閑話 混ぜるな危険
「おはようございます!」
「おはよう」
とある日の朝。山田花子の専用工房で元気な挨拶の声が鳴り響く。
「どうですか?」
「まだまだ学ぶ事はたくさんある。地球の科学技術は、テンマから聞いていたけど、魔力無しでこんなにも色々発明されているとは思ってなかった」
ゴーレムとして生まれ変わった、異世界人であるミリス。
彼女はすっかり山田花子の工房に住み着いてしまった。特に寝る必要のないゴーレムという利便性を発揮して、今はひたすら現代技術の勉強をしている。
「寝ないで良いのは本当に羨ましいです」
「私も生きてる時は寝る時間は本当に無駄だと思ってた」
「二徹以上したらギルドの監査部から怒られるんですよね…」
山田花子はギルドにある監査部から、要注意人物としてマークされている。織田天魔からの直々のお達しがあったのだ。
『あの人、放置してたら、ずっと寝ないで研究するから。定期的にちゃんと家に帰して寝るように言っておいて』
山田花子というより、生産関係の仕事をしている人間全員に言える事なのだが、研究に熱中すると、時間を忘れてひたすら工房にこもってしまう。
外部から管理しないと、研究階層はゾンビのような研究者達が跋扈する事になってしまうのである。二徹まで認めてるのは、せめてもの温情なのだ。
「まあ、適度に睡眠を取れば、パフォーマンスが上がるのは間違いないんですけど。それでも数時間無駄にしてる気持ちになっちゃうんですよね」
「激しく同意」
「私もゴーレムになろうかな…」
「もしなるなら協力する」
研究時間確保の為に人間を捨てようとする山田花子。そして、それを止めるどころか、協力しようとするミリス。
この二人は『混ぜるな危険』だったかもしれない。
「そういえばギルド通信みました?」
「見た。ここらで生産関係の強化をしていく予定だとかなんとか」
「この国というより、世界全体的に魔道具の開発が遅れてますからねぇ」
山田花子は手元のタブレットを操作して、ギルドの広報部が、定期的に発信しているギルド通信を再度確認する。
そこには、ギルドのリーダーである織田天魔が、生産関係の強化に力を入れていく予定だと言っている事が書かれてある。
ブートキャンプで、世界の探索者達の強化が出来た事で良い機会だと思ったのであろう。
「この世界、探索者の質が思ったより低いのにも驚いたけど、それよりも、魔道具や武具、薬関係の技術が全然進んでない事にもびっくりした。まあ、素材確保が出来ないとか、色々理由があったみたいだけど」
「ですねぇ。織田さんが出てくるまでは、2級の狭間ですら、攻略出来てませんでしたし。それに足を引っ張ってた大御所の存在もあったみたいで」
「過去のニュースで見た。なんか急に馬鹿になった人。元から馬鹿だったみたいだけど」
「ええ。今考えれば、あれも織田さんがやったんでしょうね」
「テンマを怒らせるのは馬鹿以外の何者でもない。普段は温厚だけど、あれは怒らせたらいけないタイプの人間…。人間? まあ、人間」
「異世界でもそうだったんですか?」
「うん。直接的に滅ぼした国の数は魔王よりも多い」
「え? 勇者だったんですよね?」
「一応。向こうの世界では救われた国の方が多いはず。私の生まれ故郷も救われて、かなり熱狂的な人もたくさんいた。でもその人気を危険視したり、嫉妬した一部の国が馬鹿だっただけで」
「どこの世界でも同じような事を考える人間はいるんですねぇ」
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