パパラッチ
僕は帰宅すると、布団に包まり震えていた。
——マズいことになった……。
一部始終を望月に見られていた。
さすがにアプリのことまでは知らないだろうが、僕と教頭が何かしたと思っているようだった。
さらに写真だ。
まさに動かぬ証拠。
教頭は別にいいとしても、僕の情けない姿を学校中にばら撒かれでもしたら恐ろしいことになる。いや、もうすでにクラスのグループチャット上では大盛り上がりなのかもしれない。参加してないからわからないけど。
僕が当初立てた計画だと、次は望月をターゲットにするつもりだった。
もう一度、望月になんらかの嫌がらせをし、辱め、日頃の鬱憤を晴らす予定だった。
それが、この有様だ。
瀬戸口先生から教頭の話を聞いて、計画にズレが生じてしまった。なんで教頭を使ったのか。社会的に制裁を受けてもらうつもりだったのに。よりによって望月に見つかるとは……。
「あの女もヤっちゃえばいいのに」
悪魔の囁き声が脳内に響く。
例の彼女の声だ。
「あいつのほうがお前の趣味に近いだろ」
「べ、別に好きじゃない」
「否定してても、さっきはギンギンだったじゃないか」
指摘されて、先ほどのことがフラッシュバックする。
正直、金髪ヤンキーの金谷は嫌いだ。いじめられているとか抜きにしても、好みでもないし興味を抱いたこともない。
なのに、シてしまった。
「身体は正直だし、誘惑には抗えないんだよ。ククク」
黒髪の乙女はケラケラ笑いながらベッドの周りをくるくると回っている。
スカートがはためき、透明感ある真っ白な太ももが露わになっている。
望月にビビって動悸が止まらないのに、僕の愚息はまた大きくなってしまった。
「ほら、な」
彼女はニヤリとした。
瀬戸口先生からもらった資料から、望月乃々香が住んでいるところは把握している。意外にも僕の家から歩いていける距離だった。
とにかく写真を拡散されるのはマズい。
僕は意を決して、彼女に会いに行くことにした。
地図アプリで場所を確認しながらやって来たのは、見たこともない大きな屋敷だった。高い壁に囲まれ、壁の上には監視カメラが付けられている。アニメや漫画に出てくるような邸宅だった。
近所にこんな家があったなんて今日この瞬間まで知らなかった。
「確かパーティーに行くとか言ってたよな……」
時間は二十一時を過ぎていた。
どんなパーティーで、いつ終わるのかわからないがもしかしたら彼女が帰宅するタイミングに立ち会えるかもしれない。そう思ったら足が動いていた。アプリを使えばあとはどうにかできるという甘い考えもあってなのだろう。
「パーティーってなんだよ。そんなもの一度も参加したことないぞ……」
身なりや周囲の反応からなんとなく裕福な家庭に育った子なんだろうなとは思っていたが、今日の電話のやりとりといい、この屋敷といい、本当に金持ちの娘だったとは。
リアルにいるんだなーなんて考えていると、一時間も経過していた。
あんまり辺りをうろうろしていても怪しいし、かといってインターフォンを鳴らして本人の所在を確認するのも気が引けて、結局近くの公園と望月邸を何度も往復してしまった。
これがうろうろではなくなんなのかと言われれば、否定できない。
それからしばらくすると、大きな黒塗りの車が家の前に横付けされた。
陰からこっそり覗いていると、お目当ての望月乃々香が降りてきた。
暗くてよく見えないが、普段とは違って綺麗なドレス姿であることはわかった。彼女のストーカーである飯塚くんなら涎を垂らすのかもしれないが、僕は手早くスマートフォンのカメラアプリを起動し、彼女を撮影した。
気分はパパラッチだが、彼らよりも数段ゲスかもしれない。
彼女の生年月日はもう頭に入っている。手慣れた感じで、ささっとアップロードを行った。
【アップロードが完了しました】
続いてプレイ内容を入力した。
『帰宅した望月乃々香は誰にもバレないようにこっそり家の外に出ると、会う約束していたクラスメイトと遭遇する。その後、近くの公園に移動すると彼の写真を削除し、お礼として体を触らせる』
送信っと。
我ながら、お礼で触らせるってどういうことだ。こんな内容で大丈夫なのか。と心配していると車はどこかへ去っていった。
あとは彼女が家から出てくるのを待つだけだ。
しかし、それからいくら待っても彼女は出てこなかった。
あれ、おかしいな。
ちゃんと送信できてないのかな?
「——ちゃんとルールを読め」
「え?」
真っ暗な空中から綺麗な声が降ってきた。
サキュバスの彼女だ。
「使うの何回目だ? ホント鈍臭いというか、バカだな」
そこまで言われて、ようやく気がつく。
ルールでは、『送信後、10分以内に対象者と遭遇し、さらに10分以内にプレイ内容に記載した場所に移動すること』となっていた。
つまり、僕は10分以内に望月に会わないとダメなのだ。
「えー、この作戦ダメじゃん」
「やっと気がついたか」
「なんで、教えてくれなかったんだよ。バカみたいじゃないか。僕の緊張感を返してくれ」
「なぜ協力しないといけない。わたしはただ観察しているだけだ」
浮遊している彼女は小馬鹿にしたような笑みを浮かべると、どこかへ消えていった。
「……はあ。帰るか。無駄な時間を過ごした」
今からインターフォンを鳴らして、望月を呼び出すのはさすがに不審者すぎる。
「——はあ? 何してんの?」
帰ろうとした時だった。
またしてもどこからともなく聞き慣れた声が聞こえてきた。
声のした方を向くと、部屋着なのかラフな格好をした望月乃々香がそこにはいたのだった。
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