モヤモヤ
その日の夜。僕は眠れずにいた。
ついに『サキュバス・コード』を自分で使ってしまったという罪悪感とさらなる計画に進む恐怖心に苛まれていた。
それに瀬戸口先生の下着姿も刺激的すぎて、画面の向こうではなく、目の前にいた生身の女性との触れ合いにいまだに興奮していた。
「ククク。夕方ので腹一杯なんだが、また膨れ上がってきたな」
モヤモヤしながら布団に包まっていると、横から憎たらしいほど可憐な声が聞こえてきた。
今晩も彼女はセーラー服にローファー姿だ。部屋の中でも靴を履いているあたり、きっと僕の妄想力が足りないのだろう。
「う、うるさい」
そう抵抗しながらも、頭の中には瀬戸口先生の膨らむところを膨らみ、凹むところは凹んでいる綺麗な流曲線が駆け巡っていた。
あれから学校のトイレで二回、家に帰ってきてから二回もシているのに、まだおさまりそうもなかった。
いっそサキュバスの彼女に吸い取ってもらうか。
「個人差あるが、普通はしばらくしたら治るんだがな。はじめてのお前には少々刺激が強かったみたいだな」
彼女はミディアムロングの黒髪をいじりながら、ニヤニヤしている。
「せ、先生はどうなのかな? あのあと普通に服着て戻って行ったけど」
「さあな。明日が楽しみだな」
それだけ告げると、彼女はスッと虚空へ消えていった。
先生の心配もあるが、それよりも次の計画だ。
これで二人の生年月日は手に入った。あとはどのように仕返しをするかだが、ちょうど瀬戸口先生から面白い情報を頂いた。
これを使わない手はないだろう。
僕は自分でも恐ろしいが、徐々に『サキュバス・コード』にのめり込んで行っているのを感じていた。
翌朝のホームルームでの瀬戸口先生の様子に変わりはなかった。
教室に入ると時、一度こちらをチラ見したような気もしたが何か声をかけられるわけでもなかった。
少しだけ安心した。
その日は普段通りクラスメイトに過度にいじられながら過ごした。
放課後になると、僕は早速行動を起こした。
次のターゲットはいよいよ金谷だ。
彼女は何度も僕をコケにし、周囲から孤立させる言動をとってきた。僕が直接手を下してやろうかと思っていたが、そこへ昨日の瀬戸口先生からの情報提供だ。
ついでなので、教頭もいっぺんに始末してやろう。
ありがたいことに、教頭くらいになると学校のホームページに名前と生年月日が掲載されていた。
あとは顔写真があれば、どうとでもできる。
放課後、教頭は校門の前に立って帰宅する生徒に挨拶をするのが日課だったはずだ。
校門に到着すると、本日も教頭は立っていた。
もうこの際、堂々とすればいい。そういう生徒だと思っているみたいだし。
それにあまり時間もなさそうだし。
「お疲れ様です」
僕は五十代中盤でだいぶ髪が薄くなっている教頭先生に挨拶をすると、そのまま写真を撮った。
「——な、なんだね。君」
僕は無言で立ち去ると、すぐに『サキュバス・コード』にアップロードした。
【アップロードが完了しました】
いつものテキストメッセージを確認すると、あらかじめ用意しておいたテキストをプレイ内容欄に貼り付けた。
これで準備はOKだ。
「今日はちょっと欲望少なめかもしれないけど、我慢してくれ」
「何をする気だ?」
サキュバスの彼女に答えることなく、僕は再び教頭の元へ向かった。
我ながら慌ただしい。
「あ、先生。先ほどはすみませんでした」
教頭は僕の声に反応し、こちらに向かってくる。
くたびれたスーツにくすんだ革靴。
見るからに年配のおじさんだが、この人は学校にる限り教頭先生なのだ。
「……さっきのなんだね。まったく。写真は消しておきなさい」
「あ、はい。それで、先生——」
「話があるなら明日にしてくれ。今日はこれから用事があるのでね」
「……金谷さんなら、まだ教室にいると思いますよ」
「ん? なんだ聞いているのか。どうせ彼女は逃げるだろうと思ってここで待っていたのだが、それなら進路指導室に来るように伝えてくれ。私はそこで待っている」
教頭はそれだけ伝えると、そそくさと校舎へ戻っていった。
もうはじまっているのだ、と僕は息を呑む。
すぐさま教室に戻ると金谷と望月は何人かの男子と談笑していた。
楽しそうにヘラヘラ笑っているが、僕が教室のドアを開けると少し疑うような目をし、声をかけてきた。
「おい、お前何しにきたんだよ」
あまり時間がないので、僕は緊張しながら少々声を張って主張する。
「きょっ、教頭先生が、呼んでたよ。進路指導室に、来いって」
「あ?」
金谷はイラついたように答える。
「チッ。あのハゲうるせーのよ」
「ねぇ、また呼び出し?」
望月が小馬鹿にするように笑った。
「あー、めんど。みんな先行っててー。後から追いかけるわー。たぶんすぐ終わるっしょ」
金谷はカバンを脇に抱えると、僕に目をくれることもなく教室を出て行った。
頼むからさっさと行ってほしい。
チラッと教室の時計を見ると、ギリギリ間に合うかどうかだった。
僕も見届けるために、慌てて教室から去る。出る瞬間、背後から呼び止められる声がしたが、無視した。
これから金谷美涼が辱められることを考えると、胸がいっぱいでそれどころではなかったのだった。
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