第80話 講義


 「三年生は教員が付き添っての狭間攻略がメインになります」


 大体の国には探索者学校がある。

 そして、10.9.8級の狭間は主に探索者学校の生徒達の為のものだ。

 学校近隣に発生した狭間を攻略するのが、授業のメインになる。


 近隣に学校が無ければ、新人探索者の仕事になるみたいだけど。

 10級とか毎日の様にどこかしらに発生するからな。


 「ふむん。思ったよりしっかりとした指導体制にはなってるんだな。教員の知識不足と人員不足さえ解消すればなんとかなりそう」


 流石に狭間には同行しないので、三年生は見る事は出来ない。

 講義の時に顔合わせになるかな。




 「回ってみていかがですか?」


 「解決策は見つかりましたけどね。時間はかかりそうです」


 「面白い能力もたくさん見れたしね〜」


 探索者のレベルが低いから、もっと指導体制は適当な感じかなと思ったけど。

 出来る事はやってるよね。


 まぁ、そりゃそうかって思う。

 狭間からのドロップ品は国の発展に繋がるし、国防にも繋がる。

 積極的に育成したいわな。


 「だからこそ、日本が生産系能力者の学校を作ってないのが理解出来ない」


 日本は得意じゃないか。

 色々な物を独自進化させるのが。100年のうちに変わってしまったのかね。


 「この後は講義になりますが、大丈夫ですか?」


 「大丈夫ではないですね」


 ノリで生きてる俺になにを話せと。

 適当な事しか言えませんよ? 





 「現代に帰ってきて一番憂鬱かも」


 「老害事件より〜?」


 「良い勝負かも」


 まもなく講義。

 舞台袖で会場をチラッと見てみたけど、全校生徒が集まっている。

 なんか胃が痛くなってきたかも。配信とかなら余裕だけど、これはキツい。


 「では、織田天魔さんの御登場でーす!!!」


 司会は相変わらずキマっちゃてる校長先生。

 テンションがおかしいんだよ。


 「頑張ってね〜。ここで応援してるよ〜」


 「薄情者め」


 桜は舞台袖から出ない。

 校長からは是非って言われてたけど、笑顔で固辞していた。

 今はニヤニヤしながらスマホで動画を撮っている。晒し者にする気か。



 「どうもー。織田天魔です」


 外行きの愛想笑いを顔面に貼り付けていざ。

 こういう時イケメンで良かったなって思います。

 舞台に行った瞬間、みんなからの視線が凄い。

 心構えしてなかったら、ビクってなってたかも。


 「いやぁ。たくさんの生徒さんがいておじさん緊張しちゃいますね」


 一応問題があった時の為に校長先生が控えてくれてはいるけど、この人はアテにならない。

 なんなら生徒の席に混ざりに行こうとしてるからな。


 「さてさて。各地の学校巡りをするにあたって、講義をして欲しいって協会にお願いされてるから、今回この場を設けてもらった訳なんだけど…」


 少し言葉を切って生徒を見渡す。

 なんか期待されてる目が多数なんだよね。俺を神聖視しすぎでは? いや、自分がそういう風に見られるためにした結果なんだけどさ。


 「つい最近までニートだった俺は何を話せば良いんだろうね。日本に1級が三つも出現して、どうしようもないから探索者活動を始めたけどさ。それが無ければ今頃ずっとゴロゴロしてたよ?」


 生徒達は冗談だと思ったのか笑いに包まれる。

 本当の事なんだけどね。日本というか、地球がピンチじゃなければ現代に返ってきてない。

 今も魔の森でゴロゴロ生活をしていた事だろう。


 「って事で、とりあえずこれから探索者になる人へのエールというか。アドバイス的な事が出来たらなって思います」


 無難と言うなかれ。

 こういう基本的なことが大事なのです。

 上に進めば自然と必要な事は分かってくるからね。


 「まず、微妙な能力だと落胆してる人へ。戦闘系の能力を持ってるなら、どんな汎用能力でも3級ぐらいまでならソロでやっていけます」


 生徒達は驚きの声を上げる。

 けど、それは当たり前の事なんだよね。


 「良く考えてみて下さい。俺の能力は『憑依』で、天使みたいになれますが…」


 ここで分かりやすくするために適当な天使に憑依する。生徒達は感嘆の声を上げるが、それはさておき。


 「これ、まぁ、見た目はかっこいいですけど。魔法を使えるだけですからね? 空を飛べる利点もありますが、それが必要な機会なんて狭間では滅多にありません」


 若干の身体強化もあるけどそれはご愛嬌。

 みんな見た目に騙されてるけど、ほとんど魔法を使えるだけなんだよ。


 「確かに各属性を使えますけど、極めるのはかなりの時間がかかります。俺も使いこなせてるとは言えません。それなら一属性のみを極めた方が効率が良いでしょう。そして、一属性を極めたなら3級どころか、1級の狭間攻略も容易になると思います」


 魔力量も必要だけど、それは場数をこなせばなんとかなる。

 で、魔力量が持つなら1級なんて楽勝だ。

 所詮Bランクの魔物なんだし。


 そう考えると、今のギルドで伸び代がやばいのは『風神雷神』になるな。

 あそこは魔法使いがいっぱいいるし、魔力量が増えると一気に日本トップに躍り出るだろう。


 「まぁ、長々と言いましたが、俺が言いたいのは、どんな能力でも極めれば強いって事です。見た目の派手さに誤魔化されないようにね」


 異世界でもたまに居たんだよ。

 珍しい能力を授かって、選ばれた人間だーって言う奴が。

 魔王に負ける前の俺とかな。女神に選ばれたって思い込んでた事もあって、かなり増長してました。

 天使なんてのを憑依出来たぐらいだしね。


 現代のみんなにはそうなってほしくない。

 既に能力者と非能力者での差別はあるけど。

 そこは言っても仕方ない。人間だもの。

 下を作らないと気が済まないのは一生変わらない。でも、能力者の中での差別はやめてほしいね。

 そんな事してる暇があるなら、訓練してさっさと狭間を攻略しろと言いたい。

 俺が楽する為にもさ。

 


 

 

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