シャットダウン
僕が投げ飛ばしたスマートフォンは空高く舞い上がり、そのままスーッと校舎の外へ消えていった。
一瞬、森下とその手下も望月さんも呆然としていたが、すぐに森下が怒号を飛ばしてきた。
「おい!!! テメェふざけてんじゃねーよ!!!」
あっという間に、距離を詰めてきた森下は再び僕の顔面を強打し、続けて脇腹に拳を入れてきた。
喉が詰まり、呼吸ができなくなる。
もはや、なんの感覚もなかった。
ただ、殴られたという感触があるだけだった。
森下の猛攻に続けとばかりに、手下の二人も僕の腕を取り、身動きを取れなくしてくる。いよいよ、意識を失うかも知れない、そんな覚悟をした時だった。
急に、森下の動きが止まったのだった。
「——あ、あ、がっ、が…………」
森下はその場にうずくまると、喉を掻きむしるように悶え出した。
「も、森下くん?」
手下もさすがに驚き、固まる。
「……ど、どうしたの?」
森下は二人の声に応じることなく、血の気が引いたような青白い顔を見せながらこちらを見てくるが、もう遅いのだ。
僕はその場に腰を下ろし、様子を伺う。
森下は苦しみながら、地面を這いつくばり、口から泡を吹いている。
「や、やばいんじゃ……」
「救急車。救急車だ!」
二人は騒いでいるが、森下はついに動かなくなった。だらんと両手、両足を投げ出し、力なく横たわっている。
望月さんは少し震えながら、僕へ視線を送っていた。
それからしばらくして救急車が学校に到着した。
森下は救急隊員に運ばれていったが、一目で状態がわかったのだろう。彼らは何も言うことなく手際よくことをすませていた。
僕はタクシーに乗せられ、近くの病院に運ばれた。
タクシーには望月さんと瀬戸口先生が同乗してくれたが、車内では二人とも無言だった。
僕もその方がありがたかった。
病院で治療を受けると、すぐに帰宅を命じられた。
最後まで望月さんは何か言いたそうだったが、僕は気が付かないふりをして帰ることにした。
サキュバスの彼女は本当に最初から最後までずっと爆笑を続けており、正直、鬱陶しかった。ルックスが好みではなかったら、とっくにブチギレているところだった。
その日の夜、森下は亡くなったと聞かされ、僕は一週間の自宅待機を命じられた。
「いや、だからさ。お前、ホント最高だな」
僕の部屋の上空を飛び回っているサキュバスの彼女は、イヒヒと笑いが止まらない様子だった。
あれから一晩経って、もうお昼になっている。
「そういう使い方をするなんて、開発者側は想定してないんだわ」
「閃いたんだから、しょうがないだろ」
どうしてなのか本当に自分でもよくわかっていないのだが、望月さんに一緒に屋上へ来て欲しいと頼まれたあたりで、最悪のケースを想定していた。
もし彼女が乱暴されるようなことがあれば、脅して、従わせることもできるのではと頭の片隅にあったのだ。
まあ、森下一味が信じるとは思えなかったし、その場合は本当にやってやろうと思っていたのは紛れもない事実だ。
今まで散々暴力を振るわれ、お金を取られてきたのだ。
やりすぎとは思わない。
たがが外れているとも思わない。
実際に病院送りになっているわけだし。
罪悪感など微塵もなかった。
「このルール、そういう使い方があったのか」
ありがたいことにサキュバスの彼女はふむふむと感心した様子でいる。
ミディアムロングの黒髪がセーラー服によく映えていた。改めて見ても、可愛いとしか思えない僕の理想の女子の姿がそこにはあった。
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・このアプリは生涯で一度、一端末にのみインストールできる
・複数端末にインストールした場合、死ぬ
・アプリをアンインストールした場合、死ぬ
・インストールした端末が起動できなくなった場合も、死ぬ
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「要は一度インストールしたら、死ぬまで使い続けないといけないという意味なんだけどな。そうか。強制的にアプリをインストールさせ、その端末を壊せば始末もできるのか」
森下の端末を奪った時点で、端末の所有者が僕になってしまったら計画は失敗するとは思っていたが、その場合、それでも別に良かった。
死のうと思ったことなんて何度もある。ただ、それが実現するだけのことだった。
「学校に行かなくてもよくなったし、どうしよっかな」
僕は空中を旋回している理想の彼女のスカートの中を覗きながら、今後のことを考えることにした。
今日は桃色の下着だった。
相変わらず完全に計算された美しい脚に想像通りの可愛らしいパンティがたまらなて、僕の下半身は元気になるのだった。
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