第85話 大歓迎


 約10時間の空の旅を経てフランスのパリに到着した。


 「あれだな。魔石とかで革命が起こってるのに、飛行機の速度はそんなに変わらないんだな」


 確か狭間出現前でも12時間ぐらい掛かった筈。

 いや、2時間ぐらい早くなってるのは充分進歩してるのか? まぁ、どうでも良いけど。


 「うわっ。すげー人」


 「熱烈な歓迎だね〜」


 空港に入ると人人人。

 野次馬がこれでもかってぐらい集まっていた。

 ほんとならこのまま車に乗って、フランスの協会本部に向かう予定だったんだけど、せっかくここまで人が集まってるのに、無視するのは申し訳ない。


 日本なら気軽にまた来るからって言えるけど、流石に外国はそういう訳にはいかないからね。

 少しファンサービス的な事もするべきだろう。天魔君のイメージアップ大作戦だ。


 俺は案内役として迎えに来てくれていた協会の人に一言断りを入れてから、野次馬の前に姿を現す。

 協会の人はまさかそこまでしてくれるとは思ってなかったみたいで、喜んで許可してくれた。


 「憑依ポゼッション:慈悲ミカエル


 天使に憑依して、これでもかと言うぐらい自分の存在をアピールする。

 その効果は覿面だった。


 「きゃー!!」


 「使徒様ー!!」


 俺は作り笑顔を貼り付けて手を振りながら歩いていく。隣でも桜が同じように笑顔で手を振ってるけど、その笑顔は失笑してるようだった。


 「だんちょ〜胡散臭〜い」


 「うるせぇ。笑顔で手を振ってるだけで、味方になってくれるんだぞ。やらなきゃ損だろ」


 ボソボソの観衆に聞こえないように話し合う。

 こんな事聞かれたらせっかくのファンが離れていっちゃうからね。


 「浄化」


 俺は観衆全体に浄化の魔法をかける。

 綺麗になるだけで、特に今使う必要のない魔法だけど、天使感は出せただろう。

 更に観衆のボルテージは上がっている。

 これ、暴動とかになったりしないよね? なんかやりすぎて不安になってきた。


 「使徒しゃま!」


 そろそろやめようかと考えていると、観衆の最前列に小さい花を持った5歳ぐらいの女の子が必死に手を伸ばしていた。


 「あぁ。子供っていいな。心が洗われる感じがする」


 「可愛いね〜」


 俺はその女の子を抱き上げて頭を撫でてあげる。

 すると、その子は顔を真っ赤にしつつも、お花を差し出してくれた。


 「が、頑張ってくだしゃい!」


 「ありがとう。(お金の為に)頑張るね」


 俺は女の子を降ろして、貰ったお花を胸ポケットに飾りつける。


 「なんか変な副音声が入らなかった〜?」


 「気のせいだろ。純粋に頑張るねって言っただけだ」


 しかし、イケメンって得だよな。

 これ、醜男がやったりしてたら事案だろ。

 ほんと世界って不平等。恩恵に預かってる俺が言う事じゃないかもしれんが。


 俺は最後にもう一度だけ女の子の頭を撫でて、その場を後にする。

 うむうむ。天魔君聖人アピールは大成功といった感じではなかろうか。子供にも優しいアピールまでしちゃったし完璧だろう。


 「よし。これぐらいで良いだろ。協会の人も待たせてるし、そろそろお開きにしようぜ」


 「なんだかんだ楽しかったね〜」


 チヤホヤされるからな。

 羨望の目で見られるのは気持ち良いこった。


 俺は憑依を解除して、手を振りつつ車まで向かう。協会が用意してくれていた車は真っ白なロールスロイスだった。


 「ほえー。生で初めて見たや」


 「すご〜い! 長〜い!」


 リムジン程では無いが車体が長く感じる。

 凄いな。買おうとは思わないけど。

 とてもじゃないけど、普段使い出来るとは思わないし。


 「あ、やっぱり買おうかな」


 「乗り心地抜群だね〜」


 買う気はないってを撤回したい。

 座席に座って車が走り始めると、その乗り心地に驚かされる。

 流石セレブカーと言われるだけあるな。

 日本に帰ったら買おうか迷っちゃう。


 「でもなぁ。コレクションする程ではないんだよね。車は乗ってこそだと思うし」


 「レクサ○があるもんね〜」


 それにまだスープラやランエボは乗ってすらいない。それを堪能しても遅くないだろう。


 「はふぅ。周りに日本人が居ないってのは新鮮だな」


 「既に日本語が恋しくなってきたよ〜」


 因みに桜さんも全ての言語を話せるらしい。

 ガチャから出て来た人はそうなのか、桜さんが有能なのかは分からないけど。

 周りがフランス語だらけで妙に落ち着かない。

 やっぱり俺は根っからの日本人って事だな。


 そんなこんなで協会本部に到着。

 見た目はほぼ日本と変わらず、お役所みたいな見た目。あんまり国別で差はないみたいだ。


 「ようこそいらっしゃいました」


 少し楽しみにしてたんだけど、協会で他の探索者に絡まれる事は無かった。

 それどころか歓迎されてサインとかをお願いされてしまったくらいだ。

 俺もそろそろテンプレってのを体験したい。

 主人公が俺つえームーブするのはお約束だろうにさ。


 で、協会本部でもファンサービスを少ししてから案内されたのは協会長室。

 フランスの探索者協会で一番偉い人らしい。

 日本では隠れオタクの伊達さんがこの位置にあたるらしい。


 「あんな破格な報酬を出されちゃ、尻尾振って来ちゃいますよ。ほんとに大丈夫なんです?」


 「ほっほっほっ。勿論です。フランスの国家滅亡の危機とはいえ、きちんと利益の事も考えてありますのじゃ。安心して下され」


 左様ですか。それなら気兼ねなく貰っちゃいますよ? せっかく攻略したのに俺に報酬を渡したせいで財政破綻とかされても困るしさ。

 2級攻略に何回も失敗して、懐事情がやばい事は知ってるしさ。

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