二十八本桜 大和の奥義
大和は双小太刀、上弦と下弦を抜く。それに対しジェドも短剣を構える。
「口では恨み節を漏らしているが、奴はまだ本気を出すつもりがない。何が何でも先手を取れ、大和」
私の考えを察したか、大和が攻撃を仕掛けた。
試合開始の
「試合、見てたぜェ。とんでもない成長ぶりに正直驚かされちまった。けどなァ……」
やはり固さが出ている様子で、普段の突きと比べればかなり遅い。簡単に小太刀を弾かれてしまう。
「俺様には通用しねェ」
体勢を崩す大和に向けてジェドが短剣を振るう。咄嗟に反対の小太刀で防御するが、見た目に反して相手の攻撃は重い。
「ぐっ……!」
「どうしたァ! そんなに斬り刻まれたいか?」
刃のぶつかり合う音と火花が散る。防戦一方で、ついに舞台端まで追い詰められた大和。
「まずは右肩から抉ってやるよォ!」
逆手に持ち替えた短剣が振り下ろされる。大和は下弦を舞台に突き刺し、なんと場外へ向けて跳躍。
「うわぁっ⁉
絶叫するエヴァの言葉通りにはならない。下弦を掴んだまま独楽のように空中旋回。
「おおっ? なんだそりゃ!」
流石のジェドも驚きの声。形勢逆転、敵の背後を取った大和の一文字が繰り出される。
「うおっとォ!」
なんということか、相手は背中へ腕を回し、死角からの攻撃を防いでしまう。
だが大和の攻撃は、ここで終わらない。
即座に下弦を床から引き抜いて真向斬り。マンティコアも沈黙させた十文字斬りだ。
「それはさっき、見させてもらったからなァ!」
読み切っていたジェドは短剣を頭上に構え、二撃目を防ぐ。再び攻守交代――かと思いきや。
「うおぉおおおおおおおおぉッ!」
大和は鍛え上げた体幹と軸足で身体を捻り、更に一文字を発動。これにはジェドも予想出来なかったらしく脇腹に一撃を食らう。
「――ぐぅっ⁉……テメェ……ッ!」
更に更に間髪を入れず真向斬り。まさかの十文字二連発にジェドの得物は耐えられなかった。
バキンと音を立てて短剣の刃が割れる。舌打ちをしながら距離を図ろうとするジェドに大和は――。
「おおおおおおぉぉぉおおおおおおおおッッ‼」
三度目の十文字斬りを敢行。残ったもう一本の短剣も武器破壊を起こし、ついに無防備となったジェドの肩へ真向斬を直撃させる。
「
「が……っ! ナメん……なァッ!」
「あぐっ!」
ジェドは大和の腹を蹴り、攻撃を止めた。
「「「う……うぉぉおおおおおぉおおおっ⁉」」」
凄まじい応酬が止まり、固唾を呑んでいた観客が一気に声をあげる。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」
当然だ、普通ならば無理な捻りの乱発により腕や足の筋繊維は切断されている。それを体力の消耗に留めておけたのは修行の賜物でしかない。
「……やりやがったな、テメェ……」
怒りに打ち震えながら、ジェドは使い物にならなくなった短剣を捨てる。
「一つ、俺様の質問に答えろ」
攻撃を受けた肩と脇腹を擦りながら問う。
「何故、峰打ちにした? フザけやがって……!」
ギリ、と奥歯を噛みしめる音がした。大和は指で汗を拭いつつ答える。
「……無駄な殺生は……師匠から、禁じられてる」
「剣聖か、気に入らねェ。いつも上からモノを言いやがってよォ……弟子だか何だか知らねェが、奴の言いなりになって楽しいか?」
「……何を言ってるんだ? アンタ……」
「他人を信じるなんざ、くだらねェっつってんだ。テメェ、奴が死ねっつったら死ぬのかよ」
くだらない話だ。それに対して大和は少し考える素振りをして、だがハッキリ答えた。
「死ぬぜ?」
適当を言っている目ではなかった。それに気付きジェイドは言いかけた言葉を飲み込み、腰に下げた別の得物を両手に構える。
「……上等だ、もうガキだとは思わねェ。こちらも本気を出させてもらう」
禍々しい
「あれは……
片方に神経毒、もう片方に出血毒の
「硬度や軽さは
エヴァが説明した通り、人間を相手に使って良いものではない。
「
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