第217話 ハラキリチャレンジ


 「はい。もう配信を見てる人でグロとかそういうのが無理とか言う人はいませんね? もう文句は受け付けませんよ。今からハラキリチャレンジ配信になるからね」


コメント

・そんなテンションでやる事じゃない…

・ハラキリチャレンジw

・いつの作品だよ

・革命ラーッシュ


 俺はニッコニコで短剣を持ってガクガク震えてる奴らに近付いていく。カメラマンの桜やアルコールが足りてないのか、ずっと笑顔でムカ着火ファイヤーしてる陽花も一緒だ。


 公英や神田さんは万が一にも逃げないように見張っている。呪言で縛ってるから無理だろうけど。


 「さあ。始まりました! ハラキリチャレンジ! 残念ながら我こそはと率先してやってくれる人がいないので、こちらから指名してやってもらおうと思います! 記念すべきトップバッターはー……なんとなく目に付いたそこのあなた! お名前をお願いします!」


 「ひぃぃぃいっ!」


コメント

・テンションwww

・使徒様の情緒がおかしい事になってる

・もう疲れてるんだよ

・どこの司会者だw


 視聴者さんのみんなも良く分かってらっしゃる。本当に疲れたんです。そろそろ一旦ゴロゴロしたい。家でポテも首を長くして待ってるはずだ。


 さっさとこんな茶番は終わらせて帰りたいんですよ。


 「ほら、さっさとやれよ。呪言で命令してやろうか? 自分のタイミングでやらないってなら、お手伝いしてやるよ。俺の慈悲深さに感謝しながら死んでいけ」


 「あっ…あっ…」


 カメラを向けられてる何某はもう言葉を発せていない。残念ながら語彙能力が消滅してしまったみたいだ。


 ダラダラやっても仕方ないし、命令してさっさと自害してもらいましょうかね。


 「織田天魔が命ずる。自分の腹に短剣を突き刺して掻っ捌け」


 「い、嫌だ嫌だ嫌だ…うわぁぁぁぁあ! グフッ…」


 傲慢ルシファーに憑依して、記念すべき一人目が切腹した。グサッと根元まで突き刺してそこから横に引く。陽花がネットで調べた情報でしか知らないが、多分これが正しい作法だ。


 介錯人が首を斬ってくれる事もない。徐々に体が冷たくなって死を実感していく事だろう。俺達に手を出した事を後悔しながら死んでいけ。


 「うわ〜。結構血が出るんだね〜」


 桜はしっかりと一部始終を映像に収めていた。賑やかだったコメント欄も、今はぱったりと止まっている。まあ、やいやい言ってても実際見ると衝撃映像だからな。


 探索者なら『死』ってのにある程度慣れてるだろう。パーティメンバーや知り合いが死ぬかもしれないし、狭間で魔物の殺しまくってるんだから。


 でも一般人はそうじゃない。狭間の攻略動画とか見てる人は少しは耐性があるかもだが、実際人が自殺する瞬間を見せられてるのは中々堪えるだろう。


 まあ、あらかじめ忠告はしておいたし、俺の知った事ではないが。


 「はい、まだ生きてるけど、切腹ってのはこんな感じです。実に苦しそうですね。中々良い罰なんじゃないかと、自画自賛したいところであります。が、一人にこんな時間を掛けてたら、いつまで経っても終わらないので。ここからはスピーディーにぽんぽんといきたいと思います。みんなしっかりついてきてくれよな!!」


コメント

・おおふ…

・覚悟はしてたけど思ったよりきつい

・これが昔は当たり前にやってたってマ?

・首を斬ってもらえるのはありがたい事だったんだな


 沈黙していたコメント欄が復活。メンタルをやられてる人もいそうだな。


 逸話で昔の人は切腹して、自分の内臓を外国人に投げつけたとかなんかで見た事あるんだけど、それぐらい気概がある人はいないな。


 昔ほど痛みに慣れてる人がいないから仕方ないのかもしれんが。内臓が溢れ出たくらいでピーピー言ってたら、魔王退治なんて出来ないぞ?


 現代人は勇者としての心構えが足りんな。

 まあ、俺も最初の方はちょっとした切り傷とかで泣き喚いてたが。ただの厨二病罹患者が修羅みたいな異世界に飛ばされたんだから、当たり前だよね。いきなりそんな覚悟が決まってる訳がない。


 まあ、5年もすると腕が飛ばされても『痛っ』ぐらいになるんだが。慣れって怖いねぇ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る