第6話 夏と一人に群青を(前編)

 美琴と友達になってから、お互いの過去を知って、たまに一緒に帰ったり、たまにLINEで話たりしてかなりの時間がたった。部長に書くように言われた小説は着々と進んでいる。今は磨だ7月の中旬だけど、夏休み。僕の通っている学校、冠明高校は一日の授業は長いけれど、その分休みが多いのが特徴だ。

 夏休み前の最後の日。ホームルームが始まり、夏休み前の学校が終わりを迎えようとしている。ホームルーム中、僕は夏休みに何をするか考える。ネッ友とオンラインゲームをする。あと、新作のゲームを買って遊ぶ。他には、他に…は。無い。やることがない。この長い約二ヶ月の間に楽しむものが全くというほど無い。バイトとか宿題とかで、時間は過ぎていくのだろうけど楽しむものが無い。ゲーム以外にも楽しむものはあるのだろうか。ああ、美琴が前に友達がいないとどうたらこうたら言っていたけどそういうことか。確かにその通りだ。今までは、家でずっと下僕のように扱われていたから、やること沢山があって、時間だけが過ぎていった。今は自由の身となったが、こうしてみると、やることがないのだなと思わされる。どうするかと考えている間に、帰りのホームルームが終わる。ホームルームが終わり次第、美琴が話しかけてきた。


「三月君、夏休み暇? もしよかった何だけど、私の友達も一緒に遊びに行かない?」


せっかくの提案だ。その提案にのろうと思ったが、美琴の友達も一緒か。どうするべきか。そう考えてくうちに時間が過ぎる。そうして考えて決めたことを言おうとしたが、その前に美琴が言葉を発した。


「無言は肯定の意味。つまり行くってことだよね! 集合は7月28日木曜日の午前8時半に駅前集合ね! それじゃ、またねー」


違う、違うんだ。本当はせっかくの誘いだけど断ろうとしたんだ。今その言葉を言いたいけど、小学からずっと話し相手がいなかった僕に、提案とかしたことなかった僕に、ずっと相手の言うままにしかできなかった僕にそんなこと言う勇気がありません!諦めよう、せっかく誘ってもらったんだ。もう頑張って楽しもう。

 2週間程経って、その日は来た。今は、午前8時20分程度だ。僕は今、美琴とその友達を待っている。僕は、正直緊張している。だって今まで大雅以外と遊んだことなんてなかったのだから。うん、昔のこと思い出すと泣けてくるからもう思い出すのはやめよう。そう思った頃に美琴は友達を連れてやってきた。


「三月君久しぶり! ずいぶん早く来たんだね」


美琴が話かけてくる。そうすると、美琴の友達であろう女の子が挨拶を始めた。


「初めまして。私は1年3組の七瀬優美です。今日はよろしくお願いします」


「うん、よろしく。僕は三月巧也っていうんだ」


少し話した感じだと、七瀬さんは落ち着いた性格で優しそうだ。この人となら少しは話せるかな。そういえば。


「美琴、あと一人来るって言っていたけどまだ来てない感じ?」


「あー、そろそろくると思うんだけど…あ、来たみたいだよ。それと三月君、そこから少し離れた方がいいよ」


どう言うことだろうか。理由もわからず美琴の言うままに後ろに二、三歩程下がる。そうすると、上から人が降ってきた。うん?上から?確か上には何もなくてあるとすれば後ろに建物が数軒あるくらいだけどまさか。


「ふう。間に合った」


そう彼は言った。おそらくこの人が最後の一人だろうが。


「もう冬瓜君! 遅れそうになるからって建物の屋根を伝って移動しない! それと今後ろにいる三月君にぶつかるところだったんだよ! はい。三月君に謝罪と挨拶!」


美琴が怒鳴る。やはり、屋根を伝って来たか。やってること超人過ぎだろ。


「俺は喜多冬瓜! よろしく! それとさっきはぶつかりそうになった。ごめん!」


「…いいけど。それと僕は三月巧也。冬瓜君はやっていること大概だね」


「そうか? 普通にみんなできると思うけど」


「「できるか!」」


そうみんなが冬瓜に向かって叫んだ。でもこんな人たちとなら今日は楽しく過ごせそうだなと思います。そう思いに浸っっていると。美琴が話を始める。


「今日は、みんなと三月君が仲良くなってほしいのと、夏の思い出を作ろうという試みで集まってもらいました。今日はこれから電車に乗って海に行こう!」


この言葉から今日が始まる。そして一つの思い出ができ始める。僕も今日を楽しもう。そうして僕たちは駅の改札を通り、電車に乗る。僕たちが電車のいすに腰をかけると、何か気になったのか七瀬さんが話しかけてくる。


「あの、三月さんはそんなたくさんの荷物がぱんぱんになるまで入れたリュックを持っていて辛くないのですか?」


そう七瀬さんが話すと他のみんなも自分も気になってた。と言いたげな顔をしてこちらを向いた。それに対し僕は、


「僕も誘われた身で言うのも何だけども、美琴に今日どこに行くのか聞かれていないし、何を持って来たらいいのか知らないから、山でも海でも田舎でも都会でもいいようにいいように色々と持ってきたんだよ」


そう言いながら僕は美琴を睨む。


「ごめんって、どこ行くか言ってなくて、向こうで何か奢るからさ」


美琴が謝ってくる。まあ、何か奢ってくれるならいいか。


「なあ、なんでそんな荷物を持って来ているのかはわかったけど、逆に何持ってきたのか?」


冬瓜君が問い詰めてくる。僕は入れたものを思い返しながら答える。


「えーと、山だった場合に動きやすい服装でジャージで、ちょっとした菓子と水筒に海で、水着と日傘と暇なときに読む本と後は、財布とか変えの服も持って来ているよ他にも…」


「もういい! もういいから、大体何持って来たのかわかったから」


「でも、三月さんが持ってきたもののおかげで楽しめるものが増えそうですね」


「そうだね。あ、みんな窓の外を見て!」


そう言われて僕たちは窓の外を見る。そこには、奥まで広がる青い海が太陽に照らされていた。僕はその景色に綺麗だなと思った。そして改めて今日は楽しもうと思った。


「もうすぐ着くよ。降りる準備をして!」


美琴が呼びかける。そうして僕たちは持っている荷物を持って電車を降りる。駅を出た先で、潮風を感じた。僕たちは一歩を踏み出す。さあ思い出作りの始まりだ。

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