第75話 オマージュ


 「わっしょーい! やって来ました! 3級!」


 「外に出るのを嫌がってたくせに〜。いざ出るとテンション高いね〜」


 なんだろうね。外に出るまでの過程が面倒なのかな。いざ出ると楽しくなってくるんだよ。


 「ポテに見送られたからいつもより1.2倍増しのテンションでお送りするぜ!」


 「あれは見送ったって言えるのかな〜」


 家から出る時にポテに行って来ますしたら、ご飯を食べてお眠だったのか、ベッドに転がりながら一声鳴いただけだった。

 あいつに寂しいという感情はあるのかね。


 それから車を走らせて落札した狭間へ。

 近くのパーキングに車を停めたんだけど、既に野次馬が大量発生していた。

 SNS経由で知っていたとはいえ、近隣の方に迷惑すぎやしないだろうか。

 近くに狭間が出現しただけでも迷惑なのに、野次馬もセットで来るんだから。


 「マナーの徹底は急務だな」


 「SNSで呼び掛けはしておいたけど〜。後は民度が試される感じだよね〜」


 人間には期待薄だろうなぁ。

 日本はまだマシな方なのかな? アメリカとかパパラッチが凄そう。

 100年経って変わったのかもしれんが。


 「さてさて、今回は桜さんがメインで攻略する訳ですが!」


 「アンデッドじゃなさそうで一安心だよ〜」


 野次馬を適当にあしらって、3級の狭間に突入した。腐ったアンデッド特有の匂いはしないから、桜さんでも戦えるだろう。


 「ちょっと待ってね。これ、もう撮れてる?」


 「その上のボタンを押したらスタートされるよ〜」


 「一時停止する時は?」


 「その隣のボタンだね〜。でもノーカットで撮るんでしょ〜?」


 その予定だけどね。何があるか分からないから。

 それにちょっと機械は難しいので。

 撮影が始まる前にある程度聞いておかないと、俺の馬鹿を映す事になっちゃうでしょ?

 この前のゲリラ配信でも、ちょっと馬鹿にされたんだから。


 「にしても、3級でフィールドタイプって珍しいな」


 「ね〜。いつもの洞窟みたいな感じだと思ってたよ〜」


 目の前に広がるのは森。

 特に違和感とかも感じないし、偶々なんだろうけど。森って、魔物を特定するのが難しいんだよな。


 「憑依ポゼッション:純潔ガブリエル


 万が一の時の為に憑依だけはしておく。

 桜さんも指から極細の糸を垂れ流しており、戦闘準備はばっちりだ。


 「はい。じゃあ撮影開始ー」


 ポチッとな。これで大丈夫だよね?


 「ねぇねぇ。これで本当に撮れてる? 不安なんだけど」


 「上にマーク付いてたら大丈夫だよ〜」


 あ、これか。よしよし。大丈夫そうだな。


 「はい。どうも皆さんこんにちはー。織田天魔でーす。今日は3級攻略なんですけどね。桜さんメインで頑張ってもらおうと思います」


 「いえ〜い!」


 うむうむ。桜のノリがよろしい。

 楽しんでるようでなによりだ。


 「こっからは特に解説もなく垂れ流しになると思いまーす」


 俺が解説とかしながら進んでもいいけど、途中で飽きる可能性があるので。

 それなら最初から放棄する。


 「ん? あーなるほど。鳥系か」


 「遠距離への攻撃手段がないと辛そうだよね〜」


 ゆっくりと歩きながら森を進んでると、バサバサと翼が羽ばたく音が聞こえた。

 どうやら今回の魔物は鳥系の魔物らしい。


 「フォレスト・イーグルじゃん。なつか…」


 「夏〜?」


 「いや、なんでもない」


 懐かしいって言いそうになった。

 異世界であいつは良く狩ってたんだ。

 美味いんだよ、あれ。庶民のご馳走だった。

 危うく動画に流すところだったぜ。


 「思ったよりも早いから気をつけろよ」


 「魔法使ってるよね〜?」


 「風魔法な」


 自分の速度を上げるのと、攻撃手段として使ってる。ランクはDと一人前の冒険者なら勝てるけど、慣れてきた頃に、油断するとやられるタイプの魔物だ。


 「んふふ〜。糸使いには先達がいるからね〜。ありがたくオマージュさせてもらうよ〜。弾糸」


 そう言った桜の指から高速で射出されたのは糸を丸めた弾丸。

 桜はどんな糸でも出せるらしいからな。

 金属糸でも丸めて出せば、もう立派な銃である。

 翼に弾が貫通して、フォレスト・イーグルは墜落。そのまま絶命して魔石へと変わった。


 「フッフッフッ〜」


 「その笑い方はモロなんだよなぁ」


 そこまで似せるとパクってるのがモロバレである。糸使いのキャラって強キャラばっかりだもんなぁ。漫画とかラノベを見るだけで技の参考になるよね。


 「あ、素材回収も俺の仕事だ」


 俺は風魔法で魔石を手繰り寄せる。

 そして。そのまま持っていた大きなカバンに放り込む。


 「桜の糸の方が回収に向いてそう」


 「今日はだんちょ〜が雑用してくれるんでしょ〜」


 おっしゃる通り。桜には攻略に集中してもらおう。雑用はなんでもやりますよ。

 異世界ではほとんど一人でなんでもやってたんだ。任せてくだせぇ。


 「さて、この調子で進もうか」


 「試したい技はまだまだあるよ〜! この日の為に漫画を読み込んで来たからね〜! それに一本の糸で上手く首を刎ねる練習もしないと〜! 並列起動したいからたくさん数が出てくれると嬉しいな〜」


 桜さんは更にパクリ宣言を為された。

 まぁ、勝てるならなんでも良いや。

 俺だって、カッコいい魔法とか普通にパクるし。

 いや、言い方が悪いな。オマージュさせてもらうし。

 それで強くなれるなら、なんでもやるってもんよ。


 

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