第282話 スラム一掃
スラムの犯罪スキル徴収は、突然始まった。
いや、俺たちは綿密な計画の上で動いているが、スラムの住民にとっては突然始まったと感じられたということだ。
「あれはスキルを買った御仁ではないのか?」
「俺たちのスキルも高く買ってくれて、仕事を斡旋してくれるに違いない!」
「いや、待て。あの時はたしか特定のスキル限定だったはずだ。
知り合いが声をかけられたが、特定のスキルを持っていなくてそれっきりだったぞ?」
「じゃあ、俺たちもその特定のスキルが無ければ用済みってことか?」
どうやら一部、俺が【清貧】スキルを手に入れた時に声掛けした人物が含まれていて、その時に関わった人物が良い思いをしたという話がスラムに広まっていたようだ。
となると、それを利用しない手はないな。
「今回は違うスキルを探している。
その【鑑定】時に犯罪スキルを持っていたならば、タダで取り除いてあげよう。
犯罪衝動によって犯した罪は恩赦も検討しよう」
その恩赦の言葉に一部がザワついた。
だが、大多数はきょとんとしている。
恩赦の意味が理解出来ないのだ。
おそらくこれは日本語で伝わったからではなく、現地語でも特定の知識層しか恩赦の意味を知らないということが原因だろう。
「恩赦とは犯罪を見逃し罪を減じるということだ」
厳密に言うと違うが、この場では彼らが理解し易いようにそう説明しておく。
「なんだって!」
「そんなことがあるのか?」
スラムの住人がザワつく。
彼らは脛に傷持つ者が大半なのだ。
「犯罪衝動に抗えなかった場合は、犯罪スキルのせいだからな。
元は善良でも犯罪スキルにやらされたとなれば考慮する必要があるだろ」
かと言って、殺人や強盗、強姦などの重大犯罪を見逃すつもりはないんだがな。
せめて減刑というところだ。
「俺はやるぞ」
「俺も」
「俺も」
だが、それが脛に傷持つスラムの住人には免罪符に思えたのだろう。
次から次へと志願者が増えた。
こうしてスラムに長い列が出来た。
広場にいくつもの幕舎が立てられ、その前に列が出来る。
1つ目の幕舎で【鑑定】を受け、その結果によりお帰りいただくか、2つ目の幕舎に向かうか、4つ目の幕舎に向かうかが決められる。
2つ目の幕舎ではスキル除去の施術を行い、施術を受けた後は3つ目の幕舎に向かってもらう。
そして3つ目の幕舎でお金をもらって帰るか、4つ目の幕舎に向かうかが決まる。
4つ目の幕舎ではその先が更に5つ目の幕舎と6つ目の幕舎の2つに分かれていた。
5つ目の幕舎では勧誘があり、6つ目の幕舎では捕縛が待っていた。
1つ目の幕舎での分かれ目は、スキルを除去する必要の有無だった。
これは犯罪スキルの他にハズレスキルやバッドスキルも該当する。
2つ目の幕舎ではスキル除去の意志確認が行われ、魔導具による該当スキルの除去の有無で分かれ目となる。
3つ目の幕舎での分かれ目は、これ以上引き留める必要の有無。
4つ目の幕舎での分かれ目は、有益なスキルを持っているか、極悪犯罪人かだった。
「やったぞ!
3つ目の幕舎で解放された人物からそんな声があがる。
それに釣られて更なる住人が寄って来る。
だが、これは所謂サクラだ。
スラムの住人がお金を持っているなどと口にする訳がない。
そのお金を奪うためにハイエナのように犯罪者が寄って来るからだ。
だが、それは熱狂をもって歓迎された。
その犯罪者もお金を得るため列に並んでいたからだ。
「あなたは、働く気がありますか?」
そして、有用なスキルを持っている犯罪歴の無い人物には、リクルートをかけた。
優秀な人材がなんらかの理由でスラム落ちしているなんてことがあるのだ。
「働かせてくれるのか!?」
彼らは社会から疎外されスラムに流れて来ただけで、働く意欲がある者もいた。
そう言った人物を積極的に雇った。
そして、彼らは教育を受けて、北方に送られた。
北では特定の貴族に連ならない人材を必要としていたからだ。
特定の貴族には、いまだにアレキサンドルに傾倒している者もいるのだ。
そういった貴族がアレキサンドルに補給物資を送っているのだ。
こうしてスラムでの犯罪スキル徴収と、犯罪者の捕縛、そして人材のリクルートが行われていった。
ちなみに軽犯罪者には恩赦が付き、罪を減じられている。
そして、義勇軍としての北方への派遣に同意すれば兵士になれると勧誘した。
腹いっぱい食える兵士という立場は魅力的らしく、罪が軽くなるということもあり、志願者が後を絶たなかった。
そして、凶悪事件の犯人たちだが、彼らにはこの国の法では死罪を申し付けるところだったのが、罪を減じて生かされ、犯罪奴隷として北方送りとなった。
「ちくしょう、騙された!」
そう叫んでも後の祭り。
5つ目の幕舎から聞こえて来る高待遇のスカウトの声に、ソワソワしつつ6つ目の幕舎に入る者たちが後を絶たなかった。
6つ目の幕舎には音漏れ防止の魔法結界が張られていたため、次に待っている人物がその叫び声を聞く事が無かったからだ。
そして二度と戻って来なかった。
その後、スラムに隠れていた手下を招集した闇ギルドの幹部が、手下が誰一人居なくなっているという異変に気付く。
そして、このスラムでのスキル売買の話を聞く。
そこに浮かんだ首謀者は……俺だった。
「だからアンタッチャブルだって言っただろうが!」
悪いことでなく良いことであってもオーブ屋の主人に関わってはいけない。
そう通達が出た時にはもう遅かったのだった。
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