第208話 ゴーレム造り1

 シセルとレビーナに加えてマノンが店舗に復帰し、リュミエールが魔導具造りに専念できるようになった。

猫っ子と犬っ子もダンジョンに行かない時は店を手伝っている。


 ダンジョンに行って肉や乳製品に卵、フルーツなんかを採取するのは週一で構わない。

利益を出すためではなく、うちで消費するためだからだ。


 サーラも軽作業を手伝っているし、メイドゴーレム2体も品出し等を行っている。

シノンギャル子カノン優等生っ子が完全裏方でも良くなり、不審者との不測の遭遇に備えることが出来るようになった。

警備もライトとレフトの警備ゴーレムがいるため、エルルもハウスキーパーの仕事に専念出来ている。

俺担当の犯罪スキルの取り出し依頼も無い。


 つまり、俺が店を留守にしても問題がない状況がそこにはあった。


 そして衛兵隊司令のクソ貴族が失脚してから、王都の守りに穴が無くなった。

これが本来あるべき姿なのだが、そんなザルの状態が長かったというのも貴族社会の弊害なのだろうか。

これにより勇者崩れが王都に再侵入する懸念も減ったと思って良いだろう。

オーブ屋が勇者崩れに狙われたとして、門で一騒ぎあって、店の前で衛兵隊と揉めて、そしてオーブ屋で対処という流れとなる。

これならば、俺が不在でも充分に対応可能だろう。


 コータは借りた工房に隔離したし、俺たちを探りに来ているだろう王女も、俺と黒髪の少女2人の姿が見えなければ肩透かしになるだろう。


「これは俺にコータの工房で作業しろってことだろ」


 俺はここぞと趣味に偏ったゴーレム造りDIYを楽しむことにした。


 ◇


 工房までやって来ると、コータが熱心に作業をしていた。

コータが今使っているのは陶器の焼物を焼くような窯だった。


「結局、セラミックになっちゃったよ」


 元のゴーレムの中身は、ミスリルと鉄の合金だった。

それで重かったわけだが、全ミスリルにするにはさすがに金が無かった様子だ。

なので中身をセラミックで作ることにしたようだ。

そこに魔力を通す経路としてミスリルを後で配線することになる。


 コータのゴーレムもコアとなる魔宝石と燃料となる魔石を搭載していた。

まあ、俺が渡したゴーレムを再利用していたので、そこに魔宝石と魔石が嵌っていたのは見ればわかったことだろう。

魔石は汎用化した電池型だったしね。

ただ、見本となる魔宝石は取り除いてあった。

だから制御用の魔法陣や制御魔法は、コータが1から書き上げたものになっている。


 だが、まともに歩行させるのにもいろいろな技術の蓄積が必要なのだ。

俺はそれを【マッドアルケミスト】からの知識で賄ったが、コータは独自に記述しなければならなかった。

そこで、歩行の完全化は諦め、夜の48手に特化した動きを再現したのだろう。

エロの執念おそるべしだ。


「人工皮膚は肉スライムか?」


「うん、これが一番手に入り易くて形状の応用が利くからね」


「生かし続けるには何を与えているんだ?」


「魔力と少量のタンパク質だね」


「まさかと思うが、どうやってタンパク質を?」


「決まってるじゃん、中出しだよ。

肉スライムが粘液を出してくれるから具合が良いんだぞ?」


 嫌な予感が敵中した。

俺もコータのように毎夜タンパク質を与えないとならないのか?

さすがにそんな機能は持たせる気は無いからな?


「人格は悪魔召喚でって言うけど、感覚器官はどうする気だ?

今は目だってただの義眼で見えてないだろう?」


「そこは悪魔になんとかしてもらうさ」


 それって悪魔に肉体を作り替えてもらうってことだよな?

そうなると、そこに居るのはただの悪魔なのでは?

肉スライムですらなくなっている気がするが……。


 まあ、他人のやることだから傍から眺めておこう。


 俺のゴーレムはミスリル骨格を採用した。

軽くて丈夫、魔力の通りも抜群だ。

外装の人工皮膚はコータ技術の肉スライムはやめて、独自路線にすることにした。

ホムンクルスを培養して肉体を造り精神を宿らせることにしたのだ。

なので、その培養槽の製作が先になった。

培養槽には培養液を溜めて、ホムンクルスの設計図とその製造過程を記述した魔宝石を嵌めて魔力を放出させる。

機器と培養液の製造は俺の思惑通りに【マッドアルケミスト】がやってくれる。

この培養槽にミスリル骨格を投入し、魔力を流し続ければ自動的にホムンクルスの肉体と精神が構築されるはずだ。


「なんかずるい」


 コータが羨ましがっているが、こちらの技術を教えないのが約束だ。

それに自分でいろいろやった方が楽しいはずだぞ。


 そしてコータが悪魔召喚の魔法陣を床に描き始める。

そこでふと気付いた。


「その魔法陣、勇者召喚とも関係があるのか?」


 俺の問いかけにコータはピクリと反応した。

彼は嘘が付けない性格のようだ。


「嘘付いても仕方ないか。

そうだよ。

あの召喚の間にあった魔法陣がベースさ。

これは召喚元が魔界で、召喚するのが低級悪魔に指定されてる。

そして、この部分で僕に隷属し、ゴーレムに受肉するように記述してある」


 つまり、基本の召喚陣にパラメータを指定しているような感じか?


「その召喚元が日本で、召喚するのを勇者候補に指定して、王族に便宜を図るように書けば、今の勇者召喚魔法陣の出来上がりか?」


「もっと細かくいろいろ弄ってるけどね」


「ならば、その弄られた部分を消す方法もあるんじゃないか?」


 そうなればカトリーヌ王女なんか怖くなくなるぞ。


「出来なくはないけど、再召喚して全く弄ってない状態にするって感じになるかな。

でも、それって失敗する可能性がかなりあるよ?

それこそジョブやスキルなんか失うかもしれないからね?」


 要検討だが、リスクも高いってことか。

そういや、俺なんかジョブが無い代わりに【α2J】なんて変なスキルがあったからな。

このスキルは今思うとイレギュラーなんだよな。

召喚を失敗したからこそ手に入った気もするんだよな。

その奇跡が二度起きるなんて無いかもしれないな。

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