にわかごしらえの花嫁は八面六臂の活躍をする(仮)
第一話 数多なる「こんなはずじゃなかった」
違うんだってば。
私が考えてたのはこういう未来じゃない。
というか、そもそもなんでこんなことになってるんだか、本当に訳が分からない。
え? 後悔?
そりゃ、目の前にこれだけいい男が鎮座してるんだもの、後悔はないのかもしれないけど……でも、そうじゃない感っていうのはあるわよ。
「ではオリヴィア嬢、こちらの同意書にサインを」
促され、書類の前に立つ。
傍らには興味なさそうに書類を眺めている公爵令息……エリオット・マクミリアがいる。
私は書類にサインをした。
いいんだろうか。私、オリヴィアじゃないんだけどねぇ?
「これを持って、エリオット・マクミリア並びにオリヴィア・ルナールの婚約の儀を終了いたします」
司祭様が高らかに宣言し、私はにわかごしらえの婚約者となったのである。
*****
事の発端は数日前に遡る。
私はオリヴィア様の侍女として、お輿入れに同席することになっていた、ルナール家のメイドだ。
護衛の近衛隊長と共に、ここ、マクミリア公爵家に出向くことになった。
「あと数刻で到着です」
何度目かの休憩の際、近衛隊長であるハンスがオリヴィアに告げる。オリヴィアは始終浮かない顔で遠くを見つめていた。
「オリヴィア様、お疲れですか?」
私が声を掛けると、苦しそうな顔で無理に笑顔を作り、小さな声で、
「大丈夫よ、セレナ」
と答える。
彼女がこの婚約に乗り気でないことは誰しもが知っていた。まず、お相手のエリオット・マクミリア公爵令息が問題だ。お顔はすこぶるいいらしいのだが、性格に問題がある。どうやら女嫌いらしい。
今回の婚約も、オリヴィアに気があってのことではない。単に家のバランスや年齢などを考慮して決めただけの縁談で、愛などないと聞いた。それどころか、形だけの夫婦を求めているらしいのだから質が悪い。
更に言えば、こっちの理由が主なのだが、オリヴィアは恋をしている。相手は近衛隊長の、ハンスその人である。もちろん、身分違いであるし、結ばれることのない相手だ。今日の同行は、これが最後だという別れの意味もあってのことなのだろう。
「……ねぇ、セレナ」
名を呼ばれ、顔を上げる。
「なんですか?」
「あなた、年はいくつだったかしら?」
「オリヴィア様の一つ上ですが……」
なんで急に年齢を聞かれたのかわからず、首を捻る。
「一生に一度のお願いがあるのだけど」
「なんですか、急にそのような」
「少しの間でいい。私とハンスを二人だけにしてはもらえないかしら?」
涙目で懇願してくるオリヴィア。
「それは……」
「ねぇ、お願い!」
ぎゅっと手を握られ、私は同情してしまう。そうよね、もう一緒にいられなくなるんだものね……。
「わかりました。いいですよ」
つい、そう言ってしまったのだ。
「ありがとう! では半刻ほどここで待っていてちょうだい!」
そう言うと、馬車から小さな荷物を手に取り、ハンスの元へ駆け寄るオリヴィア。ハンスの乗っていた馬に跨ると、二人は颯爽と駆けて行った。
……そしてそれきり、戻ってこなかった。
*****
「嘘っ? なんで? すぐ戻るって言ったの嘘なんけ? どうすりゃよかんべ!」
私は頭を抱え、悩んでいた。感情が高ぶると、
このまま屋敷に戻るべきか、マクミリア公爵にこのことを伝えるべきか……。
「どっちにしたって修羅場だんべな、これ……、」
眉間に皺が寄る。
「大体、な~んで私ってこんなについてないんかな」
人生を振り返る。
そもそも私は、こう見えて転生者だ。
界隈ではよくある話なのかもしれないが、私の場合、大分内容が地味である。元日本人、恋人なしのアラサー女。しかも北関東出身という、花のなさ。転生した先は一般家庭。五歳で覚醒したものの特に何があるわけでもなくすくすく育ち、今は公爵家のメイドをしている十八歳。ああ、地味。
ある意味、今が私の人生において最大の見せ場なのかもしれなかった。
「だったっけら、進むしかなかんべなぁ!」
なんとなく前向きに……あるいはそれを自暴自棄と言うのかもしれないが、とにかく、折角のハプニングなので、先に進んでみることにしたのだ。
私は馬車を走らせ、マクミリア公爵家へと向かった。
*****
出迎えてくれたのは公爵家の執事長、プレスト・クロフォード。厳しそうな雰囲気の髭の御仁だった。
しかし、私の話を聞くや、その顔が見る見る間に青くなっていく。手がわなわなと震え出し、ついにはその場に膝をついてしまう。
「な、ななななんということっ。それじゃなくとも到着が遅いとエリオットさまはお怒りなのに、オリヴィア様がいないなどと、どうしてお伝え出来ようかっ」
「申し訳ありませんっ」
私が悪いわけじゃないんだけど、とりあえず謝る。クレーム担当してた前世の私に言わせれば、中身なんかなくていいのよ。とりあえずごめんなさい、で。
「申し訳ないでは済まされん!」
あらやだ、これもなんだか懐かしい返答だわ! そう、こんな時の返し方は、
「やっとか」
私の返しを聞く前に口を挟んできたのは、
「うっわ、マジでっ?」
私、思わず素で言っちゃった。
なにこの人。めちゃくちゃカッコいいんですけどぉぉぉ!
亜麻色の髪に茶色の瞳。整った顔立ちにシュッと高い身長と、とどめにイケボときたもんだ!
「遅かったではないか、オリヴィア嬢」
めっちゃいい男がめっちゃいい声でなんか言ってる……。
「聞いているのか、オリヴィア嬢!」
強めに声を掛けられ、やっと理解する。あ、私がオリヴィアだと勘違いしてるわけね。
「それが、エリオット様、実は」
「オリヴィア様は賊に遭遇したようなのです、エリオット様!」
執事長がとんでもないことを言い出した。
「はぁ?」
「お付きの侍女と入れ替わり、難を逃れ、ここまで辿り着いた、とのことでして」
口から出まかせが過ぎる!
「そうであったか。大変だったな。では早く中へ。プレスト、夕食までに色々整えてやってくれ」
「畏まりました!」
って、ちょっと、ちょっとちょっとぉ!?
「ではオリヴィア様、参りましょうか」
執事長、このまま押し通す気なんか~い!
******************
はい、これは嫁のボツ作品ですね。
途中まで書いて、要項外れてる感強すぎてやめたのです。
なんかね、方言入れてみたかったんだよ。
でもさ、北関東って言葉が違うっていうより、イントネーションが違うんだよね。
だから字面だとイマイチ伝わらないんだな、って知った…(;´・ω・)
まぁ、嫁とか関係なく、全然別モノとして書けばいいかな、って感じ。
いつかは書くよ。
案は、あるので。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます