第281話 犯罪スキルを徴収する

 ハズレスキルは、それ単体で役に立たないと見做されたスキルのことであり、それがレベルアップすると有用なスキルに化けることもある。

だが、往々にして大したことの無いスキルのことを指す。

持っていてもスキル所持数上限の邪魔となるだけで、放っておいても害となることはない。


 スキルにはスキル所持数の上限があるのだが、それは当人がレベルアップすれば増えていく。

そして、滅多なことではスキル所持数の上限に達することはない。

スキルオーブを大量購入し増やしているような者限定の小さな悩みの種だったりする。

ただ、そのような者は、スキルを取り出す魔導具の存在も知っているし、その施術のためのお金も持っているため、お金を払ってスキルの整理をする。

取り出したスキルはスキルオーブ化されるため、レベルアップでスキル上限が増えた時に戻すことも可能なのだ。


 俺みたいに【α2J】で有用なスキルを増やせるとなると猶更なのだが、俺の場合は同時にレベルも高くなっているので、上限に達したことがない。

強力なスキルを使用したことにより、莫大な経験値が入って来るからな。


 バッドスキルは所持しているだけで効果を発揮し、当人に害を齎すスキルのことをいう。

これに犯罪衝動が乗ると犯罪スキルとなる。

バッドスキルは小さな不幸を齎すという感じだが、犯罪スキルはその犯罪を犯す確率が上がる。

善人に犯罪スキルを与えただけで犯罪者となってしまうという極悪スキルだ。


 ただ、犯罪衝動は強い意志を持っていれば抑えることが出来る。

そのように犯罪衝動を抑えて立派な人物となった例もある。

ただ、子どものうちからそのように自らを律するのは難しいため、犯罪審議官により犯罪スキルは封印されることが多い。

王国民ならば、子供のうちに犯罪スキルを発見し、犯罪審議官に封印してもらうのは常識となっている。

その子供が成人し、お金にも余裕があれば、オーブ屋に行って犯罪スキルを取り除いてもらうということが行われるのだ。


 成人してから取り出すというのは、子供ではスキルを取り出す痛みに耐えられないからという理由だ。

封印で無力化してあるならば、リスクを負ってまで直ぐにでも取り出そうという気にはならないものである。


 ただ、王国民でもスラムの住人であったり、他国からの流れ者であったりすると、その限りではなくなる。

闇ギルドなどでは、わざと犯罪スキルを手に入れて犯罪を極めるなどということも行われるそうだ。


 俺の提案は、その犯罪スキルの取り出しを国策により行おうというものだった。

犯罪スキルを取り出すと、それの処分方法は元の所持者に委ねられる。

取り出したオーブ屋に処分を任せる、記念として持ち帰る、何らかの目的で販売を画策する、それら全ての選択肢は元の所持者の思うままだった。


 それを国が代金を払って行うからには、犯罪スキルの所有権も国にあることに出来る。

つまり闇ギルドに流れる怪し気な犯罪スキルの供給源を断つことも出来るわけだ。

巷での犯罪衝動による犯罪も減ることだろう。


 封印も万能ではなく、たまたま解けてしまうということもあるらしい。

魔が差した、その内容が犯罪スキルと合致してしまうと、封印が解け易いとか。

そこには犯罪スキルを齎した悪神の意向が働いているとも言われている。


「国策により、犯罪スキルの強制徴収を行う。

とりあえずは希望者優先で行うが、後に強制執行に移行するつもりだ」


 俺がそうカトリーヌに提案すると、カトリーヌが怪訝な顔をした。

ちなみにカトリーヌが宰相をしているからそのような形になっている。

王といえども、簡単に国政には介入出来ないのだ。


「それを実現するのに予算が必要なことはご存じでしょう?

そこまでして行う理由がありません」


「犯罪が減るじゃないか」


「今の犯罪審議官がみつけて封印するだけでも問題ないと思いますが?」


 カトリーヌは現状の封印だけでも問題ないとの認識だ。


「それは犯罪審議官が把握できて初めて行われるものだ。

その目が行き届かなくて、犯罪者となってしまう子供たちがいるのだ」


 いや、本当は、犯罪スキルを使って有用なスキルに変換したいからなんだけどね。


「たしかにそれはありますが……。

それならば、希望者優先と矛盾してませんか?」


 鋭い。

希望者とは犯罪審議官に封印してもらっている、犯罪スキル封印済みの当事者だもんな。


「それは、犯罪スキルを国で取り出す宣伝アピールのためだよ。

訳の分からないものに、協力する気にはならないだろ?」


「あなたは、これが訳が分からないものだと理解されているのですね?」


 しまった。

実際そうなのだから、困ったものだ。

俺がスキルを変換するから有用になるのだ。

それを伝えないままでは、カトリーヌも承諾しないか。


「以前、言ったと思うが、俺はスキルを弄って新しいスキルに出来る。

犯罪スキルを犯罪にしか使えないスキルから、まともに使えるスキルに変換するのが目的だ。

それを国の発展のために使いたい」


「やはりそうでしたか。

あなたが、獣人軍の中でやっていたことがそれなのですね?」


 どうしてバレた?

カトリーヌの情報収集能力、どうなってるんだ?

あれか、スキルの鑑定に王国の【鑑定】持ちを動員したから、そこから情報が漏れたか。

ここまでバレているならば、隠す必要も無い。


「ああ、素材が多ければ多いほど、有用なスキルが手に入る。

それで戦争を終わらせるつもりだ」


 その俺の言葉にカトリーヌがため息を吐いた。


「戦争継続よりも、戦争を終わらせるために、その策に予算を付ける方が安そうですわね」


 カトリーヌが折れて、犯罪スキルの徴収には予算が付くことになった。


「そうね、まずスラムからやってしまいましょう。

犯罪の温床から手を付けた方が国民にも好印象で迎えられましょう」


 いや、それマジで強制執行じゃないの?

俺は、希望者から始めて、理解を深めてからの、ゆるーーい強制のつもりだったんだけど?


「やるなら徹底的にです。

その先を予測されて犯罪者に逃げられたらどするつもりですの?」


「はい、その通りです」


 その考えには至っていなかったな。

さすがカトリーヌ、若くして宰相代理を務めていただけはあるな。

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