第7話 夏と一人に群青を(後編)
僕達は今、海に来ている。それは、思い出作りのためだ。それで現在、各々で遊んでいる感じである。美琴と七瀬さんは、海で水浴びやら泳いでいたりしていて、冬瓜君は、なぜか海の家でバイトをしている。ほんと、どうやったらバイトできるんだよというか、友達との交友目的で来ているのに働いている。まあ、それはさておき僕は現在釣りをしている。釣りはとても良い、一人でいることに最適なことだ。景色を見ながら、ただボケーっとしているだけで魚が釣れていくのだから。と言いたいのだけど、めちゃ暇なんですけど!正直ここまで来たら誰かと遊びたいじゃん?でもわざわざ女子のところに混ざるわけにもいかないし、冬瓜のところに行ってわざわざここまで来て働くのもアレだから、遊べそうなところがないんですよ。こんなんどうしろって言うんですか。駅を降りた時の意気込みはどこへいったのだろうか。僕は数時間前のことを振り返りながら時計を見る。今の時刻は12時、そろそろ昼時で、みんな海の家に向かっているだろう。僕は釣った魚の入ったバケツを持って、みんなのもとへ向かう。
「三月君! こっちこっち!」
声が聞こえる、僕は声が聞こえる方を向くと、そこでみんなが僕の持って来たであろう小型のバーベキューコンロを使って昼ごはんを食べていた。なんで人のものを勝手に使っているかは後で聞くとして、何か焼くものでもあっただろうかと思いながら駆け寄る。そこで焼いていたのは…肉だ。
「どこから持って来た?」
何も考えずに気になったことを聞く。すると、冬瓜君が答える。
「海の家で臨時バイトをして貰った金で近くのスーパーで買って来た」
「そっか」
もう気にしない、絶対気にしない。冬瓜君の行動理念が全くというほどわからないけど何かしらしてももう絶対気にしない。多分…。取り敢えずは僕もみんなに混ざって腹ごしらえをしよう。
「じゃあ、僕もいただきます。あっ、それと魚を数匹釣ってきたからそれも焼こう」
そうして僕はみんなと混ざり一緒に昼ご飯を食べる。いつぶりだろうか、こうして外食するのは。前はいつだっただろうか、誰かと一緒にご飯を食べるのは。目元がぼやける。なぜだろうか。多分目から流れているものが肌に温かくついたような感覚がする。
「三月さん、顔が涙いっぱいになっていますけど大丈夫ですか?」
目から溢れてくる涙は止めたくても止められない。そうか、これが本当の『嬉しい』なんだと自覚する。今まで感じたこない感情、あの時に、昔に大雅が嘘とはいえ友達になろうと言って来た時に感じたものとは何かが違った。今、僕はとても嬉しい。嬉しくて涙が我慢出来ないほどに溢れてくる。でも、みんなが心配をしている。だからはっきり言おう。
「うん、大丈夫。何年も久しぶりに外食に出て、誰かと一緒に何かをしたから、嬉しくて涙が止まらないんだ。だから、ありがとう。今日遊びに誘ってくれて」
みんなの前で自分にできる最大限の作り笑顔を見せる。多分、今の顔は大量の涙と作れていない笑顔でぐちゃぐちゃになっているだろう。でもそれ以上に嬉しかった。この一言に尽きる。
「それならよかった。三月君を連れ来て正解だったよ」
最近の僕は美琴と友達になってからちょくちょくと会って話すぐらいでほとんど一人の時が多かったけど、今みたいな大人数でいることもとても楽しいと思った。僕は最初誰とも関わらない、常に一人でいることを目指していたけど。今の僕は、前と同じ一人でいたいことは変わらないけど、ここに友達がいる。だから、自分のありのままの『ぼっち』を目指そう。
「人生は楽しんだもん勝ちだ。昼飯食い終わったら、みんなで遊ぼうぜ!」
「そうですね。午前中は各々で遊んでいましたので、せっかくみんなで来たから遊びましょう!」
話が進む。僕は今、生まれてきて一番楽しんでいる。今日はみんなで遊ぶ為に来たんだ。みんなの期待に応えよう。
「三月君。バックの中に何か面白いものはない?」
「確か木の棒が入っていたはずだから、さっき冬瓜君が言っていたスーパーでスイカでも買って、スイカ割りでもする?」
「いいね!」
「でも割ったスイカはみんなで食べると思いますので、お昼ご飯を食べた後ではなく別の何かをしてからの方では良いのでは?」
「確かに七瀬ちゃんの言う通りだね。だったら海で泳ぎましょう!」
その後は、みんなで海で泳いで競争、水をかけあったりなどをして楽しんで、スイカ割りでは、交代でやっていって何度も棒を外したりしていて、やっている側も見ている側も楽しめた。割れた頃はそろそろ、夕日が落ちて来ていてみんなで夕日を見ながら割れたスイカを食べた。
「時間が経つのは早いですね」
「そうだな。楽しいことをしていたらこんな時間が経つのが早いんだろうな」
「それは、やっていることにそれほど夢中になっているからだよ」
「僕も今日は楽しかったよ。もう少しぐらい遊びたいけどそろそろ帰らないとね」
今日はとても楽しかった。最初に冬瓜君達と会った時は不安だったけど、結果的に楽しめた。それに友達が増えたとなると、嬉しいかと言われたら嬉しい。僕達は、雑談をしながら駅へ向かい、そして各々の自宅に帰る。
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