第219話 帰国


 「え、いりませんよ。当分ここに来る予定はないですし」


 当初は日帰り予定だったのに、なぜかそこそこの日数を滞在してしまった中国遠征。後の面倒事はお偉いさんに任せて帰ろうと、朝倉さんに一言を声を掛けて、報酬も払わせて下さいねとお願いすると、ここにギルドの支部でも建てませんかって言われた。


 一等地とビルを用意するから、それを報酬代わりにしませんかって事だったんだけど、拒否である。もう来る予定がないんだもの。あまり好きじゃなかったこの国が、今回の件で更に好きじゃなくなった。


 『シークレット』は東京にあるのだけで充分です。建てるとしても日本にだな。海外はちょろっと遠征して行くから楽しいんだ。ずっと住むなら日本が良い。


 今回の件で住めなくなったら残念だなぁと思ってたけど、どうやらそうはならなかったみたいだし。


 「ではいつも通りお金で?」


 「はい。やりたい事はまだまだいっぱいありますし」


 イギリスのホグワーツに資金提供したいし、能力を使った映画なんてのも使ってみたいと構想してる。


 なんなら日本に面白そうな能力をふんだんに使った遊園地とかも作りたい。一部では使ってるところもあるけどね。大阪のところとか。それをもっと発展させてみたい。


 ほぼ娯楽関係にしか例を挙げられてないけど、とにかくお金を使う予定はいっぱいあるのである。


 どうせ一人でも溜め込んでても経済的に良い事じゃないみたいだから、派手に使いまくってやる。お金が無くなれば狭間でまた稼げば良い。


 高難易度の狭間は未だに危険って言われてるけど、俺からしたらただの財布であるからして。現時点で欲しいものもないし、とりあえずお金を貰っておくのが一番なのだ。


 「よし。じゃあ帰るか」


 日本に帰って当分の間はゆっくりさせてもらいますよ。なんかまだ1級と特級の狭間が残ってるバチカンとアメリカからの連絡が凄い事になってそうだけど、とりあえず放置である。


 今更掌を返して媚びを売ってきても遅いのだ。自分達がいかに愚かな事をしたのかと後悔しながらやきもきすると良い。


 お偉いさんの胃は大変な事になってるかもなぁ。知らんけど。



 ☆★☆★☆★



 「織田天魔とまだ交渉出来ないのかね?」


 アメリカのホワイトハウスにて。大統領は胃をキリキリさせながら秘書に尋ねる。


 織田天魔が中国から日本に帰国して一週間が経った。しかし、事務所に電話しても、メールをしても返信がない。


 「はい。日本に帰ってからどこかで活動してるという事もなく、自宅でゆっくりしてるそうです」


 「詳しいな」


 「現在配信でそう言ってますので」


 秘書はそう言ってパソコンの画面を見せる。そこにはピザを食べながら猫を撫で回し、視聴者と談笑している織田天魔の姿があった。他のギルドメンバーもちらちら映っているので、みんなでゆっくりしているのだろう。


 「我が国からの連絡に気付いてないのか? それとも意図的に無視を? なんと傲岸不遜な…。いや、いまのは無しだ。忘れてくれ」


 大統領は暴言を吐きそうになったところで、ギリギリ堪える。何が琴線に触れて隕石を落とされるか分かったもんじゃない。中国でやられた事を自国でやられたらたまらない。


 「日本に行くぞ。本当はアポを取ってから向かいたかったが、そんな事も言ってられん。国民が暴発寸前なのだ。どんな条件でも良いから、あのスライム共を駆逐してもらわねばならん」


 「では予定を調整しておきます」


 大統領は胃薬を流し込み、日本での交渉について考える。もし逆鱗に触れて織田天魔を怒らせたら…。自分も切腹させられてしまうんだろうか。


 そんな事を考えながら、キリキリする胃を抑えて日本に向かう準備をした。

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