第22話 最後の1級へ


 「んあ〜、ねむい」


 「あたしも〜」


 ホテルのチェックアウトの時間ギリギリまで寝ていた。別に延長しても良いし、今日中に狭間を攻略しなくてもいいからダラダラするのもありなんだけどな。


 それを続けるとダメ人間になりそうだから。

 俺は一旦引きこもると長い人間なんだよ。

 異世界で実証済みであります。


 欠伸混じりに、博多の街を歩きながら狭間へと向かう。

 夜のプロレスでハッスルし過ぎたせいもあるんだけど、協会が編集した動画が良過ぎてついつい見返したりしてたら寝るのが遅くなってしまった。


 「大村さん引っこ抜けないかなぁ。あんな動画作ってくれるなら毎回同行してもらいたい」


 「撮影の能力持ちを探すのもありだけど〜スカウトする方が手っ取り早いよね〜」


 なんか映画を見てる感じだった。

 それを1週間ぐらいで編集した大村さんはきっと凄腕なんだろう。

 テレビ局で酷使されたのも頷ける。

 こんな画が撮れる人間は使わざるを得ないだろう。


 有能だからこそ、厚遇して酷使するべきじゃなかったと思うんだが。

 テレビ局は魔境って言うからねぇ。

 視聴率の為には仕方なかったのかも?

 結局耐え切れず辞められてるから、失敗だったとは思うが。結果論ですな。


 大村さん引っこ抜いたりしたら協会との関係が悪くなるかもなぁ。

 偶に貸してもらう感じの方がいいのかな。

 あんな動画作れるって事は有能なんだろうし。

 でもうちのギルドの広報に是非欲しい。


 因みに、能力はその人固有の物ではなく、結構被りもある。

 魔法とか、剣術とかね。

 それでも毎年見た事ないような能力が出てきたりするんだから面白いよね。

 桜の万能糸も異世界では見た事ないしさ。

 俺が魔王討伐してからは引きこもってたから、もしかしたら居たのかもだけど。


 だから、そのうち憑依の能力者とかも出てくるんじゃないかなぁと思ってます。

 使いこなせるかはさておき。結構癖がある方々ですからね。まず、憑依対象が天使かどうかも分からんけど。


 神とかに憑依出来る人間が出てきたりするんじゃなかろうか。

 そんな奴が出てきたら、多分俺はイチコロでやられるだろう。まず天使達が使い物にならんと思う。

 あいつら、神ってだけで盲目的に崇拝するからな。まぁ、そのお陰で腹黒女神と対等に話せる俺に簡単に憑依してくれるからありがたいんだけど。


 ホテルから出ると、既に出待ちしてたように野次馬がいて、俺達が歩いてる後ろからゾロゾロとついてくる。


 これ、他の通行してる皆さんの邪魔になったりしてませんかね?

 次からどこどこに向かう時は告知しない方がいいかも? いや、告知して交通規制やらしてもらった方がいいのかな?

 そういう事に警察さんを使うのはよろしくないんだろうか。

 


 「ふあぁ。だめだ。やっぱり眠い」


 「やる気無さそうだね〜」


 ある訳がない。気分はもう既に夕食のモツに向かっている。

 予約も既にしてるし、今から想像するだけで涎が出てきそうになるね。


 「キリッとした顔しとかないと〜。さっきから結構写真撮られてるよ〜」


 「分かってないな。偶にこういう抜けた感じを出してるのが良いんじゃないか。ギャップ萌えってやつだよ」


 しらんけど。きっとそうだと思う。

 完璧超人より、親しみのある感じの方が良いと思うんだよ。

 少なくとも俺はそう感じる。


 前世は芸能人とかプロスポーツ選手がチヤホヤされたりして羨ましいなぁって思ってたけど、有名人になると本当にプライベートってなくなるんだな。

 俺はそういうのを苦にしないから大丈夫だけど、神経質の人とかはさぞかし苦労しただろう。


 そうこうしてる内に、狭間に到着。

 なんかテレビ局の人とかも来てて、実況したりしてるけど、俺を無断で映すのはありなの?

 お金出ますか、それ? 訴えたりしたら勝てるだろ。


 「やっぱりこの狭間なんか変だなぁ。違和感があるんだよ。偽装してる感じがする」


 改めて狭間の前にやってきたけど、やっぱりおかしい。なんだろな、これ。

 いっぱい狭間見てきた訳じゃないから、断定は出来ないんだけど、ムズムズするというか。

 嫌な予感はひしひしとするね。


 「偽装ってどういうこと〜?」


 「1級じゃないかもって事」


 「う〜ん? 私には普通に見えるけどな〜」


 「まっ、入ってみたら分かるだろ」


 気にする事はあるまい。

 だって俺は世界救った事があるんだもの。

 流石にそれよりハードな事はないだろうよ。

 これが終わったら、当分攻略はしないだろうから多少疲れてもいいしさ。

 あれ? ちょっとフラグっぽい?




 「ん? んんん? いやいや。えー」


 「凄いね〜」


 狭間に入って初めに目に入ったのは、見渡す限り、銀世界の大雪原だった。しかもこれは見覚えがある。

 フラグか。フラグを立ててしまったのがいけなかったのか。

 どの旗がいけなかったんだ? 次回からの参考にするから教えてほしい。


 「禁忌領域じゃん。マジ? 面倒だなぁ」


 「さっむ〜い!」


 桜はかなり薄着だからなぁ。吹雪いてるし、そりゃ寒いだろうよ。

 桜は体中から糸を出して丸くなる。

 君はそれで戦えるのかい? また俺が一人で戦う事になるじゃんか。

 ここの魔物に桜が勝てるかは微妙だけど、やる気は見せてほしいもんです。

 さっきまでやる気なかった俺が言う事じゃないけどさ。


 「だんちょ〜の知ってるとこ〜?」


 「知ってるなぁ。流石にここは忘れない」


 だって初めて魔王と戦った場所だもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る