第86話 厄介事


 協会長との話し合いの翌日。

 早速2級の狭間にやって来た。

 先に攻略するのは崩壊時期が正確に分かっていない蜘蛛系魔物の存在が確認されている狭間。


 「ホテルのおもてなし半端なかったな」


 「スイートルームは最高だねぇ〜」


 案内されたホテルは宮殿内かってぐらい豪華な内装だった。豪華すぎて少し落ち着かなかったぐらいだ。

 すぐに慣れてはしゃぎまくったけど。夜の戦もいつもよりハッスルしてしまったもんよ。


 「ん? なんか騒がしいな?」


 「何かあったのかな〜?」


 まさか崩壊が始まったかと慌てて狭間の前まで行ったけど、普通に健在である。何があったんだろうか?


 「少し聞いて来ます」


 案内の協会の人が周りの野次馬に事情聴取。

 俺はその間にファンサービスをして時間を潰してたんだけど、案内の人に聞く前に教えてくれた。


 「馬鹿な奴も居たもんだ」


 どうやら深夜の内に狭間内に侵入した探索者グループが居たらしい。

 きちんと見張りも立ててたみたいだが、ご丁寧にしっかり倒してから入って行ったらしい。

 普通に犯罪である。オークションで落札もしてないし、俺が攻略する事は告知されていた筈である。


 「誰が入ったとかは分かるの?」


 「ロンシャンの奴らじゃないかなぁ。使徒様が攻略するのに最後まで反対してたから。自分達で攻略出来るって言い張ってたんだ」


 野次馬達に高速サインしながら話を聞いていく。

 ロンシャンとやらはクランで中々評判が悪いらしい。フランス版老害かな? 全く。海外に来てまで馬鹿の相手をしたくないんだが。


 「織田さん。お待たせしました」


 「いえいえ。こっちでもある程度話は聞けましたけど、どうします?」


 「非常に申し訳ないのですが、このまま攻略を始めてもらってもよろしいでしょうか? 先に入ったのはロンシャンというクランで、こちらも少し手を焼いておりまして…。万が一生存していたら救出もお願いします。勿論、織田さんの安全を確保した上でです。無理そうなら無視でも構いません」


 えぇー。助けるのは別に良いけどさー。

 絶対素直に従わないじゃん。面倒だなぁ。


 「どうするの〜?」


 「ゆっくり攻略して死んでる事をお祈りしようぜ。生きてたら絶対面倒な事になるもん」


 桜と糸電話で話し合い方針を決定。

 俺は聖人キャラで通してるので、拒否する事は出来ない。まさかそこを狙われたんだろうか。まさかね?


 「じゃあ行って来ますね」


 「あ〜だんちょ〜待って〜! あそこでベーグルが売ってるよ〜! 食べながら行こうよ〜」


 野次馬が集まる事を見越して、車をお店にした屋台なんかが集まっている。

 中には美味しそうなのもあって、中々にそそられるんだけど。


 「フリだけでも急いでる感じを出さないと。狭間に入ってしまえばゆっくりしてもバレないし、今日は我慢してくれ」


 「ちぇ〜」


 残念ながら今回は救出任務も兼ねている。

 救う気はサラサラ無いとはいえ、フリだけでも急がなければ。

 後は攻略した後に残念そうな顔して間に合いませんでしたって言っておけばいいんだ。

 こういう時の為に一般人を味方につけている。しっかり活用させてもらうぜ。


 「って事で気を取り直して出発」


 「桜ちゃんはぷんぷんだぞ〜」


 指を2本立てて頭の上に持っていき、鬼の真似をしている。控えめに言って面白い。


 「ふむん。まぁ、この辺は片付けられてるよな」


 「へんな匂いがする〜」


 アンデッドほどじゃないけど、匂いがきつい。

 蜘蛛系魔物は人間を生け捕りにして、餌を貯めておくからな。

 死んで、多少腐っても平気で食べるし。

 何回も攻略が失敗してるらしいし、何人かは生け捕りにされているだろう。そういうのが積み重なってこんな匂いになってるんだと思われる。


 「憑依ポゼッション:救恤カマエル


 汚物は消毒だーつって。

 虫系は火魔法で焼却するに限る。

 蜘蛛が虫なのかは知らんが。似たようなもんだろ。


 「さてさてゆっくり行きますか」


 「生存者が居ないと楽なのにね〜」






 「うわぁ。生きてるよ」


 「残念だね〜」


 歩く事15分。

 死んでる事をお祈りしてたのに、戦闘音が聞こえてきた。怒号も聞こえるし、かなり切羽詰まってるんじゃなかろうか。


 「どうするの〜?」


 「あいつら全員気絶させて糸でぐるぐる巻きにしよう。で、目を覚ます前に攻略してさっさと立ち去る。関わりたくないしこれがベストだろう」


 「結局助けるんだね〜」


 見ちゃったし。見殺しにしても良いけどさ。

 俺の中の勇者心が助けろと叫んでるんだ。


 「って事でお願いしますよ」


 「勇者心って〜。言ってて恥ずかしくないの〜?」


 恥ずかしい。何言ってるんだろうって思いました。


 「束糸〜」


 「フレイムアロー」


 桜さんは必死に戦ってるロンシャンの連中を。

 俺は蜘蛛の魔物に攻撃を開始。

 2秒でカタがつきました。


 「はい拘束拘束〜」


 一息に気絶させた連中をまとめて糸で拘束。

 桜はそのまま引きずっていくらしい。

 まぁ、手間をかけさせたんだからそれぐらいは甘んじて受け入れてもらおう。


 「じゃあ終わらせるか」


 俺は魔法を使って無数の小さな火花を出す。

 そしてそれをそのまま通路へ。大体狭間全体に行き渡ったら終了である。


 「イグニッション」


 火花を一気に発火させて爆発。


 「ちょろいもんだぜ」


 ドロップ品回収して後はボスだけだ。

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