第4話 日常という名の非日常

 冠明高校に入学してから早一ヶ月がたった。1年生は5月から部活が始まる。初日は部室に行って、挨拶してから、部活内容を聞く。部室は北校舎の2階にある。僕がその扉を開けると、30人近くの人たちがガン見し始めた。怖い怖い何これなんで?僕何かした?驚愕する。自分は何をしたのかを考えたとき、先輩部員が近寄ってこう言った。


「ようこそ!同志よ!これから、君もこの文芸部の一員だ!」


なんだ、案外まともなんだなと思う。1年生用の席を案内されるとそこには、もう一人いた。僕は何となく話かける。


「こんにちは。僕は三月巧也です。これから文芸部の一員として宜しく。えっと…」


「同じクラスの人の名前ぐらい覚えてよ。はぁ、『千田美琴』それが私の名前」


そうそっけなく、答える。


「すみません、名前を覚えていなくて。ぼっちでいることしか考えていなくて聞いていませんでした」


「ねぇ、三月君は本当にぼっちになりたいの? ずっと一人だったら、誰にも頼れず、誰かと一緒に遊んだり、思い出を作れないんだよ」


そう言ってくるが、僕には関係ない。だって自分には、裏切られた過去があるのだから。だから人はあまり信用したくない。家族もクラスメイトも地域の人も、唯一信用できる人は、ネットゲームの自分からフレンドになった人ぐらいだ。そうこう思っているが…


「ねえ、無視しないでくれる? 本当にそれでいいの?」


うるさい。とにかく隣にいるこの女、千田美琴がうるさい。でも無視を続けたら、いつか諦めてくれるだろう。でも次の日から教室であったら、


「三月君おはよう!友達になろー」


次の日も…


「三月君元気ー ?ねえ、私と友達になろーよ」


その次の日も…


「三月君!友達になろー」


辛い。辛すぎる。こんな毎日辛いです。いくら年齢=友達なし歴の僕でも、1週間もやっていたら心にくる。もう諦めよう。そうでもしないと、こいつは諦めてくれないと思う。でも、ぼっちになることは諦めるつもりはありません。友達になったふりをして、美琴から離れて学校ぼっち生活をしよう。となれば、いざ行動。


「はぁ、もうわかったよ降参。友達になろうか。これ以上やっても、うるさくて周りに迷惑かけるからね」


そう、嘘の言葉を吐き捨てる。嘘の言葉?その一つの言葉から過去のあの悪夢を思い出す。


「え! 大丈夫?! 顔が青いよ!」


気持ち悪い、美琴が心配してくれているようだが、僕には何も聞こえない。ああ、最低だ。僕は、自分のためだけに嘘をついて友達だと偽る。まるで、あいつみたいじゃないか。僕はあいつだけにはなりたくない。いやだ、誰かに自分と同じ気持ちを知って欲しくない。僕がトラウマになったあの出来事を思い出していたら、急に視界が暗くなって倒れ込んだ。

 今はいつ頃だろうか。意識が覚醒し始める。場所は保健室でベットの上で寝ていたようだ。窓の外をみる、倒れる前は朝だったのに、もう夕暮れだった。何故僕は寝ていたのか今日の出来事を思い出す。もう一週間も友達になろうと声をかけてきて、痺れを切らして美琴と友達になるふりをして嘘をついた。そっか、僕は嘘をついた時、あれを思い出して倒れ込んだのか、そう考えながらベットから起き上がり、保健室を出て教室に向かう。教室に向かう途中の廊下でまるで、僕を待っていたかのように一人の女子が佇んでいた。それは、千田美琴だった。美琴は暗い顔をして話しかける。


「ごめん三月君。無理言っちゃって。私、確信したんだ。あの出来事から、三月君は過去に友達関係で辛いことがあったんだよね。それで、私は三月君を救いたいと思った。だから、もう一度いうね。私と友達にならない?」


このとき僕は感じた。何故ここまで僕と友達になりたいのかを、それが僕にとって辛いことでもあってもやらせようとしたのかを、それは、僕がクラスのみんなと違って一人でいようとしたこと、時折暗い顔をしていたことを彼女は美琴はそれに気づいていたんだなと。だから、友達になって、僕の心の支えでいようと僕を他の人たちの様にいてほしいから前に進ませようとしてくれたのだと。だから僕はそれに応えなきゃいけない。これからのぼっちは、友達0人のぼっちではなく友達はいるけど、一人でいることが好きなぼっちでいようとだから彼女の言葉に答える。


「ああ、宜しく、美琴。君が僕の一人目の本当の友達だ。でも、友達ができるなんて信じられなかったな、これから僕にとっての非日常、君にとっての日常を見せてくれ」


夕立の日にこれまでずっと一人だった僕に、初めて心から思う友達ができました。ありがとう。そしてこれからよろしく。美琴。

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