第202話 来訪者

 翌日、ニコニコ顔の変なやつが店に来た。


「凄い、こんなに滑らかに動くんだ。

あの構造的にそうだとは思っていたけど、動力源と稼働装置が無いのに動くのは、やっぱり魔法の力だよね?」


 俺に聞かれても困る。

というか誰だこいつ。

「あの構造」と言っているからには王女の関係者だろう。

昨日渡した焦げたゴーレムを解析したってことだからな。


「ねえねえ、あの中身って何処から着想したの?

すごいや、まるでロボットだもの」


 おい、まさか!

この「ロボット」というのは異世界言語の翻訳なのか、はたまた本当にそう口にしたのか?

そう口にしているならば、こいつは同郷の召喚者だということだぞ?


「失礼ですが、どちら様でしょうか?

このゴーレムはエルフの秘技なのでお答えできませんよ?」


「えー、エルフがロボット知ってるなんて初耳なんだけど?」


 やはりこいつ召喚者だ。

だが、外見が完全に現地人だぞ?

まさか、警備魔導具が無力化されている?


「これ以上は迷惑なのでお帰りください」


 たぶん、王城の入口に設置されていた警備装置と同じように変身の指輪も改造されたのだろう。

こいつの言動から、こいつは王女からゴーレムの調査を命じられた技術者だ。

それが警備魔導具の改造にも関わっていると考えるのは自然だった。

とっとと帰ってもらおう。


「あー、ごめんごめん。

僕は悪いスライムじゃないよ」


 ここで反応すると召喚者バレするってやつじゃん!

探りを入れて来やがったな。


「何を言っているのかわからないが、充分怪しいぞ」


 もう丁寧口調で対応するのはやめだ。

早く追い出した方が良い。


「あれ?

あー待った待った。

ほら、僕は女王様からゴーレム調査を任された勇者の1人さ」


 そう言うと男は変身の指輪の偽装を解いた。

その姿は黒髪のオタク系、明らかに日本人だった。

というか、やっぱり変身の指輪を弄って警備装置を突破していたな。


「勇者様には悪いイメージしかないんだが?

この店を焼かれてやっと再開したばかりなんだぞ?

それに警備装置を勝手に突破したとなると、既に不審者扱いなんだからな?」


 俺は無言で警備ゴーレムを呼んだ。

こいつを摘まみ出す気だった。

だが、それは失策だった。


「うわー、凄い凄い、M〇?

〇Sでしょ?」


 勇者が警備ゴーレムの姿に喰いついてしまった。

それに、思わず「違う」と言いそうになった。

〇Hの方だからな。

これも罠じゃないだろうな?

おそろしいやつ。


「外装を装甲の鎧にすればメイドロボから警備ロボに出来るわけだ。

内部構造をあのように作っているのは、こういった用途に使う汎用性を持たせたということだな」


 こいつ、出来る。

滅茶苦茶話が合いそうだ。

そして、いろいろとゴーレムの秘密が解析されてしまっている!

まさか、こんな人物が王国に居たなんて。


「強度は材料の質でどうにかなる。

問題は制御装置……」


 良かった。

やはり制御装置は解っていないらしい。

しかし、やはり王国はゴーレムの兵器化を目指すか。

これは制御装置の秘密は絶対にバラすわけにはいかないぞ。


「それ以上は駄目だ。

ほら、帰った帰った」


「えー、僕は勇者だぞ?

勇者とっけん……あ!」


 勇者特権で勇者拓哉がやらかしたことを思い出したのだろう。

そのまま口籠る。


「ごめん、忘れて。

僕は勇者航太、コータって呼んでくれ。

じゃあ、また来るよ」


「二度と来るな!」


 調子の狂う奴だった。

それにしても技術系の勇者がいたんだな。

この王国って、武力系しか優遇しないのかと思っていたよ。

そういや勇者航太は、年齢はいくつなんだ?

何代前の勇者召喚の生き残りなのか知りたいところだ。

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