第207話 ジョブ復活

 オーブ屋に戻って来たのは、ゴーレム弄り以外にやることがあったからだ。

それもコータには見せられないことを。

コータにオーブ屋の工房を貸さなかったのはそのためでもあった。


 サブちゃんからやっと【女】のつくスキルオーブを手に入れたのだ。

それは【女難】のバッドスキルだった。

サブちゃんは、最初このスキルオーブを渡す事を躊躇っていた。

それは俺が使うと思われていたからだった。

女好きに【女難】なんて渡せない、それがサブちゃんの職業倫理に抵触したのだ。


「俺が使うんじゃないんだってば」


 そう言って納得してもらうのには時間がかかった。

サブちゃんもリクエストのあったスキルオーブを他に用意出来なかったために、最後には折れてくれた。


「まあ、自分で使うわけないもんな」


 加えて【掃除】も手に入った。

これで【賢者】と【聖女】のジョブが作れる。

やっとシノンギャル子碧唯優等生っ子にジョブを戻してあげられる。


 と思っていたのだが、そう簡単にはいかない理由が出来てしまった。

それは、カトリーヌ王女の関与だった。

なぜか、王女ともあろう人が、フットワークも軽くこのオーブ屋にアポイントメントもなしでやって来るのだ。

そこでシノンギャル子碧唯優等生っ子にジョブが戻ったと気付かれても困る。

俺が【速攻鑑定】を持っているように、他の誰かが【鑑定】を持っていないとは限らない。

お付きにそんなスキル持ちが1人居るだけで、ジョブが戻ったことが発覚しかねないのだ。


 他人を勝手に【鑑定】することはマナー違反だとされ、何度も繰り返すと軽犯罪の犯罪スキルまで付くという。

だが、犯罪スキル覚悟で【鑑定】されたらどうする?

いや、王女に対面で【鑑定】することをお願いされて、弄られている俺はノーと言えるのか?

お願いを受諾して、ジョブ発覚なんてなったらどうする?


 ここは、【鑑定阻害】とか【ステータス隠蔽】とかが無ければジョブの復活は危険かもしれない。


 せっかく、ジョブを復活させられそうなのに。

魔導具でなんとかならないかを含めて要検討だな。


 俺の場合は、【隠蔽】Lv.MAXがステータスにも影響することが分かっている。

それを常時使うか、王女が来ている時だけ使えばどうにかなると思う。


 シノンギャル子には姿を変えるために【相似】を与えている。

その【相似】でステータスを模倣することも出来るのだが、それには時間制限があり、相手が【鑑定】を使うというその時を狙って【相似】スキルを使う必要があった。

これもレベルの上昇により有効時間が延びるのだが、その内容は誰かのコピーなため、ジョブの無いはずのシノンギャル子に一般的なジョブがあるという珍事になりかねない。

直ぐにでも偽装バレすることだろう。


「王城で2人のステータスを確認させてしまったから、あれ以外が出ても疑われるんだよな」


 となると鑑定不能にさせるか、そっくりそのまま偽装した内容を見せられるようにするかだろう。


「ということで、リュミエール相談がある」


 スキルでどうにかするにしても、ピンポイントで使えるスキルを俺は知らない。

なので天才魔導具士リュミエールの魔導具に頼ることにしたのだ。


「何の用なのです?」


「悪いな。

ちょっと智識を貸してくれ」


 こういう言い方をするとリュミエールは上機嫌になって饒舌になる。

リュミエールしか知らないことを教えてくれと懇願されているわけだ。

気分が良くなって当然だろう。


「ステータスを任意の内容に偽装する魔導具はあるか?」


 これは明らかに犯罪絡みの用途に近い魔導具だ。

そんな禁忌物を訊き出すには、多少持ち上げておいた方が良い。


「名前、ジョブ、スキルが見えなければ、あるいは違う内容になれば良いのです?」


「そう、それ」


「王族がお忍びで外出する時に、正体がバレて誘拐されたり暗殺されないための魔導具として存在するのです。

それが誰かに模倣されて犯罪に使われたのです。

なので製造中止になったのです」


 ああ、やっぱり。

悪用する奴が出るよね。

それにしても誰かに模倣されたってコータの仕事じゃないよな?


「製造中止になったということは、模倣品の出所も製造出来なくなったということだよね?」


「不完全な模倣品を生み出す能力者がいたようなのです。

それ以来、シリアルナンバーを付けて誰の魔導具が模倣されたのか判るようにしたのです。

模倣に協力したら、魔導具は没収なのです」


 能力者による模倣品は同じシリアルナンバーになるわけね。

使い続けたいならば模倣させるなってことか。


「それならば、所持は禁止されていないんだよな?」


「王族と縁者だけに限定されているのです」


 俺が準王族扱いで、彼女たちはその縁者だって言えるよね?


「じゃあ、シノンギャル子碧唯優等生っ子の分は構わないよね?」


「縁者枠に入れられるのです。

でも新しく作るのは禁止なのです」


 新しく作らなければ良いんだよね?

ということは……。


「在庫はあるか?」


 在庫があれば、登録して使うだけ。

リュミエール所持の魔導具を貸しているでも構わないな。


「私が貸したことにすれば、問題ないのです」


 よし、これでステータス偽装は問題なくなったぞ。


 ◇


 シノンギャル子碧唯優等生っ子を呼んで、ステータス偽装のネックレスを装備させる。

その内容は今現在の彼女たちのステータスそのものだったが、その名前と召喚者固有スキルは偽装してあった。

それが簡単な【鑑定】で得られる情報。

そして、レベルが高い者に【鑑定】させると偽装が解けて名前と召喚者固有スキルが見えるという感じだ。

一度嘘の情報を掴ませて、まだ疑いの目を向ける者には、それ以上掘った先にも嘘の情報が待っているという二段構えだ。

探った先には王女の所にある鑑定結果そのものが現れるという感じだな。


 なぜそんなことをしたのかというと、勇者崩れには召喚者だとバレたくないし、王女にはジョブが復活していることをバレたくないからだ。

王族である王女にはステータス偽装のネックレスの実物を知られている可能性が高い。

そのための二段階目なのだ。


 そして【女難】から【女】をカットしてストックの【聖】にペーストし【聖女】にし、それを【職業授与】で碧唯優等生っ子に授与した。

すると無くなっていた回復系スキルが勝手に復旧していった。

これで碧唯優等生っ子は【聖女】に戻った。

ちなみに、碧唯の騎士妹姿の時の偽装名はカノンになった。

紛らわしいのは勇者崩れ対策でわざとだ。


 【粘液】から【粘】をカットして【賢】に誤字変換、【掃除】から【除】をカットして【者】に誤字変換、【者】を【賢】にペーストして【賢者】にし、それを【職業授与】でシノンギャル子に授与した。

これで恵里香ギャル子も【賢者】に戻った。


 念願のジョブが戻り、シノンギャル子カノン優等生っ子は勇者パーティーの時の力を取り戻すことが出来た。


「これでダンジョンにも付いて行ける」

「笠井さんが勇者でシン勇者パーティてやつだね」


 なんか違うが、2人に自信が戻ってなにより。

これで自衛力も格段に上がったな。

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