第28話 恋愛観はそれぞれですが

めいは反対?」

「あたしは……。かなでが、弱いトコとか、他人に攻撃されてるトコを見せたくなかったり隠したい気持ちも、分かる。だから本当は、気付かれないまま解決! っていうのがカッコいいかなって思うけど。まあ、無理だよね」

「難しいでしょうね」


 友人たちの行動の意味を悟らないほど、奏は無神経ではない。


「しゃーない、言おっか。別に奏が悪いわけじゃないんだしさ?」

「うん。それじゃあ、行こう」


 立ち上がった由佳梨ゆかりに続き、盟とリリティアも席を立った。


(鬼の宿主が学園内にいることも放置はできませんが……。まったく、困りごとだらけですわね)


 とはいえそちらは現在、探し出す目処さえついていないので仕方ない。

 屋外に出るため、昇降口に差しかかたところで、盟がふと足を止めた。


「あれー? 昨日ポスター貼られてなかった?」

「本当だ。もう剥がしちゃったの?」

「まあ。よくご存知でしたわね」


 貼ったその日に破かれた、魔除けのポスターである。正直、存在を認識している人さえいないのではと思っていた。


「だって、生徒会が作ったポスターだったじゃん?」

「うん。宮藤くどうさんも大変そうだね――って話してたから」

「……まあ」


 生徒会のポスターは、盟や由佳梨にとってただのポスター一枚ではなかった。

 友人と関わりのある仕事、という意識で見ていたのだ。

 それは盟や由佳梨が、そしておそらくは奏も、リリティアのことを気に掛けている証である。

 ――正直に言って、嬉しかった。


「ありがとうございます。不備があったので、一度撤去したと聞いておりますわ」


 そんな彼女たちに、わざわざ怖がらせるようなことを言う必要はない。


(ポスターを見たということは、少なくとも彼女たちには魔除けの効果が出るはずですし……)


 そんなことを考えながら、罪悪感も一緒に湧き上がる。

 相手に向けている気持ちの差で、優先順位が生まれてしまうのは当然のことだと思って来た。今でもその判断が覆ることはないと断言できる。

 それでも今のリリティアは、自分の大切な相手の無事だけを優先したことに、罪悪感を感じた。


(頑張らなくては)


 現実の被害が生まれてこの罪悪感が心に傷を付ける前に、鬼を何とかしなくてはならなかった。


「へー……。気にしいなのかな?」

「でも、分かるかも。七世代ななよしろ先輩って完璧主義者っぽい感じ、しない? つづり会長は大らかな感じがあるけど」

「確かに」


 直接話したリリティアからしても、盟や由佳梨の持つ印象と大差ない。


「あー、やっぱり? 外から見てる分にはカッコいいけど、近しくなると微妙だったりすることあるよねー。璃々りり的にはどのライン? アリ? ナシ?」

「……え」


 もの凄く予想外の問いかけをされた気分で、リリティアは間の抜けた声を上げてしまう。


「ナシの反応かな、それは」

「ええと……。わたくし七世代先輩のことは、盟さんに紹介するべき殿方、というつもりでしか見ていなかったものですから」


 権力最重視だった当時のリリティアからすれば、守仁かみひとの立ち位置は夫として不充分だった。そういう意味でも、相手として考えなかったのだ。


「うん、璃々、そゆとこ真面目だよね。自分で言うのもなんだけど、あたしが求めてる彼氏ってそんな重いものじゃないから気にしないでね?」

「夏休みに付き合い始めて、クリスマスには別れてる感じ、あるよね……」

「そこまでいい加減なつもりもないよ!? 由佳梨はあたしを誤解している!」

「ご、ごめん」


 ポロリと出た本音なのだろうが、中々に辛辣だ。


「正式にお付き合いを始めるのなら、やはり結婚を前提に考えるべきでは? 花を渡り歩く殿方の評価は低いものですが、女性にも同様のことが言えると思いますわ」

「歴戦の魔性は一目置かれる気はするぞ? 男でも女でも」

「でも、結婚相手にはしたくないよね? 盟が浮名で世間を席巻したいなら止めないけど……」

「あー、もー。璃々も由佳梨も考え過ぎ! あたしは高校生活の彩りの一部として、彼氏欲しいなーって思ってるだけ!」


 盟の主張に、リリティアと由佳梨は顔を見合わせる。


(共感はできませんが……。そういうものなのでしょうか?)


 リリティアの常識からすると、己に傷を付けるだけの行いだ。由佳梨も賛同はしていないから、少なくとも意見が違っていても大丈夫な議論であるとは思われた。

 だとするなら、言うべきことは一つだけ。


「お付き合いをするときは、その考えをしっかり伝えてからが良いと思いますわ」

「うん。相手が将来までを考えてたら、きっと盟とは合わないから。お互い時間の無駄だよね。どういう恋人関係を望んでるのか、話し合った方がいいと思う」

「分かった分かった。分かったってー」


 両手を挙げて降参を訴えつつ、盟は話を打ち切った。


「ほら、もう飼育小屋見えてきたしっ。相手さえいないあたしの恋愛とかより、今は奏のことでしょ!」

「そうだね。今はいないんだもんね」

「いないよ畜生!」


 吠えて肯定しつつ、ウサギ小屋へと近付いて行く。


「――あれ!?」


 小屋から出しての運動タイムだったのか、小屋の周りの芝生でウサギたちが嬉しそうに跳ねていた。

 その中の一匹を膝に乗せて座っていた奏は、すぐにリリティア達に気が付く。


「やっほー。遊びに来たよー」

「ごめんね。少し話したいことがあって」

「ううん、大丈夫。柵から出ていく子がいないかどうか、見てるだけだから」


 大体のウサギは、自分に許された遊び場の範囲を理解しているようだった。あえて柵の外側に意識を向けている個体は少ない。

 しかし少ないということは、いるということでもあり。


(あら)


 一匹のウサギと目が合った。

 ウサギはどこか警戒する様子で、距離を保ったままリリティアを見詰めている。


(さては、この前の子ですわね? 確か……)

「レオニー」


 名前を口にすれば、耳を震わせた。呼ばれたことを理解している。

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