第200話 閑話:カトリーヌ王女の憂鬱

SIDE:カトリーヌ王女


「取れたかしら?」


 オーブ屋の主人と勇者タクヤの被害者である召喚者2人との面談が終わり、カトリーヌ王女は傍らに控えた随員の技師に訊ねた。


「不完全ながら」


 実は密かにオーブ屋の主人ことエルフィン王国第23王女リュミエールの伴侶と言われている男のステータスを覗き見していたのだ。

それは門番からオーブ屋の主人の正体がエルフだったと報告が上がったからだった。


 カトリーヌ王女には、オーブ屋の主人を一目見て怪しいと確信する部分があったのだ。


「見せてもらえるかしら?」


「はい」


 技師がステータス表示の魔導具を操作する。

そこには、3人分・・・の結果が蓄積されていた。

2人分は元賢者のエリカと元聖女のアオイのもの。

そして、もう1人分はオーブ屋の主人のものだった。

それはタブー破りの王族として褒められない行為だった。


「壊れているわね」


 その内容は文字化けしていた。


「はい、情報を限定したのですが、あの状態では不完全なものになってしまいました」


 それは元賢者のエリカを調べると称してしくじった1回のものだった。

実はそのターゲットはオーブ屋の主人だったのだ。


「これは名前ですわね?」


「カ××、良くある在り来たりの名前の頭文字です」


「こちらはスキル?」


「【剣聖×】、おそらく【剣聖技】だと思われます」


「【剣聖技】スキルの所持者が見つかるのは史上何人目かしら?」


「十人はいないかと」


 それだけでも敵対したくない相手だった。


「【×2×】や【∞××××】なんてスキル、存在そのものも能力もわかりませんし、壊れて表示されているスキルの数が尋常ではありません。

それとこれ、【密×】ですが、これが【密林】ならば、エルフの英雄が所持するというスキルです」


 その結果にカトリーヌ王女は、オーブ屋の主人はエルフの英雄か勇者なのだろうとの確信を持った。

だが、ある一点には疑念を持っていた。


「肝心の人種は?」


「全て壊れてます」


 そう、カトリーヌ王女は、オーブ屋の主人がエルフであること自体を疑っていた。

最初の報告ではオーブ屋の主人は「名誉エルフ」だと自称したということだったのだ。

エルフであれば、そう名乗るはずがない。

市井に紛れるため、偽装したかったのだろうという意見もあった。

実際、前主人は姿も人間の爺さんだった。

だが、「エルフ」を名乗っていた。

それでも市井に紛れていたのだ。


 エルフには人間を父エルフを母とするエルフ姿のハーフエルフと、エルフを父人間を母とする人間姿のハーフエルフがいるとされる。

どちらもハーフエルフと蔑称で呼ぶことは許されず、堂々と「エルフ」を名乗る。

なのにオーブ屋の主人は「名誉エルフ」を名乗っているのだ。

そこにカトリーヌ王女は違和感を抱いていた。


 そして、オーブ屋の主人の顔を見て確信した。

だからこそ、タブーを破って勝手に調べさせたのだ。


「あんなブサイクなエルフ、いるわけがないのに」


 そう、エルフは全て美形。

それなのにオーブ屋の主人の容姿は人間ならば上の下レベルだったのだ。

エルフならば下の下だろう。

ハーフエルフという可能性もあったが、ハーフエルフであればこそ「名誉エルフ」などと自称しない。

自尊心のために堂々と「エルフ」を名乗る。


「仕方が無いですわ。

次の機会に期待しましょうか」


 これ以上の追及は無理。

疑念だけを残し、その件は一時棚上げとなった。


「オーブ屋のゴーレムの報告は?」


「全部で4体確認されています。

簡易的なメイドゴーレム2体と警備用の戦闘ゴーレム2体です」


「メイドゴーレム?」


「はい、品出しや掃除などの簡単な作業に使われているそうです」


 そのメイドゴーレムが夜はカツラを被って黒髪の少女のダミーとなっていることは知られていない。


「戦闘ゴーレムは1体がパワー系で、もう1体がスピード系だそうです。

パワー系の力は聖騎士エイトを凌駕し、スピード系の速度は勇者タクヤを凌駕していたそうです」


「それが量産出来れば勇者いらずですわね」


 そんなことが無理な事はカトリーヌ王女自身が良く理解していた。

エルフの国から購入するとして、そのコストが現実的でないことぐらい理解している。

それに自国の軍事力を他国製の自律兵器に頼る愚など犯すわけがなかった。

それは勇者という前例があるために身に染みている王女だった。

ただ王命により避けられないものと、自ら動けるものとの違いがあっただけなのだ。


「オーブ屋の主人と接触するために、ゴーレム購入の打診をしなさい。

どうせ売るわけがないでしょうから」


「はい。 買う気はないが交渉だけはするで良いのですね?」


「売ってくれるならば、買って解析をさせます。

次の勇者召喚の繋ぎになれば程度には期待します」


 カトリーヌ王女は、出征している王子たちの留守を任され、その結果勇者タクヤを甘やかしてしまったことを悔いていた。

そして、次の勇者召喚の準備に入っていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


 笠井のステータス部分は、実際は現地語の表記ですが、日本語での表現となっています。

本来はあのままの字面ではないことをお断りいたします。

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