第79話 二年生
「こちらが主に二年生が活動している場所になります」
一年生の座学の授業風景をサラッと見終わった後に案内されたのは大きな体育館。
二年生にも一応教室はあるが、ほとんどが実技の練習になる。
「あ、どうも。ありがとうございます」
案内の人に差し出された二年生の能力リストを見ながら、体育館の中を歩く。
一年生は授業に集中していたのと、俺達が気配を消しながら見ていたので、気付かれる事はなかったが、ここでは嫌でも注目を集めてしまう。
「お、おい。あれ、織田天魔だぞ」
「マジで学校に来てるじゃん」
「ホモって噂ほんとなのかな?」
「俺は学校側のドッキリだと思ってたぜ」
「桜たん、生で見ても可愛い」
まぁ、注目されるのは大好きなので構いませんが? 憧れの視線ってのはいいものですね。
なんか一部おかしな事を言ってる人が居たけど、それは無視する。俺は女性が大好きです。
「でも、授業の邪魔になってるな。すみません。いつも通り再開するように言ってもらっていいですか?」
「ただちに」
俺は普段どんな授業をしてるのかを見たいだけなんだ。積極的にアピールとかされても、余程の事がない限りスカウトはしないよ。
「2年生も何人か面白そうな能力持ちがいるね〜」
「でも多いのはやっぱり、ノーマルな能力ってか、ありきたりな能力だよな」
剣術とか属性魔法とか。
こういうノーマルな能力って軽視されがちだけど、極めれば普通に強いからね。
異世界では剣術一本でひたすら魔王軍と対峙し続けた化け物もいたんだ。
あの人は強かったなぁ。四天王の一番弱い奴ならワンチャン勝てたんじゃなかろうか。
案内の人が教官に授業再開を告げてくれたので、こちらをチラチラ気にしながらも、能力の習熟練習を再開した。
「あれだな。とりあえず教官の絶対数が足りてない」
一学年大体150人前後。
実技訓練の為に体育館は大きく作られているが、教官の数は三人しかいない。
「これじゃあ目が届かない生徒も出ちゃうよね〜」
「しかも生徒一人一人の能力と向き合うのはかなり厳しいだろう。似た様な能力持ちを集めて、まとめて指導するって方針は取ってるみたいだが」
相当能力について詳しくないと、自分とは違う能力を教えるのは難しいよね。
まずは教官が能力について詳しくないと。
「まずは教官の確保。それから色々な能力についての知見を深めるところからか」
「すぐに出来る事じゃないよね〜」
そうだなぁ。
探索者学校の教官をやってるのは、大体探索者を引退した人達だ。
現役時代に色々な能力を見た事はあるだろうが、その能力について詳しく訳じゃないだろう。
せいぜいこんな使い方をしていたと教える程度だ。そりゃ、中々有能な若手は育てられないわな。
異世界では、大体の指導方法が確立されていた。
汎用能力系なんて、魔王の脅威がなくなってからは、それ専門の学校があったくらいだ。
あっちは全員能力持ちだったし、狭間とかじゃなくて身近に魔物の脅威があったからなぁ。
戦闘系の能力者は嫌でも強くなる。サボったら死だからね。
「ゴムゴムのー! ○○!」
「あれはだめでしょ」
桜さんばりのオマージュしてる人居るじゃん。
普通に面白い使い方してるし。
「『伸縮』か。あの子は強くなるかもな。なにせお手本が最強だ」
「あれは漫画やアニメだから最強なだけで〜現実で使いこなすのは相当難しいと思うけど〜」
それを言うな。そのうち探索者王に俺はなる! どん! とか言い始めるぞ。
「ん? へぇ」
「うわっ〜! 気持ち悪い感覚だった〜」
体中を覆う不快な違和感。
即座に魔力を体に纏ってそれを弾く。
桜も同じ対応をしたみたいで顰めっ面をしている。
「これが『刻止』か。凄いな。本当に止まってるじゃん」
「やりたい放題出来ちゃうよ〜」
二年生期待の新星の能力『刻止』。
これは条件付きではあるが、時間を止める事が出来る。まぁ、俺みたいに違和感を感じる事が出来れば抵抗は出来るんだが。
「あ、戻った」
「不思議な体験だったね〜」
時間にして約15秒。止まっていた世界が動き出した。止めていた生徒は大きく深呼吸してこちらを驚いた様に見ている。
今まで抵抗された事は無いんだろうか。桜でも違和感を感じれたし、上位ギルドの面々ならなんとかなりそうだけど。
「息を止めてる間とはいえ、時間を止めれるのは凄いよね〜。スカウトするの〜?」
「いや、別に」
面白い能力だけどね。あれは格下専門能力だろう。かなりの実戦経験を踏まないと、強くはなれないと思う。
3級辺りで効果は微妙になってくるんじゃないかな。魔力量を増やして能力が洗練されれば、上を目指せるのは間違いないけど。
だから、俺のギルドじゃダメだね。たまにしか攻略しに行かないし。
せっかく良い能力を貰ったんだし、老害みたいに増長せずに頑張って欲しいもんです。
見た感じ真面目そうな子だし、大丈夫そうかな。
その後は生徒達に軽く指導しつつ、教官と話をした。
生徒を任されてる皆さんも、教官不足については常々思っていたらしい。
しかし、そう簡単に増やせる事ではないから、現状で出来る限りの事はしている。
「ふむぅ。すぐに解決出来ないのがなんとも」
「だんちょ〜が系統毎に分かれた能力指南書みたいなのを作れば良いんじゃないの〜?」
それは俺もちょっと思った。
けど、それはかなりの重労働じゃないかね。
天魔君。パソコンとか使えないよ? ワンフィンガータイピストだよ? 手書きなんてもっと嫌だしさ。
「あたしが手伝っても良いけど〜。まあ〜それは後で考えようか〜」
そうね。残りは三年生。
それとする意味があるのか分からない講義。
お金を貰ってる訳だし、分からないなりに頑張ろう。
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