に出て行った。扉は重く閉じられる。
部屋はとても静かになった。
俺の側には問題のパモンが眠っている。
元はと言えばこいつが急に現れたせいで俺はこんな目に遭った、と言い切れないのが事実だ。
俺が俺の意思で契約し、結果としてパモンは召喚された。そして俺を守る為に戦ってくれた。
あの時北見と戦ったのも俺を守る為なんだろう。パモンは確かに危険な存在かもしれない。だが、常に俺の事を思って戦っている。俺には文句を言える資格なんてある筈が無かった。
二人きりになってから数分が経つ。
滝川は戻って来ない。
緊急事態とは一体何が起きたのだろうと考えた。
ここからは外は見えないし、音も聞こえない。
滝川がわざわざ見張りを辞めてまで外に出たという事は人数が必要な事態なのだろう。
もしかしたら北見と共に戦っているのかもしれない。北見一人では対処できない程強い敵がいたから呼ばれたのかもしれない。
だが現状俺がそれを知る方法は無い。
━━━━━━!!!!
大きな衝撃が走る。
重力が横へと変わり俺の体は壁に打ちつけられた。
「……いってて」
非常に強い力で車体が倒されたようだった。
何かマズいと直感した。
俺は体を起こそうとした。その時外壁から大きな音が聞こえ始める。その音は例えるなら廃車をスクラップにする時に聞こえる金属が潰れる音のような、いやそれそのものだった。
(何かがこの壁をこじ開けようとしている?)
まごう事なきピンチを前に俺は気が動転してしまっていた。
どうしようもない。
どうにもならない。
どうすることもできない。
諦めるしかない……
「いったーー!!」
声が聞こえた。
振り向くとパモンが目を覚ましていた。
さっきの衝撃で気がついたのだろうか?
そんな事はどうでも良かった。
「パモン!」
俺は叫んだ。
「あ、ダーリン!!無事だったの?!!!」
パモンは平然としていた。
「パモン、急いで壁を壊してくれ!速くここから出ないとやばい!!」
俺はパモンに指示を出した。
聞いてくれるかはわからないが、応えてくれると信じて叫んだ。
パモンは微笑んだ。
「よくわかんないけどそう言う事なら!!」
パモンは壁の前に立ち右脚を構える。
「パモンキーック!!!!!」
真っ直ぐ伸びたパモンの右脚によって壁が吹き飛んだ。
壁の先にいたのは巨大な一つ目の竜の頭だった。
(こいつが壁を開けようとしていたのか……!)
俺は北見が滝川を呼び出した意味がわかった。その姿から強い力を持っている事がわかる。
「パモン、そいつを!」
「わかってるって!!!!」
パモンは拳を構えた。そして一気に飛び出す。
「パモンパーンチ!!!!!」
パモンの光は単眼の竜の体を容易く貫いた。
竜が倒れ俺は壁の外側の景色を見る。そして呆然とする。
単眼の竜の頭は一つではなく複数あった。
周りを見渡すと北見と滝川とあと一人が倒れている。
そして竜の近くにはヘルメットを被った謎の人物が立っている。
そいつが竜を操っていると瞬時に理解した。
だがパモンはその人物を注視しなかった。
パモンの矛先は自分の前に立ちはだかる竜を操る者ではなく、その近くで倒れている傷ついた男、北見の方に向いていた。
「さっきはよくもやってくれたわね!!!!!ぶっ潰してやるから覚悟しなさい!!!!!」
北見の側に降り立ったパモンは倒れている北見を踏みつけようと脚を上げた。
「潰れて死ねよ!!!!ザコ!!!!!」
「ダメだパモン!!その人に攻撃しちゃいけない!!」
━━━ッ!!!!
俺が叫ぶとパモンは直前で脚を止めた。
「何で止めるのさダーリン!!!!!こいつのせいでダーリンは閉じ込められて、危険な目にまで遭わされたんだよ!!!!!」
やっぱりパモンは俺の事が一番なのだろう。その思いが強いから北見を許せないんだ。
でも、だとしても。
「俺は人殺しなんてしたくない!!パモンにもさせたくないんだ!!」
なんとなく、そう思った。なんとなく、誰かを傷つけるのは嫌だなと思った。だから止めた。
「お願いだパモン、俺は生きたいって思ったから君と契約をしたんだ!!誰かを傷つけたいなんて思ってないんだ!!!」
叫んだ。掠れた声を響かせた。
言いたいことは言ったつもりだ。
「何それ?そんな甘ったれた事考えてるの?生きるか死ぬかが大事なら、他人の命なんてどうでもよくない?」
パモンの言葉は鋭かった。さも当然といった顔でこちらを見ていた。確かに間違いのない事実かもしれない。でも、それを認めたらそれこそ俺を襲った高校生と変わらない。今目の前にいる奴とも変わらない。
「でも……!」
言葉が出なかった。自分がこの上なく無力である以上パモンに逆らった所で意味はない。だから何も言えなかった。が……。
「ま、それを言っちゃえるのがダーリンの良い所なんだけどね!!!」
パモンは笑顔を見せてそう答えた。キレイでカワイイ、けれども人間とは違う不気味さや怖さがある。そんな笑みを浮かべて、俺の思いに応えてくれた。
「今回はダーリンに免じて許してやるよ」
パモンは北見に吐き捨てる。
そして竜を操る人物の方を睨みつけた。
「じゃあ、そこのお前、今から潰すから……!!」
