第129話 環境適応の指輪


 狭間から出ると、それなりの人数に囲まれたけども、野次馬は自重してくれた。

 何故なら、俺以外どのギルドも疲労困憊だからである。普段はうるさい公英や『MMM』が静かだから、雰囲気を察知して自重したようだ。

 中々民度が良い。大阪なのに。


 どういう狭間なのか気になってる人は多いだろうけど、その辺は大村さんが編集してくれる動画を待っていてくれたまえ。

 1級の面白さと過酷さを兼ね備えた動画にしてくれるはずさ。




 「殺人事件の予告とかないかな」


 「映画の観過ぎだよ〜」


 晩飯を食べてからホテルに戻った。

 大阪で用意してくれたホテルはかなりの高級ホテルで、最近映画で見たマスカレードホテ○にそっくりだ。刑事が潜入捜査してたりしないんだろうか。

 長澤まさ○みたいな美人コンシェルジュは居るんだけど。


 「ホテルでは無理って言ったらダメみたいだぜ。なんか難癖付けてやろうか」


 「クレーマーみたいな事はやめてよね〜」


 冗談だよ。でもあの映画を観るとホテルマンって地獄だなとしか思えん。

 意味の分からんクレーマーが多過ぎる。それでも笑顔でサービスを提供し続ける皆さんは凄い。

 優良な客を心掛けようと思ったね。


 「客じゃなくて〜」


 「お客様だろ」


 大体映画を見てる時は桜も一緒だからな。

 セリフとかも覚えてる。映画で何回も言ってる言葉のやり取りが出来て嬉しい。

 これは俺の映画デビューも近いか。




 「とりあえず『シークレット』の分は用意出来ました」


 「量産は簡単? 他のギルド用にも一応用意しておいて欲しいんだけど」


 ホテルに戻ってきて、パソコンを介して山田花子さんとテレビ電話。

 砂漠の暑さ対策をしないと、攻略は進まん。

 どうしても無理なら、俺の結界でなんとかしようと思ってたけど、うちの天才はやっぱり天才だったみたいだ。自分の趣味の研究の片手間で作ったらしい。


 なんでこんな天才を野放しにしてたのやら。

 素材さえ用意すれば、狭間探知機すら作ってしまう女傑だぞ。他企業に売り込みまでしてたのにな。

 まぁ、その素材を用意するのが難しかった訳だが。良い拾い物したよね。

 それに今回の砂漠で、やっぱり生産者の必要性を周知出来たんじゃないかと思う。

 学校を作ろうとしてる俺に追い風になってくれる事を期待しよう。


 「3級の魔石さえ用意出来るなら量産は可能です。そんなに難しい機構はしてないので、レシピさえ公開すれば誰でも作れると思います」


 「そ、そうか」


 その言葉は信用していない。

 天才の難しくないは、往々にして難しいのである。一応他のギルドに連絡してみよう。出来てないなら、レシピを有料で公開するか、魔道具を買ってもらう。



 山田さんに無理し過ぎないように、早く帰るよう言ってから電話を切る。

 あの人は放置してたら、ひたすら何かしらの研究をしてるからな。いつも髪はボサボサです。


 その後攻略ギルドに連絡してみたけど、やっぱり完成してなかった。それどころか、取っ掛かりすら無い状況らしい。

 山田花子さんは3級の魔石さえ用意出来れば簡単って言ってたけど、普通に考えれば3級の魔石は高級品である。いきなり実験出来る訳がない。

 うちのギルドではバンバン使わせてるから、感覚が麻痺してたや。


 「じゃあとりあえずうちで用意しますね」


 そういう事になったので、もう一度山田さんに連絡。早く帰るように言ったそばから申し訳ないけど、環境適応の指輪を作ってもらうようにお願いする。明日の速達で送りますねーって言われた。

 優秀すぎる。




 「快適だよ〜!」


 「凄いです! 普段使いしたいぐらいでありまする!」


 疲労度と魔道具の関係で一日休息を挟んでから攻略を再開。どのギルドもしっかり疲労回復出来てるようでなにより。

 魔道具の使い心地もばっちりだし、今日も今日とて頑張っていきましょうか。


 「魔物を自分で増やす女王種が居なかったら、こんな感じで地道に魔物の数を減らしていけば、いずれはボスが姿を見せると思うけどな」


 「1級は広いもんね〜。だんちょ〜が攻略した時は火力でゴリ押しだったけど〜」


 ゴリ押しで解決するならゴリ押し一択でしょ。

 フィールドタイプはただでさえ広くて面倒なんだし。ボス部屋があるタイプは道なりに進んで行けばいいから、まだ楽ちんで助かるんだけどな。


 フィールドタイプはどこにボスが隠れてるから分からんし。フランスの海の狭間でやったようなゴリ押しをする方が楽なんだよ。


 「まぁ、それをするとみんなの経験にならないから俺は黙って観戦するんだけど」


 目の前では『スキナー』の上杉さんか、サンド・スコーピオンを召喚して、サンド・スコーピオンに対抗している。

 数でゴリ押しすれば良いのにと思ったけど、1級の魔物を召喚するのは、中々魔力を持っていかれるらしい。


 「上杉さんはあれだな。魔物毎に相性の良いのを召喚出来るようになったら、一人でも攻略出来るようになるな」


 あの人だけでも各国の1級攻略の旅に連れて行けないだろうか。

 まぁ、未だに要請はないんだけど。猶予はまだあるんだし、とりあえずは自国の探索者を放り込むに決まってるよね。

 死ぬ人はかなり出そうだけどさ。

 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る