第204話 人で代用できる

お知らせ

 第203話において使用したドールの名称が特定の国に対するヘイトになりかねないため、ラブドールに修正いたしました。

関係各所においては、不愉快な思いをさせてしまったことをお詫びいたします。

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 この世界、勇者航太が湯水のごとく予算を使って造り上げたラブドールよりも、奴隷を暗殺者にした方が安上がりだった。

人権無視、本人の意思も無視してハニートラップで自爆暗殺をさせるなんて簡単なことなのだ。

全て人で代用できる。

例え高度で素晴らしい技術であっても、安い代替の効く技術は要らなかったのだ。


「なあ、コータ、勇者なんてやめてここで働かないか?

たぶん、これラブドールは王女に怒られるぞ?」


 ラブドールは要らないけど、人工皮膚の技術は欲しい。

メイドゴーレムがより人に近付くからな。

接客させるには、その方が良いだろう。


「あっ!」


 そう指摘されて、勇者航太も暴走しすぎたことに気付き、我に返ったようだ。

急に慌て出した。


「ここにまた来たらお仕置きだった」


 そっちの心配かい!


「それに軍事利用でなくエロ利用に没頭してたよ。

軍事の方も考えとかないと」


 勇者航太がスパイという可能性も考えたが、そこは守秘義務の魔法契約を結べば問題ない。


「だけど、勇者をやめると、勇者崩れと見做されて命を狙われてしまう。

僕は戦う力が無いから、直ぐに殺されちゃうよ」


「あの王女、役立たずは追放しているだろ?

役立たずを装えば向こうから追い出すんじゃないか?」


「ああ、僕はこれでもずっと王国の役に立って来てるからね。

王国が手放さないよ」


 たしかに、魔導具を解析して改造を施したり、模倣品を作ったのは勇者航太の仕事らしいからな。


「じゃあ、怒られて来い」


「ううっ……」


 こうして勇者航太は泣きながら王城に帰って行った。

残念。 勇者航太がこっちに来れば、王国はゴーレムの模倣製造なんて出来なくなると思ったんだがな。

そう上手くはいかないか。


 ◇


 ゴーレムに肉体を与え人と同じように振舞わせるというのは、技術者としては追求したくなるロマンだよね。

勇者航太が没頭したのも良く解る。

だけど、人のように思考させて、人のように会話させるとなると、それはもうAIを搭載しないと無理だよね。


 だが、この世界はファンタジー世界なのだ。

俺の【マッドアルケミスト】が、その方法を囁いてくれる。


 1つ目、操縦型。

話せる魔物というか妖精みたいな小さいやつを捕まえて来て、ゴーレムに乗せて操縦させる。

そうすれば、考えて話すゴーレムに間接的にはなる。

問題は、その操縦者が勝手な事を始めるだろうということ。

隷属させる?

ならば奴隷購入で充分だ。


 2つ目、召喚憑依型。

ゴーレムを依り代にして、精神的な存在、この世に身体を持たない存在を憑依させる。

神や天使は無理でも悪魔は出来るはず。

問題は、やはり裏切りだろうな。

悪魔契約で従わせるとなると、何か対価を求められるよね。

もう1つ異世界からの召喚があるが、これは論外だろう。


 3つ目、人工生命型。

ホムンクルス、人工生命体を作って憑依させる。

隷属しても人権は無いし、使い魔的に服従させれば、一番手っ取り早いかもしれない。


 ホムンクルスか、人工皮膚が完成したら、やってみる価値はあるな。

勇者航太のおかげで、ゴーレムの改造が楽しくなって来たぞ。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


SIDE:カトリーヌ王女


「なんでこんなことに……」


 そこには勇者コータの研究成果があった。

肉ゴーレムのレム子ちゃんだ。

それは人と寸分違わぬ皮膚と温もりをもったラブドールだった。

にっこり微笑むことも出来る夜のお供だ。

いや、それしか出来ない存在だ。

そんなの性奴隷の方がより良くこなせる。

このレベルでは全て人で代用できるのだ。


「これをオーブ屋の主人に見せに行ったのね?」


 カトリーヌ王女は頭痛に耐える。

また約束を破ってしまったのだ。


「うん、喜んでくれたよ」


 相手が怒っていない事は救いだった。

そのおかげか、まだ抗議は来ていない。


「それで、これに開発予算を使いまくったと?」


「そうだね。

もうすっからかんかな?」


 勇者コータには悪びれる所が微塵も無かった。

技術の粋を注ぎ込んだ結果なのだ。

それに誇りさえ感じているところだ。

カトリーヌ王女はさらに頭痛が激しくなる。


「それで軍事利用の目途は?」


「基本動作の歩くことさえ無理だね。

脚をタンクにした方がマシだよ」


 勇者コータが言うのはガンタ〇クのことだろう。

二足歩行のM〇から後退している。


「もしくは、何か憑依させるかだけど、そこは僕の担当じゃないし」


 その台詞にカトリーヌ王女は溜息を吐く。

そして結論を下した。


「開発中止!

今後一切予算は増やしません」


 ここに王国によるゴーレムの軍事利用は頓挫した。

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