第266話 佳境


 「だんちょ〜。見つかった〜?」


 「無理。全然。ヤマ外したかも」


 アリスがハワイに来るとヤマを張って、今まで世界に伸ばしてた魔力の網をハワイに限定して探している。


 場所を限定したら魔力探査の精度も上がるし、いくら魔力が少なかろうが気付くと思ったんだけど。ハワイに網を張ってから半月ほど。成果は全くない。


 で、息抜きがてら庭でBBQしてるみんなに混ざりに来たって訳だ。


 「うみゃい」


 「たんぽぽちゃんが焼くお肉って豪快なのに美味しいよね〜」


 「ムキムキマッチョマンってBBQに心血注いでる印象があるよな。ただの偏見だけど」


 洋画とか見てたらマッチョマンがBBQガチ勢なんだよな。なんか肉を焦がすぐらい焼いてるのに滅茶苦茶美味しく見えるんだ。


 「ん? それ何の配信?」


 「今、各国が連合組んで1級の狭間を攻略しとるやろ。そろそろ攻略が見えてきたっちゅうんでな」


 「あーそういえば」


 肉を葉っぱにくるんでパクパクしてると、タブレットで何かの配信を見てた犀に声を掛ける。


 因みにどうでも良いけど、俺はこの葉っぱの名前がサンチュって言うのを最近知った。ほんとどうでも良いな、うん。


 で、アリスの事や、生産関連のほうに気が向いててすっかり忘れてたけど、バチカンにある三つの1級の狭間を攻略してる真っ最中だったんだ。


 ホットなニュースなはずなのに、アメリカの特級の狭間が攻略されたもんだから、ちょっとなんだかなってなってるんだけど。


 「どこが一番早そう?」


 「イギリスと台湾のところやな。その次がロシアと韓国。イタリアが一番遅れとるわ。まあ、ここは戦い方的にしゃーないけど」


 身内でやる軽いノリのBBQなのに、わざわざコンロを持って来てタマゴスープを作る事に忙しそうな犀は、配信をラジオ感覚で聞きながら言う。焼肉屋かつって。なんかビビンバを食べたくなって来たぞ。


 「イタリアは戦法が待ちだからな。まあ、そうなるか」


 城に籠城して襲い掛かって来たところを殲滅する戦い方だし。時間が掛かるのは仕方ない。


 「へぇ。賭けとかあるのか。呑気なもんだ」


 「なんでも娯楽に変えて金にしようってのは人間の性やな」


 海外のブックメーカーで、どこの連合国が一番早く攻略するかみたいな賭けが行われてるらしい。


 まあ、どこかしらがやるだろうなとは思ってたけど、命懸けで攻略してる奴らまで賭けの対象にしちゃうとは。人間ってのはほんとに業が深い。


 「兄やんが表舞台に登場してから、探索者じゃない一般人は結構舐めとるみたいやで。兄やんがポンポン攻略するもんやから、誰でも出来る思われてるみたいやわ。だからこんな賭けとかにも出来るんやろな」


 「注意喚起はしてるつもりだったけど…」


 「大体の人間は自分が体験してみな現実を理解出来んからな」


 つい最近まで3級攻略でひーひー言ってたのに、ちょっと環境が変わると世間もこうなるのか。


 犀が言うには一般人が探索者の事を軽く見てるというか、誰にでも出来て簡単に稼げる仕事だと思われ始めてるらしい。


 まあ、俺のせいもあるんだけど。急にポッと出て来て億万長者になったからな。大して苦労もせずに。


 これを見て自分だって能力さえ授かってれば出来たはずだーみたいな風潮が流れ始めてるとか。で、水面下で探索者を貶めよう的な活動もあるっぽい。


 まあ、成功してる俺や他の探索者を見て、簡単に言えば嫉妬してるんだろう。


 俺の中国での所業なんかを槍玉に挙げて、探索者は野蛮だから隔離すべきだとか、極端な例では国が管理して奴隷のように働かせろだとか。


 こんなのを言ってるのは本当にごく一部だけど、こういうのは何故か目立つ。


 そのうち問題になりそうだなぁ。まあ、俺は知ったこっちゃないけど。いざとなったら探索者達に声を掛けてボイコットしてやれば良いだけだし。


 狭間が崩壊して苦労するのはそいつらだからね。

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