第203話 ゴーレム複製への危惧

 おかしい。

内部骨格型のゴーレムはこの世界にもあったはずなんだが?

それは自動人形オートマタと呼ばれているタイプだ。

なぜ勇者航太はそんなことも知らないんだ?

いや、勇者だからこそ知らないということもあるな。

もしも俺が同意していたら、何で知らないのとなる流れか?

その誘導に引っかかるのは召喚者だけ、俺の正体を探るのが目的で危ないところだったのか?

いや、あの抜けた感じではそんなことはないだろうな。


 そもそも王女の命令でゴーレムを調べてるって、こっちに知られても良い情報ではないだろ。

そりゃ密かに調べろとは命じられるだろう。

だけどゴミを調べるのは勝手だけど、こっちに探りを入れに来るのは違うし、それは王女も想定外だよな?

技術を盗もうって盗み先に訊きに来るかよ!

勇者航太は、素でやらかす系なのでは?


 これはマーランド王国には正式に抗議しとこうか。

制御系の秘密さえ渡さなければ、ただの人形にすぎないわけだしな。

そこは【マッドアルケミスト】の領分、勇者のチートがない限り、再現は不可能だろう。


 ◇


 エルフの大使館を通じて抗議を行ったところ、ばつが悪そうにカトリーヌ王女が来た。

わざわざ来なくても良いのに。


「申し訳ない。

まさか勇者コータがこちらにお邪魔するとは思ってもいなくて……」


 まあ、それもあるだろうが、この様子はゴーレムを解析させていたことがバレて後ろめたいのだろう。


「今後はそのような事が無いように、しっかり監督しますので……」


 たぶん、監督できるのならば勇者崩れが組織化してないだろうし、勇者拓哉の暴走も無かっただろう。


 だけど、なぜか王女を許してあげたくなってしまう。

もしかして、これ、弄られてる結果か?

「王族の言うことをきけ」とか「王族に危害を加えるな」なんてことが完全にではなく微妙に刷り込まれてる?

それが対面で話すとより効果が表れているとか?


 そういや今思うと、俺はリュミエールに甘々だった気がする。

リュミエールも王族で、しかも早々に身バレしている。

突き放そうとは思っていたんだけど、肝心なところで結局甘くなってしまってあの結果だ。


 カトリーヌ王女に焦げたゴーレムを渡してしまったのもそうだ。

直前まで渡さないと決意していたはずが、どうしてそうなった?

嫌な予感がする。


「解析するのは仕方ありませんが、複製するのはやめてくださいね?

一応商品ですので、模倣品は困りますよ?」


「はい、そこはしっかりさせていただきます。

仮に模倣品を製造した場合は1体につき一定の代金を支払わせていただきます」


 所謂著作権料ってやつだな。

だけど、それって作ったらお金払うからで逃げ道を用意していないか?

まあ、まともなものは造れないだろうから……危ない危ない、今それで許そうとしたぞ?

これが弄られた結果の思考誘導なのか?


「造らないようにしてくださいね」


 俺は再度釘を刺しておいた。


 ◇


 数日後、勇者航太がやって来た。

おかしい、迷惑をかけさせないように監督するんじゃなかったのか?


「見てくれ!

これが僕が再生したレム子ちゃんだ」


 そして再生したメイドゴーレムを披露した。

それは外装に滅茶苦茶凝ったラブドールだった。


「おまえそれ!」


 二の句が出て来なかった。

制御装置を自作したことも、ここにはもう迷惑をかけないという約束破りのことも、ゴーレムを製造しないという取り決めの反故も、全てその姿のせいで吹き飛んだ。


「立って歩くのはぎこちないけど、ベッドでの寝技は完璧さ」


「おまえ、どこに労力を使ってるんだよ!」


 たしかに歩くのが一番大変かもしれないけどさ。

元は背格好から碧唯優等生っ子似だったけど、焦げた外装が全て交換されて勇者航太の好みになっているのが救いか。

碧唯優等生っ子似のままだったらぶち殺しているところだぞ。


「いや、美少女等身大ドールと言ったらこれでしょう?」


「ついて行けない!」


「このリアルスキンなんて、魔物の皮膚から合成したんだよ?

ほら、すべすべなんだからね?

そしてあそこもリアルに……」


「皆まで言うな!」


 あそこもリアルに作っただと?

一部、うちより進んでる技術まである!

もはや、勇者航太のその趣味の世界は別次元だった。

おそるべし、エロへの探求心。

その力でここまでの結果を出すとは信じられない。

カトリーヌ王女も、こんなものに高額予算を使われたかと思うと不憫でならない。


「体温があるのが良いんだけど、重いのがネックでね。

騎乗位が辛いのなんの。

もっと軽い骨格にしようって考えているところさ」


 実証済みかよ! 使ったのかよ!


「そうっすか」


 もはや、俺は怒る気がなくなってしまった。

それに、ゴーレムの強度を下げようとしている様子。

これの軍事利用なんて無さそうな気がする。


 いや待て、ハニートラップの暗殺要員として優秀かもしれないぞ?

俺の制御装置とコータの皮膚技術を合わせれば完璧な暗殺者が出来るぞ!


 いや、これは気の迷いだ。

忘れて欲しい。

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