第10話 祭りの空は哀の空(後編)

 僕は1年4組の教室から逃げた後、先輩のクラスのお化け屋敷や別クラス屋台などの出し物を楽しんだ。まあ、4組のあの雰囲気を記憶から忘れたいからです。時計を見ると今の時間は2時50分、確か3時から体育館で冠明祭もメインである、ステージ発表がある。大体は見て回ったから見ていこうかな。僕はそう思って、校舎から体育館に向かった。冠明祭のステージ発表は、他の学校のように好きなことをステージの上でみんなを盛り上げる為の学校全体の出し物だ。もちろん人気があるため、生徒会の方でオーディションをして出る人を制限している。激戦の中を勝ち上がった人たちの発表はみんなの楽しみである。そして今、照明のおとしてある体育館全体に声が響く。


「こんにちは!冠明祭実行委員会です。これから始まるのは、冠明祭のメインイベントであるステージ発表となります!このひと時を楽しんでいってください!」


実行委員会の言葉のあとに体育館全体が拍手の音で広がる。その中でも司会は、話す。


「まず、一組目の発表です!グループ名『サマーミスト』」


始まった。ステージ発表には、どんな人が出ているのだろうか。僕は心を躍らせていたのだが、その時楽しみと同時に驚きもした。だって……


「サマーミストは、一つのバンドグループでリーダーとなる一年生の七瀬優美が中心のバンドグループです」


正直このことには驚いた。七瀬さんがバンドをやっていると思ってなかったからだ。むしろ、ギターを弾けたことに驚いた。僕が驚いている中、七瀬さんのバンドの発表が始まる。


「どうも!サマーミストです。私達のバンドを知っている人はこの学校にも、この地域の人たちも少ないと思います。話が長くなるのもあれなので、行きます!一曲目、サマーミストで『霧の栄光』」


音が流れる。心が躍る。曲がみんなを盛り上げる。七瀬さんがボーカルギターをやっていたから、少し落ち着いた曲かと思ったらバリバリで激しい曲調だった。そして、聞いたこともない曲。おそらくオリジナル曲だろう。そのうえに、バンドメンバーの息がぴったりだ。変拍子であるにも関わらず、一度もミスをしないドラム、自分の感情が籠ったギター、そして絶妙にあうベースの音、そこに七瀬さんの普段とは違った張のある声。これらが体育館全体を盛り上げているのだ。僕は、七瀬さん達のバンドの気合いのある曲を耳に響かせて、一曲目から最後までを脳に染み込ませるまでステージ発表を楽しんだ。


「ありがとうございました!私達のバンドに興味を持った人はぜひライブハウスに立ち寄って下さい。以上でサマーミストのステージ発表を終わります」


拍手が体育館全体で響く。その後も次々と発表が続き、部活の先輩方によるお笑いネタを披露したり、他学年の人達がダンスを踊ったりと、2時間の間に様々なものをみた。


「あっという間に終わったなー」


時刻は5時を過ぎ、空は夕焼けに染まりつつある。僕達の冠明祭は夜まで続く、予定的には僕達のクラスの出し物で使った材料を買い足して再開する手筈なので、僕は教室に一度もどっていく。


「三月さん。いいところに来た!調理の方を手伝ってくれる?」


僕が教室に戻って来た頃には、再開することは伝えていない筈なのに行列が出来上がっていた。


「わかった。今行く」


僕はそう答え、制服を着て調理を始める。注文の速度は、昼よりかはマシだけど作る量が多い。まあ、時間的には夕食どきに近いからだよね。僕はそう考え速攻で料理を作る。時間は1時間ちょっと経った頃行列の最後の方が教室内に入って、落ち着いてくる。


「三月さん、昼に続いてごめんね。お疲れ様、後は私達がやっておくからゆっくりぶらついてきたらどうかな?」


「ありがとう。それじゃあ、そうさせてもらうよ」


そうして僕は一仕事を終えて、教室を後にする。時間は6時24分、空が夜空に染まりつつある。冠明祭は、最後に花火が打ち上げられて終わりを迎える。僕は見晴らしの良い屋上に足を運んだ。屋上に着くと、人影が2つ見えた。1人は男性、もう1人は女性のようだ。まさかこの展開は、と思い避難をしようとする。しかしもう遅かった。


「友子!好きだ付き合ってくれ!」


その言葉に僕は、転がりながら階段を下る。僕は、人付き合いは嫌いだ。ましては、恋人などもってのほかだ。最近までの僕は友達ができたり、海に遊びにいったりと、浮かれていたけど、僕にあれを見ていることは到底無理です。ああ、リア充は爆発しろ。花火の音が響く学校のなかで、今日の思い出とさっきの光景を頭に残してその場を去った。盛大に楽しんでいたみんなの祭りの空は愛の空、それでも僕の祭りの空は哀の空だったんだな。そうして僕は、よく分からない感情を持ったまま家への帰路を辿るのであった……。

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