謎の人物はこちらの様子を伺って何かを呟いているようだった。
「ほほう、これは中々興味深い。私の『キリリム』の首を一つ堕とすとは、素晴らしい能力をお持ちのようです」
そして今度はこちらに聞こえるように語り始める。
「そこの精悍なるお嬢様、私はあなたのような優れた力を持つ方を探しておりました。どうでしょう?素晴らしき世界を作る為に手を貸しては頂けないでしょうか?」
「は?!」
「おっと、申し遅れました。私はとある組織にて魔術世界の発展を目指して活動しております『
布袋という人物はパモンに話を持ちかけた。
“魔術世界の発展”というワードが何を意味しているのか俺にはわからなかったが、それが力を必要とするものだという事はわかった。
「知るかばーか!!!!お前なんかに興味ないんだよ!!!!!」
パモンは幼稚に罵倒し、布袋に向かって走り出した。パモンは攻めに行く。パモンの力があれば勝てると俺は信じた。
だがここは高速道路の上。衝撃で高架が崩れると大きな被害が出てしまう。だからこそ俺はパモンを信じて叫ぶ。
「パモン、周りに被害は出さないようにしてくれ!!」
「わかった、ダーリン!!!!クラウンビーム!!!」
パモンの頭で輝く王冠から何本もの光線が放たれる。
その輝きは宝箱の宝石のように何色もの光を帯びていた。
布袋は竜の首を操って身を守る。
「なんと!交渉は失敗ですか。なら、力づくでも!」
六本の竜の頭がパモンに襲いかかる。
パモンはそれらの攻撃を容易に避けて布袋との距離をぐんぐん詰める。
そして二本の首を跳び越え、右拳を構えた。
「甘いですよ!!」
布袋は跳躍する。
そしてパモンに目掛けて左脚を突き出す。
パモンは光の槍となって突撃する。
布袋の背中に竜の頭の一つが飛び込み、体を押し上げる。
「パモンパーンチッ!!!!!」
「ドラゴニック・インパルス!」
!!!!!!!!
拳と足がぶつかる。
パモンの攻撃に互角で立ち向かう布袋の力に俺は驚愕した。
「来い!『キリリム』!!」
さらに布袋の元に竜の首が集まってくる。
一本、一本と集まる度に布袋の力が強くなっていく。
このままでは押し負けてしまうと思った。
だから叫んだ。
「負けるな!パモン!!そいつを倒せ!!」
俺の声に呼応してパモンの体が光を纏う。
そしてパモンは叫ぶ。
「最強のワタシが、負ける訳ないでしょ!!!!!!」
パモンに纏う光はより強くなり、光の槍が大きくなっていく。
「なんだ?どこからこの力が!?」
驚嘆している布袋のキックを光の槍が押し返す。
「そこだあ!!!!!」
━━━━━━━!!!!
再び衝撃が走る。
光は空へと広がる。
音と振動が空気を震わせる。
パモンの拳が布袋の胸に届いていた。
布袋は吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。
周囲には竜の頭が全て吹き飛ばされて倒れていた。
「おーっし!!!ワタシの勝ち!!!!」
地面に降り立ったパモンは喜んで笑顔を見せた。そして手を振ってこちらに声をかける。
「やったよダーリン!!!」
俺も思わず言葉を返す。
「ああ!すごいよパモン!」
「まあ、ワタシは最強だからね!!!!」
“最強”。その言葉は嘘じゃ無い。
その強さは俺が知る限り、間違いなく一番だ。
そう信じている。
でも、それが明確な事実とは言えない。
「最強って……さっきまで気絶してたのに?」
と、軽い冗談を言って揶揄おうとした。
きっとパモンは可愛く怒るんだろうなと思っていた。
だが実際に見せた反応はそうではなかった。
「ダーリン!!!!!」
パモンの顔は戦慄していた。
予想外の驚き、そんな顔だった。
でも理由は明白だった。
「……え?」
俺の体を何かが切り裂いていた。
右肩から胸にかけて正面から背中まで届く刃に斬り込まれていた。
刃の先には倒れていたはずの布袋が立ち、手には剣の柄を持っている。
布袋は100m以上離れた距離から俺の体を剣で切り裂いていたのだ。
更に、竜の頭の一つがもう一台の護送車からあの高校生を引き摺り出して飲み込んでいた。
「あなたを手にできないなら、こうするまでですよ、パモンという方……いや、その男のフェアリットのようでしたか。その男が死ねばあなたは消えるしか無いですね。とても悲しい事ですが、仕方ありません。では、私はこれで」
布袋は周囲に煙幕を張って消えて行った。
俺は意識が朦朧としてきた。
体から力が抜けていき息もできなくなる。
「ダーリン?!!ねえ、しっかりして!!!」
パモンは俺に駆け寄って来た。
だが俺は声を出す事すら出来なかった。
俺は死ぬのか?
パモンは消えてしまうのか?
俺は何も出来なかったのか?
人生最悪の日が俺の最期なのか?
視界が暗くなっていく。
ああ、ダメだ。
生きたいんだ。俺は。
死にたくなんて無い。
だが、体は何もかもを失って倒れてしまう。
それだけだった。
真っ暗で静かな世界に俺の意識は溶け込んでいった。
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