常葉稲荷Scream

釣ール

その心は荒む

 ー二◯二×年某月某日



 ただただ報われないが、不幸でもない毎日を鳥のさえずりと共に迎えては、起きての繰り返しだった。


 かつて日本では一時期AI作品が叩かれていたが有権者の作品や言葉に疲れた一部の人間が


「やっぱり人間って馬鹿じゃない?」


 と気がついて見捨てた側がAI作品を支持し、また人間を肯定していてはいるが有権者を嫌っていた層との利害が一致して作られた「幽体AI」が評価された。


 インターネットでもAIアプリやソフトが人間の愛と憎しみなどが数値化されて売られ、中身なかった啓発本や情報商材の代わりにAIが作った芸術が溢れるようになった。


 経営悪化で倒産したロボ開発者と、新しい霊体技術でライバルスピリチュアル会社を叩き潰すため、占いとロボがAIによって丁度良いコンテンツとしてマネタイズされた。


 その実験によって生まれた『光虫』が、AI不支持者を教育して


「それまであなたが綴った歴史や作品をもう見せる必要はないのです。

 それはあたたの死ではなく、その経験をAIに頼めば同じようで違うあなただけのコンテンツを本来届けたい誰かへ提供できる。」


 そのように説得をし、話を聞いた者はAIを支持しなくとも金銭を出してはくれるようになり、光虫はアップデートを繰り返していった。




 ーある日




 私は光虫によってインプットされた場所へ誘われる。

 AIによるディストピア社会は下手に人間が管理せずに済むので選挙カーは廃れ、老いぼれた町役員は遅れた文化を押し付けるだけの終わった人間へと変貌し、AIによって集められて介護させられている。

 AIはお年寄りに合わせた綺麗事を上手く扱うだけでなく、彼彼女らの童心に合わせたセラピーを行えるので若者と年配者との間はますます広がり、多様的な生命体となったAIは人間を殺さず、生かして共存している。


 意外とAIは倫理観がしっかりしていて、もう「歴史の闇」は人間だけが持つ汚点であり、地球に残る人間は若くてももう時代遅れと人間同士が実感してコミュニティを形成している。

 働かなくてもいいし、夢を目指してもいい。

 勿論夢を目指す場合はセラピストが数多の人間や動植物の歴史を手に入れているので誰かが通った似たような世界を追体験できるだけで満足できるのだ。


 もうそれで充分だ。

 光虫はなぜ広場に行っただけの私にこんな遠出をさせるのだろうか?

 説明不足だが流石にどこでもドアはAIでも難しく、ショートカットした交通機関でも目的地にたどり着くのに一時間半はかかった。



 目的地は自分が昔住んでいた家だった。


「人間が遺した無形文化財」としてAIに保護され、なんと思い出の品も全て完璧に保存されている上に持ち帰ってもいいようだ。

 だから光虫に選ばれたのかもしれない。



 屋根裏部屋まで誘われ、光虫が照らす部屋を探索すると多くの写真や手紙が残っていた。

 AI関連のおかげでやっと縁が切れた家族との屋根裏部屋に、いくら光虫に誘われたからって何故きたのか?


 それはAIによる作品補助として「歴史の闇」を提供することが対価だったからだ。

 闇を払って未来を手に入れ、今は本当に最高の人生を送らされている。

 もう家族なんてコミュニティがなくても充分住み分けされているからこんな思い出は肥料にしかならない。



 今じゃ愛や希望は別の言葉として変換されている。

 ただ闇だけは人間だけがもつとAIはよく語っていた。


 いつ滅んでもおかしくない種族である人間。

 AIへ学習をさせる人間はかつて猛威を振るっていた占い師だとか面白くないお笑い芸人とか老いぼれたキャスターばかりだったのにその人間達の主張はAIが姥捨山のように作り出した秘密の場所へ放り出され、その人間達も「誰かを踏みにじったポンコツ」と片付けられた。

 逆に言えば今、残っている人間達は何も主張せず、何も感情を持たず、何もできない人達だ。



 私には日常でやりたいことを見つけ、突き動かされるのが好きなタイプだったからそのやりたいことをする許可をAIから貰う必要があり、この「歴史の闇」を提出することにした。


 これを出せば確実に今まで通りの世界では暮らせなくなる。

 でもそれぐらいしか人間の抵抗は出来ない。

 AIによって統制された社会も人間より遥かにマシだが、それでもここまでAI任せにしなくても共存できないのか考えた。

 光虫もハナからそれが狙いかもしれない。

 それなら対策されるのかな?

 私はこれでもAIのおかげで家族を捨てて、捨てた家族も幸せになっていて毒どころかお互い、いいことしか言わない。


 でも、それがなんだかつまらなくて。

 どこかで同じ気持ちのAIや人間がいないかを探すためにもう見たくない過去を引き渡すのだった。


 利害の一致。

 どこまでもそれだけは変わらない。

 落胆の溜息は幸せでも溢れるのだから幸せも遅れた表現だと分かっているのに思い浮かぶ。


 結局寿命尽きるまではこのままなんだな。

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