第205話 押しかけ

 翌日。

勇者航太がまたやって来た。


「ラブドール開発はこれからだってのに、カリカリーヌ王女に開発中止をくらっちゃったよ」


 カリカリーヌってカリカリ怒ってるカトリーヌ王女ってことだよな?

それに開発中止だって?

なぜそれを俺に言う?

部外秘の言っちゃいけない事だろうに。

それに、弄られてても王女の悪口言えるんだ?

いや、俺も王女を目の前にしなければボロクソ言えるんだよな。

これは距離で効果が薄れるということか?

だから勇者崩れたちも敵対出来るってことかもな。

ここは勇者航太にそれとなく訊いてみるか。


「勇者は王女に逆らえないのかと思っていたぞ。

悪口なんて言えるんだ?」


「ああ、召喚時に付与されてる諸々の制限のことかい?

あれは王女から離れれば効果が無くなる。

だから王女の居ないところでは自由にさせてもらってる。

向うも僕が居なくなったら困るから、最後の一線は越えて来ないし」


 やっぱり召喚時に諸々付与されていたんだ。

距離で効果が無くなるというのは納得だな。

対面したカトリーヌ王女には何らかの影響を感じたけど、離れたらそんな感じはないもんな。

それと近くに居たリュミエールの影響を受け捲りだったからな。


「じゃあ、逃げようと思えば逃げられるんだ?」


「ずっと王女が一緒なわけがないからね。

だから勇者崩れなんて組織があるんだよ。

彼らは逃げたか役立たずとして追放された召喚者だからな」


 勇者航太、いろいろ喋ってくれるのは有難いが、こんなにベラベラ話して大丈夫なのか?


「それと、召喚された代によって設定を変えているらしいから、世代によって内容が違うんだよね。

ある時は隷属させてしまって、召喚した王族に犯罪称号が付いちゃって、慌てて解除したらしいよ」


「なるほどねぇ。

それで今はあまり強制は出来ないようになっているのか」


「犯罪称号が付かないギリギリを試行錯誤で決めて行ったらしいよ。

だから、王族の命を狙おうと近付くと断念してしまうとか、王族のお願いを叶えてあげたくなるとか、直面すればするほど影響が強くなっているんだよ」


 ああ、納得だわ。

その王族の括りがリュミエールにまで及んでいたからああなったわけだな。

リュミエールのお願いききまくりだったよ!


「まあ、持ちつ持たれつで、僕のスキルでは戦争にも従軍させられないからお気楽で良いと思ってるんだ。

だからお誘いは断らせてくれ」


 え? それを言うために来たの?

それにしては秘密の暴露が尋常じゃない。


「でも、なんでそんな言わなくても良い情報を俺に?」


「だけど、研究は続けたいんだ。

その対価が必要だと思って話したわけさ。

だから、ここで開発を続けても良いかな?」


 それが目的かい!

そんなの余所でやってくれよ!


「店主が召喚者だって王女に黙ってるからさ」


 バレてんのかい!

どこでしくじった?

しかも脅しだろそれ!


「コータはスパイじゃないんだよな?」


「うん。

店主は剣聖なんでしょ?

僕は無力だから、そんな裏切りをしたら命がいくつあっても足りないよ」


「だが、その研究継続が王女には裏切りになるだろ?」


「それは、お仕事さえしっかりやってれば問題ないってば。

怒られるだけで……」


 怒られるのは怖いのね。

たぶん、ラブドールを完成させたい純粋な気持ちからなんだよな?


「そういや、開発予算がないって言ってなかったか?」


「そこは王城からこっそり……」


 横領するってことか?


「横領して目を付けられるのはこっちだぞ?

それは止めてくれ」


「横領ではなく、個人的な報酬を持ち出すだけだよ。

ほら、王国のためにいろいろ作ってるから」


 本当だろうな?

いや、なんで受け容れる気になっている?

あのスキンの技術だけでも欲しいからか。

じゃあ、条件にその技術を寄越せって言ってみるか。


「スキンの技術をくれるならば考えても良い」


「そんなので良いのか?

よろしく頼む」


「代わりとして制御装置の技術は渡さないからな?

見て盗むのも無しだぞ?」


「仕方ないな。

実は悪魔召喚で憑依させようかと思ってるのさ。

それならば、問題ないだろ?」


 ここはオーブ屋兼住宅なんだぞ?

問題大有りだわ。


「それは皆に危険が及ぶだろうが!

ここでやるな!」


 王城で出来ないわけだよ。

やはり変なことを持ち込む気だったな。


「しょうがないな。

ならば悪魔召喚は諦めるよ」


 断りたいが、断ると俺が召喚者だと王女にバレる。

せっかく隠し通せそうだったのに面倒なことになる。

ここで勇者航太を口封じで殺すのもマズイ。

堂々とやって来ているから目撃者が多すぎる。

八方ふさがりだ。


「金があるならば、どこかの工房を借りるのでどうだ?

それが最大の譲歩だと思う」


「それで良いよ。

王城でラブドール造ってると捨てられそうだったんだよ。

それに店主と一緒だと良い刺激を受けるんだよな」


 そんな理由だったのか!

まあ、他にもあるかもだが、勇者航太の技術探求の心は本物だと信じたい。

そこには何かシンパシーを感じるんだよな。

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