第199話 世間での噂

 王城からの帰りも女武者っ子の護衛で馬車に乗ってオーブ屋まで送られた。


「君は、このまま出ていかなくても良いのか?」


 道中、女武者っ子に出奔する気があるのかを訊ねた。


「栄斗が勇者に祭り上げられてしまったから……。

私が支えなければならない」


「だが、勇者の仕事は戦争参加っぽいぞ?

今も北の国に侵略戦争中だそうだぞ?」


 俺がそう指摘すると女武者っ子は驚いた顔になった。

どうやらそれは知らなかったらしい。


「それは嫌だけど……。

栄斗の罪を軽くしてもらう条件が残る事だから……」


 そんな条件で縛っていたのか。

それは可哀想だな。


「その罪を問うのはエルフィン王国の方だ。

なんなら亡命して来い。

いつでも受け容れてあげるからな?」


 むしろ不満を蓄積した所で勇者崩れに勧誘されて、向こうに行ってしまう方が困る。


「いざという時は逃げ先がある。

そう心の底にしまっておいてくれ」


「ありがとう」


 さすがに直ぐには決断できる内容ではないな。

栄斗が王城に残されているのは人質みたいなものだからな。


 オーブ屋に辿り着くと、ギャル子と碧唯は馬車の中で変身の指輪を使って姿を変えた。

ここからの馬車からの出入りはドアtoドアなので、対外的にも黒髪の少女は居ないことになる。

それでも存在を隠すのは、そこは衛兵には見られてしまうからだ。

警備上必要なことなので、そこで見られることまで偽装に利用させてもらうのだ。

けっこう簡単に情報が洩れるからな。

あの衛兵司令のクソ貴族により緩んだ規律は、そう簡単に引き締められるものではなさそうだ。

王城の門番さんみたいに一部はがんばっているようなんだけどなぁ。


 そんな情報漏れが良く解るのはサブちゃん情報からだった。

お得意先で集めた情報が御用聞きの雑談として披露されるのだ。

そこに衛兵隊から漏れた情報もあるのだから困ったものだ。


 ◇


 翌日。


「ちわー、ミカーヤワ商会です」


「待っていたよ、サブちゃん」


「なんだよ?

まだ例のスキルオーブは手配中だからな?」


「それも待っているけど、今回は勇者乱心事件の情報を持っていないかと思ってさ」


「それか。

っていうか、その原因はこの店だろ?

一番情報を持ってるのはここじゃないか」


「それがどう世間に伝わっているのか、気になるだろ?」


「そんなもんかねぇ」


 渋々だが、サブちゃんが集めた噂話を披露してくれた。


「噂では店主が手に入れた性奴隷を勇者が奪おうとして、この店を襲撃した痴情の縺れって話になってるな」


 なんだそれは?


「侯爵家と商人、勇者とオーブ屋の四つ巴の奪い合いがダンジョンであって、そこで勇者が皆殺しを決行して、逃げたオーブ屋を追って来たとか。

そこがエルフ王家縁だって知らずに放火して外交問題にってのは当事者だから知ってるよな?」


 微妙に合っているが、黒髪の少女の奪い合いではなくて、なんで性奴隷の奪い合いになっている?


「なんで性奴隷だと?」


「知らないのか?

マルダン侯爵は性奴隷収集の有名人だぞ?

その御仁が関わってるのは性奴隷絡みだろうよ。

それと店主が新たに美人を4人連れて来てるのが知られてる」


 それ、サブちゃんの目撃情報だよね?

しまった、内なる情報漏洩犯がここにいたわ。


「そのマルダン侯爵だけど、ついに悪事が発覚して失脚した。

伯爵に降爵して、息子に家督を譲らされて隠居したそうだよ。

闇オークションで違法取引があったことを衛兵司令のキマイ伯爵クソ貴族が隠蔽してたのがバレて、そこから芋蔓式だってよ」


 1番の人、まだ生きてるのか。

そういや、サブちゃんには闇オークション参加を知られていたな。

まさか、その情報流してないよね?


「俺が参加していたことは言ってないよね?」


「合法取引だけならば、行ってても問題ないだろ?

まあ、言わなかったけどな。

ほら、俺が闇オークションの存在を教えてるからな」


 いや、サブちゃん、俺が美人を4人連れて来て、それが性奴隷だって話になると、闇オークションに参加してるって暗にバレてないか?


「美人4人ってサブちゃん情報だよね?

そこからバレてないか?」


「大丈夫だ。

奴隷商でロリ奴隷を買ってるから、そっちからまた買ったって話になってる」


 サブちゃん……。

ロリコンも広めないで欲しいんだけどな。


「あと、勇者関係で何か聞いてない?」


「ああ、勇者タクヤは女癖が悪くて王家筋の公爵令嬢に手を出してたらしいぞ。

可哀想に、その勇者が処刑されて、公爵令嬢は教会に出家だってさ」


 うわー、ギャル子と碧唯が殺されかけた原因の人だけど、そんな末路なのか。

勇者の婚約者から、反逆者のお手付きに成り下がったんだもんな。

公爵家としても汚点扱いなんだろうな。

まさに天国から地獄、貴族は怖いねぇ。


「代理で勇者になった、勇者栄斗のことは?」


「あまり期待されてないっぽいぞ。

エイトは勇者の従者枠であって勇者の格ではないそうだからな。

名前だけのお飾りらしいぞ。

だから本当の勇者を求めて再召喚という話も出てるそうだ」


 再召喚って、また誘拐被害者が増えるということか?

それはさすがにやめて欲しいところ。

だが、それで阻止に動くと俺が勇者崩れの一味と見做されかねないか。


「またって、それはやめて欲しいな」


「まったくだ。

召喚者はトラブルばっかりおこすからな」


 サブちゃん、それは俺が言われているみたいでつらいぞ。


「それよりも、オーブ屋のゴーレムがやばいって噂になってるぞ」


「え? そうなの?」


「勇者に勝てるゴーレムなんて、国が黙ってないからな?」


 そういや、俺が勇者拓哉を【ステータス・ブレイカー】で制圧したのは知られていないんだったな。

そうなると傍目からはゴーレムが勇者に勝ったことになるのか?


 ああ、これ、召喚要らずで軍事力増強の近道に見えるわ。

国からの干渉が予想されるが、エルフの外交特権で凌げるかな?

ゴーレムはエルフの魔導具製造の秘技ってことにしてさ。

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