第11話 Quick Winter

 冠明祭が終わり、時が過ぎていって季節は冬の12月になる。12月にもなれば、流石に寒いので僕や美琴、七瀬さんは厚着をしているのだが、何故か冬瓜は今だに薄着でいる。やはり、冬瓜は何処かおかしい。僕はそう思いながら、今日も冠明高校に歩をすすめる。12月といえば、みんなは何をするのだろうか。去年は受験で勉強ばかりだったけど、普通ならリア充が蔓延るクリスマスとクリスマスイブに1月の新年の始まりを待つ年越しなどの他に学生にある冬休みだろう。みんな思うだろうが、冬休みはとても短い。なのでどう過ごすかも大切である。そのため冬休みにみんなと遊ぶのを誘ったら、冬瓜は


「ごめん。その日は母さんの実家に行くから無理なんだ。」


七瀬さんに関しては……


「ごめんなさい。その日に関してはバンドのみんなで遊びに行くから……ごめんなさい」


そして、美琴は


「ごめん、夏にやっていなかったことをやらないといけないから……」


この始末。今年の冬は久しぶりに1人の落ち着いた休日になるだろう。この冬、僕は久しぶりに本当のボッチになった。

 冬休みに入って、僕は久しぶりにネッ友と話しながらオンラインゲームをして遊んでいる。最近までは、夏休みに入ってから美琴達と遊ぶようになって、文化祭などのイベントを初めて楽しんでいた。そのためか今日までゲームはほとんどしていなかったため、みんなと距離感が少し離れてしまった。そんな少しだけ暗い状況の中で、フレンドの1人であるプレイヤー名『いなり』が話しかけてきた。


「巧、最近ゲームひらいていなかったけど、何かあったのか?」


巧。それは僕のゲーム内での名前だ。僕は、いなりの質問に対し少し間を開けてから話し始める。


「そうだね、夏から今日にかけてまでに色々あったよ。初めての友達ができたり、その友達とどこか遠くに遊びに行ったりしてさ。とても充実していたね」


「巧、お前やっと友達が出来たのか、それに関してはおめでとう。でもここにも友達がいることを忘れんなよ。ここにいるみんなお前の友達なんだからな」


その言葉にふと視界がぼやける。この感覚を僕は覚えている。初めて友達が出来た日、美琴と友達になった日にあったことを覚えている。これは嬉し涙だと。


「ああ、そうだな。僕達はこれからも友達だ」


少し震えた声で出した言葉に、みんなは慰めるような声で答えてくれた。


「「おう!」」


その後、夜遅くまでネッ友と遊んだ。


 冬休みになってから少し日が経ち、今日は新年つまり元旦である。僕は、今日も1人で家を出て、近くの古い神社が建っている山をのぼっている。山といえば中学時代のことを少しばかり思い出してしまうが、もうそんなことは忘れようとあの日から決めている。でも一向に忘れることはない。あの時の記憶が今の僕を成り立たせているのだから。過去を少し思い返していると、僕は神社の鳥居まで足を運んでいた。神社には、新年を迎えたのにほとんど人がいなくそこらに2、3人見える程度だ。その静けさのある神社で僕は賽銭箱に5円玉を放り込んで、お祈りし、その後は毎年家ではこそこそとやっていたおみくじを引く。ちなみに、おみくじは去年までの6年間は連続で凶が出ている。もう凶は出なくていいほどなので今年こそは、凶以外でなんでもいいので他のものが出て欲しいところだ。


「今年のおみくじの結果は……

吉。まあ欲を言ったら大吉がいいのだが、やっと凶ではないものがでたことに少し感動を覚える。


「去年の1年間は、友達が出来たからなのかな……」


そう言葉をこぼして、僕はおみくじの紙をポケットの中に入れて神社近くの丘に向かった。

 移動した先にある丘は、街を一望できるほどのいい景色が見られる場所だ。この場所は、初めてこの街に来た時に探索して行き着いた僕だけの場所でもある。僕は景色を見ながらこれまでの人生を思い返す。『親殺し』と呼ばれて、幼少期から友達が出来ず、初めて出来たと思っていた友達に裏切られ……。それから、家を追い出された。けど、今は高校で一人暮らしになってから。美琴や冬瓜君、七瀬さんといった心から信頼できる友達ができた。だからこそ、今の僕がいる。今だって大雅のことは許せないけど今はそれ以上に、みんなとの生活を楽しみたい。僕はそう思いながら、崖からの景色を日が落ちるまで見届けていた。

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