第201話 なんで来たんだ?

 あれからマーランド王国からはゴーレムを売って欲しいという商談要請が入りっぱなしだった。

その都度理由をつけて断っていたが、どうしても話がしたいとしつこい。

ゴーレムが欲しいというよりも俺と会って話したいの方が強い気がして気持ち悪い。

もしかすると、前回の面談で何か目を付けられるところがあったのかもしれない。


「なあ、リュミエール、このままゴーレムを売らなくても問題ないよな?」


 オーブ屋兼魔導具屋であるこの店は、エルフの魔導具を取り扱っている。

ゴーレムも魔法による一種の魔導具だという考えからすれば、エルフの国にとっても交易材料の一品と言っても良い。

それを売らない事で、他の取引に影響が出る可能性があると思ったのだ。


「うちの国は買いたいと言われたから魔導具を売ってるだけで、対価の交易品もそこまで重要視してないのです。

嫌なら売らなくても良いのです」


 この世界、生活の隅々に魔導具が溢れている。

その全てがエルフ謹製ではないが、大元はエルフの技術だということだった。

欲しがられたから売っただけで、いやなら買うなという立場らしい。

模倣品が有れば良いが、買えなくて困るのは王国の方らしい。


「そういえば、王城の門で警備用魔導具が改造、いや改悪されて設置されていたぞ?

俺たちの変身の指輪でも解除されてしまうようになっていた。

ただ、変なノイズみたいのが発生していて、無理やり改造した感じだった」


「うーん、その機能はこっちが隠して入れたものなのです。

外されても、こちらも文句を言えないという前提でやってるのです。

でも、そこまで王国が解析できることの方が驚きなのです」


「そうなんだ。

じゃあゴーレムも売ると解析されて複製されるかもしれないってことか?」


「それは多分無理なのです。

ゴーレムは魔導具士の管轄ではなく錬金術師の方なのです。

しかも、カサイ殿の錬金術は異常なのです。

真似の出来るものではないのです」


 ああ、【マッドアルケミスト】のマッドな部分のことか。

俺のゴーレムにはアニメの知識が入っているからな。

しかも、形は真似出来ても、中身のソフトは複製できないはずだ。


「じゃあ、面倒だからメイドゴーレムでも売ってやろうかな」


 それの解析で時間を浪費してくれればありがたいところ。


「向うの魔導具士の存在が気になるのです。

不完全だとはいえ、私の魔導具を改造してみせたのが気になるのです」


 一種の天才というところか。

いや、待て。

もしかすると何代か前の召喚者なのかもしれないぞ。

そうなると、チート持ちの可能性があるから、絶対に複製出来ないとは言い難い。


「もしもそれが召喚者ならば怖いな。

廉価版ならばまだしも、軍事や武力に関わるものは、やっぱり渡さない方が良いな」


 ◇


 オーブ屋は、店舗の売り場が焼かれ、商品の数々も焼けてしまっていた。

それを修復し、元の状態に戻すのには1週間を要した。

尤も、建物はリュミエールが【密林】で一瞬にして直したんだが、売り出す商品をサブちゃんに手配してもらうのが大変だったのだ。

それでも1週間というのは早い方だろう。


「お店の再開おめでとういございます」


 オーブ屋の再開祝いにかこつけて現れたのはカトリーヌ王女だった。

何やらお祝いの品まで持参している。

これだと無下に断るわけにはいかない。


「これはどうもご丁寧に」


「いえいえ、こちらの勇者がしでかしたことです。

管理者として改めてお詫び申し上げます」


同じことが・・・・・ないようにお願いします」


 俺は次の勇者召喚の噂を匂わせて言ってやった。


「ええ、次は・・失敗しません」


 カトリーヌ王女の言いようは暗に次の勇者召喚があることを認めていた。


「勇者崩れといい、どうして問題児ばかりなのですかね?」


 それに対し、つい嫌味っぽいことを言ってしまった。

もう止めたら良いのにと暗に言っておいたわけだ。


「どうやら召喚魔法陣に不具合があったようで、召喚者の精神を弄っていたようです。

そこを改善すれば今度は大丈夫だと思ってましてよ」


 マジか。

俺も何か弄られてると思ったことが何度かあったぞ。

それは神様によってだと思っていたのに、召喚時に王国によってやられてたのか!

まさか、戦えない平和主義の日本人を好戦的に弄ったか?

それが問題行動になっていたとしても不思議じゃないな。


「また召喚する気ですか?」


「あらあら、少し喋り過ぎてしまいましたわ」


 俺からしたらカトリーヌ王女の方が言いたかったようにしか見えなかったが……。

何か魂胆があるのだろうか?


「そういえば、弁償した中にメイドゴーレムが1体含まれていませんでしたか?」


 カトリーヌ王女が、店舗の奥を見つめながら言う。

その視線の先にはメイドゴーレムが2体いた。


 カトリーヌ王女が言っているのは、碧唯優等生っ子偽装のメイドゴーレムのことだろう。

勇者拓哉の火魔法で壊されてしまったので、もう1体作って稼働させていたのだ。

その新しい方をカトリーヌ王女に見られてしまっていた。

これはもしかして、嘘をついて賠償金を取ったと思われているんじゃないだろうな?


「その焼かれたメイドゴーレムは、ここにある」


 俺は【ロッカー】から焦げたメイドゴーレムを取り出し、カトリーヌ王女に見せた。


「確かに壊れてますわね。

疑ったようで申し訳ありません。

そうだ、これを譲っていただけませんが?

これを見せれば大臣たちも納得するでしょう」


 詐欺られてるという主張はそっちから出てるのかもしれないな。

だとしたら、黙らせるのにメイドゴーレムを渡すのは有りなのかもな。

どうせ模倣は出来ないってリュミエールも言っていたし、仮にチート級の召喚者が居たとしても肝心の魔法石が焼けてるから制御方法も漏れないだろう。


「どうぞお持ちください。

元々弁償済みですからお代は要りませんよ?」


 何やらお付きを呼んで支払おうとするカトリーヌ王女を制してお代は断る。

あくまでも弁償済みのゴミなのだ。

お金を取ったせいで、動かないというクレームを入れられたら困る。


「そうですか。

それでは持ち帰らせていただきます」


 こうして俺はカトリーヌ王女の訪問を乗り切ったのだった。

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