魔法少女✨アクア☆マリン(仮)

 ――人間に近付いてはいけないよ。


 どうして?


 ――私たちの存在を知られたら、捕まってしまうからさ。


 捕まっちゃうの?


 ――彼らにとって我々は敵だからね。自分たちの理解を超える存在が現れるとそれは敵とみなされる。こちら側の思惑などお構いなしにね。人間は怖い生き物なんだ。だから、絶対に近付いてはいけない。わかったね?


 ……仲良くはなれないのかな?


 ――臆病で知恵の浅い生き物だからね。自分たちのことばかりで周りが見えない愚か者だ。そんな彼らと仲良く?やめた方がいい。


 でも…


 ――いいかい、よくお聞き。彼らは優しいふりをして近付いてくるかもしれない。だけど心の中は真っ黒だ。信じてはいけないよ。裏切られるだけだからね。


 ……でも…、


 ――命が惜しかったら私の言うことをお聞き。いいね?


 でも……、



 *****


「遠い昔、海に住まいし姫が人間に恋をした……なーんて、そんなイロコイどうでもよくってさ~、単に好奇心とか、そっちの方が大きいんだよなー」

 口をとんがらせ、頭の後ろで手を組み、天井を仰ぎ見るアクア。


「でもっ、だからってあの作文はまずいよぉ……」

 泣きそうな顔でマリン。


 二人は双子の姉妹である。

 そしてここは海の底。

 そう、二人には足の代わりに美しい鱗で覆われた尾鰭がついていた。


「どこが? 地下アイドルがダメなの?」

 不服そうに頬を膨らませる。

「だってね、アクア。地下アイドルって、人間の世界の話でしょ? 私たちには関係ない世界じゃない」

 諭すように、マリン。


「あーあ、地下アイドルになりたいな~」

 ピラ、と雑誌をめくる。雑誌には『A☆A(アングラ☆アイドル)』の文字。海流に乗ってやってきた雑誌をアクアが拾ったのだ。そしてコアな地下アイドルの世界に夢中になってしまった。


「大体、なんで地下なの? 海底アイドルでいいじゃない」

 深いところに潜ってるという意味では同じでしょ、といつも言うのだが、アクアは聞かない。

「アングラ、っていう響きがかっこいいんじゃない! ダークでクールなイメージ?」

「ダークやクールとアイドル、って真逆じゃない……」

 マリンが静かに突っ込む。

「矛盾こそ美学よ!」

 アクア、無茶苦茶な理由付けである。


「まぁ、地下アイドルの話は大して問題じゃないのよ。とにかく私、行ってみたいわけ!」

「行ってみたいって……陸の上に?」

「そう!」

 元気よく天を仰ぐアクア。それを見て大きくため息を吐くマリン。

「でも、私達には足がないわ。まさか魔女のところに行って怪しい薬をもらおうなんて思ってないでしょうね?」

 マリンが不安げに訊ねる。


「それは……困るわ。代わりに声をよこせって言われたら、歌えなくなっちゃうもの。歌えないアイドルなんて、アイドルじゃないじゃない!」

 拳を握り締め、力説するアクア。マリンは半ば呆れながらも、ホッと胸を撫で下ろした。


*****


 その日の夜は、嵐だった。


 嵐の日の海は、うねりが酷い。危険だから外に出てはいけないよ、と大人たちは言うが、うねる波の中を泳ぐスリルはたまらなく魅力的なのだ。


「ねぇ、マリン、行くでしょ?」

 いつもの如く、コソコソとアクアが囁く。マリンは少し困った顔をしてみせはするものの、実際はアクアの誘いを断ったりはしない。嵐の海が、大好きなのだ。

「少しだけだからね?」

 笑ってしまいそうになる口元をキュッと結んで、答える。


 二人はそっと家を抜け出すと、うねる波間を抜けて陸の方へと泳いでいった。

 さすがにこの天候だ。沖に出ている舟などなく、雨の音と風の音、激しい波の三重奏だけが辺りを支配している。


「すごっ! 面白いほど波が踊ってるわ!」

 うねりに体を預け、アクアがはしゃぐ。

「ほんとだ! 変な方向に引っ張られそう!」

 マリンもまた、楽しそうに笑う。が、水面に顔を出した一瞬、なにか白いものが見えた気がして首を傾げる。


「……ん?」

 鳥が溺れたのだろうか?

 しかし、それにしては大きい…、

「あれって…、」

 マリンはとぷん、と水面に潜ると、急いでアクアを呼ぶ。

「アクア、大変なの! 来て!」

 マリンの慌てる顔を見て、急いで泳ぎ寄るアクア。案内されるままに水面から頭を出す。

「こっち!」

 マリンが先を泳ぐ。


 波の合間に白いものが揺れているのがわかる。そしてそれが、人の形をしていることも。

「え? それって、」

 アクアが泳ぎを止める。

 人の形をしている『それ』には、何故か翼もついているのだ。

「えええええっ? これって、天使~!?」


*****


 二人は波間を漂う天使を陸へと運んだ。呼吸の有無を確認すると、弱いながらも息をしているのが確認できた。

「生きてるね」

「うん、生きてる」

 はぁぁ、と二人で安堵の溜息をつく。

 しかし、まさか天使を拾うとは思ってもいなかった。


「どうする?」

「置いていく?」

「大丈夫かな?」

「わかんない」


 陸に上げたとはいえ、まだ波は高く、いつまた水底に引き込まれてもおかしくない状態なのだ。ここに放置は危険だろう。しかし、二人はもうこれ以上陸地に上がれない。地上を自由に動き回れる足がないのだから。


「ねぇ、ねぇ、起きて!」

 アクアが天使の頬をパチパチと叩き始める。

「ちょっと、アクア!」

 マリンが止めようとするが、アクアは止めない。

「だって、きちんと目を覚ましてもらわないと。ここに置いて行っちゃったら、また溺れちゃうかもしれないっ」

 何とかして救いたいのだ。その気持ちはマリンも同じだった。大きく頷くと、天使の耳元で声を上げる。

「もしもーし! 聞こえますかーっ? 起きてくださーい!」

 そうこうしていると、天使の瞼がピクリ、と動いた。


「……う、ん」

「気が付いた!?」

 アクアが顔を覗き込む。うっすらと開かれた瞳は、美しい菫色だった。

「ここ……は、?」

「どうして嵐の海に落ちちゃったりしたのよっ? もう少しで死んじゃうとこだったんだからね!」

 アクアの言葉に、天使が我に返る。


「そうだ、私はっ!」

 ハッと息を呑みながら懐を探る。そしてコンパクトを見つけると、安堵し、改めてアクアとマリンに顔を向けた。

「あなたたちが助けてくれたのか。ありがとう」


 ドキッ


 雨に濡れた金色の長い髪。宝石のように美しい菫色の瞳。柔らかく、すべてを包み込むような微笑み。アクアとマリンは、今まで感じたことのない感情に心が囚われているのを感じていた。


「助けてもらっておいてなんだが、もう一つ頼みがあるんだ」

 天使はそう言うと、二人に秘密を打ち明け始めた。






******************


これ、実はアイチョロ書くよりずっと前に書いてる話です。

アイドルの話が書きたかったわけではなく、魔法少女の話を書きたかったんだよなぁ、確か。

感じとしてはアニメ化(プリキュア系)をバリバリ意識して書き始めた話。

これはね、いつか書くよ。

案は、あるので。

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