ボディライン
やってしまった……。
カメラロールを確認すると、確かに目の前にいる瀬戸口先生の姿がしっかりと映っている。
心臓の鼓動が大きくなってきた。
必要もないのに、生の先生と、写真の先生を見比べてみる。
やっぱり撮影できている。
バクバクを抑えきれず、指が震えてくる。ドクンっと一度大きく、体が揺れた。息を呑む。
——三十分以内でないと……。
手が勝手に『サキュバス・コード』を起動していた。
何度も見た起動画面が映し出され、そして、アップロードフォームが表示される。
「——それでね。学年主任の先生とも相談したんだけど」
チラリと瀬戸口先生の様子を伺う。
言い訳めいたことをまだ話し続けていた。
別にこんな話が聞きたいんじゃないのだ。
僕は先ほど撮影した写真を選択した。そして、今朝、聞き出した生年月日とフルネームを入力し、アップロードボタンをタップした。
1997年10月10日
瀬戸口愛
【アップロードが完了しました】
無機質なテキストメッセージがポップアップされると、続いてプレイ内容欄が表示される。
「——森下くんとか金谷さんとかにも聞いてみてね、それで」
そうだ聞きたいのは、金谷と望月の誕生日だ。あとついでに知っている生徒の情報ももらえれば最高だ。
『相談室にて、瀬戸口愛は呼び出した男子生徒に、自身が担当している生徒の個人情報を渡す』
こ、これでいいのか。
いや、これのどこがプレイなんだ。
プレイって、せ、性的な、興奮だよな……。
僕は紙コップを握りしめ、緑茶を一気に飲み干した。
「——あんまり、みんな知らないみたいなの。何のことですかとか、見たことないですとか」
『相談室にて、瀬戸口愛は謝罪として下着姿になり、かねてより気になっていた呼び出した男子生徒に、自身が担当している生徒の個人情報を渡す』
入力内容を修正すると、下半身が熱くなってくるのを感じた。
奥歯が噛み合わず、ガチャガチャと音が鳴っていた。
指だけではない、体全体が震えているのだ。
先生はそんな僕の様子に気がついているのか、どうなのか今だに話し続けている。もはや何のために呼ばれたのか、意味不明だ。
チラリと先生を見ると、僕は期待と興奮で震えたまま送信ボタンをタップした。
「——あ、そうだちょっと待ってて」
瀬戸口先生は、話すのをやめて相談室を出て行った。
僕は大きく一度息を吐く。
正直、吐きそうだ。
前回とは違って、これから自分がやるのだからそれなりの覚悟もいるし、何より次に何が起こるのかある程度把握しているから余計に緊張する。緊張の先取りなんてあるのかわからないが、もうすでに色々な感情がまぜこぜになっている。
「ごめんなさい。お待たせ」
しばらくして先生が戻ってきた。
まだ、服装は変わっていない。
ただ、プリント用紙を何枚か手に持っていた。
「あのね。去年、相談された時から本当にずっと気にはなっていたの。どうにかしたいなって思ってたし、だから今年は自分のクラスに入れてもらったの」
「どういうことですか?」
「去年から森下くんとそのお友達にいじめられているでしょ。気づかないふりをしてごめんなさい」
先生はそういうと、頭を下げた。
僕は先生のその姿に少しだけ、スッとした思いになっていた。胸のどこかに刺さっていた針が一つ抜けたような、詰まっていた部分にヒビが入ったような、でもまだチクチク痛むし、モヤモヤと苦しい気持ちも残っているような、言葉にしたくてもできないけれども、確かに少しだけ暗い部分に光がさすような思いだった。
「……せ、先生」
何と言っていいかわからず、自分でもそれ以上の言葉が出てこないと思っていた。
が、自分でも信じられないが、まるで思考が誰かに支配されたかのように巡り、そして口が勝手に動いた。
「それが人に謝る態度ですか」
「えっ」
「土下座しろよ」
瀬戸口先生はハッとした表情を見せたが、僕の言葉に従順に従う。
パンプスを脱ぎ、ゆっくりと両手を床について、膝も下ろした。
「申し訳ございませんでした」
教師が土下座して、生徒に謝罪する姿は我ながら痛快だった。
思わず笑みが溢れる。
僕の気分は徐々に上がってきた。普段は抑えている欲望が急激に膨れ上がっていくのを肌で感じる。一度踏み出したアクセルは、もう戻せない。
「脱げ」
はい、と小さく短く返事をし、先生はジャケットを脱いだ。
続いて、ベルトに手をかけ、パンツも脱ぎ捨てる。
ナチュラルカラーのパンストからは紫色のパンティが透けて見えた。フリルと花の装飾が付いているが、ほとんど地肌が見えているような下着だった。普段の瀬戸口先生からは想像できない代物だ。
先生は僕に見られていることを気にしながらも、恥ずかしそうに俯きながらブラウスの裾を徐々に捲り上げ、キャミソール姿となった。美しい曲線を描いているしっとりとした肩が露出している。
僕の視線に頬が紅潮させている先生はさらにキャミソールの肩紐にも手をかけ、肩から滑らせた。するりとキャミソールは床に落ちる。健康的な素肌と、サイズが合っていないのか、少し浮いている紫色のブラが披露された。
僕は口いっぱいに溜まった、唾を飲み込む。
しっかりと引き締まった滑らかなボディラインに、完全に釘付けになっていた。
普段は澄ました顔をしている先生も下着姿になれば、ちゃんとした女なのだと改めて感じた。
顔を赤くした先生は、上と下、どちらを隠すべきなのか迷って内股になり、もじもじしている。
その仕草も僕の心を掻き立てた。
「……あ、あの、これ」
先生は思い出したようにプリント用紙を手に取ると、椅子に座っている僕の横にひざまづいた。
ブラの隙間に視線をやると、チラリと○首が見えていた。
本物を見たのははじめてだった。想像よりも大きく、そしてコリっとしていてとてもそそられる。
「クラスの子の個人情報、です……」
紙を受け取り、視線を落としてみる。
クラスメイトの住所、出身中学、緊急連絡先など一覧にまとまっていた。
もちろん、生年月日もあった。
「どうしてこれを僕に?」
「……備考欄に」
備考欄をさっと順に眺めていくと、いろいろ記載されている生徒やそうでない生徒もいるが、僕の欄には——
【軽度の虚言癖。被害妄想あり。極度の他責思考。コミュニケーション障害】
え、こ、これは……どういう……。
「備考欄は生徒に対する申し送り事項で、去年、教頭先生に言われて私が書きました。これは教員内で共有されてるので、その……あなたがどういう生徒か全員知っています」
開いた口が塞がらないとはこのことか。
今にも爆発しそうな下半身に、さらに力が入る。
「申し訳ございませんでした。これは削除します」
瀬戸口先生は下着姿のまま、僕の足元で土下座をするのだった。
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