第201話 張り詰めた雰囲気


 飛行機を飛ばして中国へ。


 降り立った場所から既に軍人さんが整列して、ガチガチに防備を固めてる。俺を見て畏怖してる人もいれば、憎々しい顔してる人もいるし、歓迎されてないのが良く分かる。


 「雰囲気悪いね〜」


 桜が言うように雰囲気は最悪だ。

 一触触発と言ってもいいかもしれない。


 いつもなら空港では野次馬が集まってて、ファンサービスを開始するんだが、今回はそのイベントがない。


 お偉いさんなんだろうか? その人に誘導されて車に乗り込む。雑談とかは一切ない。事務的な手続きを経て、早速狭間に向かう。


 「ちっ。誇りもない探索者風情が」


 去り際に軍のお偉いさんであろう人に捨てゼリフを吐かれた。多分向こうはこっちに聞かせるつもりで言ったんじゃないんだろうけど、がっつり聞こえちゃってるよ。


 ここまで日本語で対応してたから、中国語で喋れば大丈夫だとでも思ったのかね? 

 残念ながらうちの面々は神田さん以外は全言語対応ヒューマンですよ。


 「ここまで歓迎されてないと笑けてくるな」


 「パイロットさんに魔道具を渡しておいて良かったね〜」


 俺が雇ってる専属のパイロットさんは飛行機で待機だ。いつもなら、俺達が攻略とか観光してる間は自由に行動してもらってるんだけどね。


 今日は日帰りだし、何があるか分からないから。万が一の為に防犯用の魔道具と、日本の協会から護衛の人を出してもらっている。


 協会専属の真田さんだ。『超回復』の能力を持ってる将来性抜群の人で、この前単独で2級の狭間を攻略したとか。ブートキャンプを経て順調に成長してらっしゃるみたいで。教官として鼻が高いですね。


 それにプラスで陽花も飛行機に待機してもらっている。陽花は色々反則だからな。これでそっちの方は大丈夫だろう。あいつも今回は注意してるのか、飛行機でもお酒を飲むのを控えてたからね。



 何台もの車に護送されて、狭間に到着。

 狭間付近でも野次馬が存在する事はなく、軍人がビッシリと待機していた。


 いつもならここは騒がしくて、屋台もあったりして楽しい場所なのにな。シンとして張り詰めた雰囲気を醸し出している。


 非常に居心地が悪いので、さっさと狭間の中に入る。ここでようやく息を吐いた。


 「あの雰囲気は耐えられん」


 「やっぱり日本でお留守番しておけば良かったですっ」


 分かる。なんか厳かな感じね。

 戦っても負けないけど、普段ちゃらんぽらんしてるから、あの雰囲気は息が詰まる。

 表向きは歓迎でもしてくれたら良いのに。


 「じゃあやるか」


 「私に任せて下さいっ!」


 今回のボスは蛇系の魔物である。

 全長は10m以上あるんじゃなかろうか。

 確か異世界ではなんたらボアとか言われてたはず。こいつを丸々漬けたお酒が美味いとか聞いた事があるぞ。


 生憎俺は飲んだ事はないけど、設備は見た事がある。かなり大掛かりな器具がいっぱい置いてあって凄いなーって思ったもん。


 陽花はその話を聞いて是非飲んでみたいって言ってたけどね。残念ながら狭間は倒すとドロップ品になっちゃうから。丸々体を確保する事は出来ないんだよね。


 俺のアイテムボックスにもこいつの死体はない。ウロボロスならあるが。


 それはさておき、今日のボス戦でやる気になってるのは神田さんだ。新しい変態を試したいんだろうね。例の漫画の神田さんの推しらしいし。


 因みに今日はカメラマンの同行は無しだ。

 中国側が用意すれば連れて来たけど、軍が負けた相手を日本人に討伐される動画を残したくないらしい。俺達自身が撮影するのも無しって言われた。


 そんなちっぽけなプライドは我慢するべきだと思うんだけどね。次に活かす為にもきちんと動画は残しておくべきだと思うんだけど。また同じ魔物が出て来たらどうするのやら。


 「いきますっ! デンキウナギ!!」


 さてさて。神田さんはどんな戦いを見せてくれるのかな。


 


 

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