第206話 工房稼働

 コータがラブドール研究を続けるための隠れ家的な工房を俺が借りる事になった。

その賃料はコータから前払いで数年分もらっている。

それを商業ギルドの支払い口座に預けて自動引き落としにしてもらった。

家賃滞納で俺が肩代わりするなんてことは、今のところ心配する必要はなさそうだ。


 まあ、俺もそこで一緒にホムンクルス型の人工皮膚搭載ゴーレムを造ることになっているので、多少の持ち出しは許容するつもりだ。


「僕が借りると国から横槍が入ってしまうからねぇ」


 コータの行動に関しては、そこらへんの自由が制限されているらしい。

それが嫌で逃げた勇者がいたために、勇者拓哉は甘やかされたそうだ。


「僕は逃げないと思われてるから、そこらへん厳しいんだよね」


 同期が逃げたにも拘らず、コータは逃げなかった。

なので、扱いが変わらずに今に至るそうだ。

なんだかんだ言って、コータ自身が今の生活を気に入っているらしい。

こうやって、こっそり自由も満喫できている。

国に睨まれて逃げるよりも、この関係を維持する方がコータにとっては居心地が良いということらしい。


「僕は今でこそ勇者扱いだけど、本物の勇者が逃げる前は、ただのサポートメンバーだったからね」


 戦闘系の勇者は厳しく管理育成され、戦場に送られたらしい。

そんな勇者はそこで王国に嫌気がさして出奔、勇者崩れに合流したらしい。


「マーランド王国の周辺国にはだいたい勇者崩れの支部があるからね。

勇者が説得されて戦争中の敵国に逃げるなんてこともあったそうだよ。

それだけこの国がやらかしてるってことなんだよね」


「じゃあ、周辺国が一致団結して攻めて来るなんて危険もあるんじゃないのか?」


「それは無いよ。

お互いの国が仲悪くて牽制しあってるし、勇者崩れも戦争に使われるのを嫌うからね。

ただ勇者崩れの組織は召喚者を救うためならば手段を択ばずに武力行使をするって感じなのよ」


 やはり、周辺国に移住するというのも厳しいようだ。

勇者崩れと最初から敵対していなければ、移住も上手くいったかもしれないけれど、反撃で6人も殺してしまったからな。

これで平和に握手して仲良くしましょうなんて無理だろ。

あの田村がやらかさなければ、少なくとも敵対関係じゃなかったのにな。


「勇者崩れが大規模にこの国に攻め込むってことはないのか?」


「今のところはテロに留まってるね。

マーランド王国はそこそこ強い国だってことさ。

いつも何処かで侵略戦争してるし、恨みも買うからその防御も厚いんだよね」


 だから大規模な軍事行動よりも少人数によるテロってことになるのか。


「だが、この国もエルフの国とは敵対したくないようだぞ?」


 外交で揉めると、しっかり謝りに来るしな。


「それはエルフィン王国がもたらす魔導具が必要だからだよ。

だから僕に複製させようと躍起なのさ。

まあ、何でも複製は出来ないって突っぱねてるけどね。

この国が強くなりすぎても問題だからね」


 なるほど、コータが多少脱線しても怒られるだけで許される理由はそれか。

そして、コータはこの国が一方的に強くならないようにコントロールしているのか?

もしかすると、ゴーレムの軍事利用を諦めさせるために、わざとラブドールを造った?


「さあ、早くレム子ちゃんを話せるようにしないとね」


 それは本気なんだろうか?

もしかするとポーズなのでは?


「コータって生身の女性はどうなんだ?」


 そりゃ生きてる女性の方が良いに決まってるよね?


「えー、生身の女性なんて王女みたいに怖いだけじゃないか。

それに女性なんて僕を利用しようと寄って来るだけなんだよ?

僕はレム子ちゃんだけがいれば良いんだ」


 こりゃだいぶ拗らせてるな。

女性の嫌な部分を見過ぎたのか?


「そうか、苦労したんだな」


 コータの人形フェチはマジもんだったらしい。

オーブ屋で他の女性たちに接触させなくて良かった。


 ◇


 人工皮膚の技術移転は直ぐに行われた。

それは人型の魔物から……グロいので省略しておこう。

皮膚がまだ生きてる・・・・・・なんて思ってなかったわ。


 俺たちが目指しているのは、言葉も話せて意思疎通の出来るゴーレムだ。

そのために、何らかの知性体をゴーレムに憑依させるつもりだ。

俺はホムンクルスを使うつもりだったが、コータは悪魔召喚を持ち出した。

工房を借りたので、安全面の問題を無視できるようになったからだ。

工房の周辺は倉庫地帯か空き地で、周辺への迷惑も最小限だった。

俺としても反対するものではない。

好きにしてもらおう。


 そして当面コータはゴーレムの軽量化を目指すそうだ。

騎乗位でも潰されない体重にしたいらしい。

そのためには内骨格の軽量化が必要だろう。

つまり、俺が造ったゴーレムの再利用から、全て自作に切り替わるということだった。

それは身長から体格まで自由に出来るということ。

それによりコータは真に自分だけのゴーレムを手に入れるのだ。


「そこまでは勝手にやっててくれ。

俺はオーブ屋に戻る」


「うん、工房借りてくれて、ありがとうね」


 好き勝手やれる工房にコータも嬉しそうだ。

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