第198話 王女面談

 違和感は大事だよね。

おかげで変身の指輪の効果が解除される前に、【相似】の姿模倣で同じ姿に変えることが出来た。

慣れって凄い、同じ姿に簡単に成れた。

おかげで衛兵チェックをスルー出来たよ。

ギャル子と碧唯は、既に元の姿だから問題なし。


 問題なのは、オーブ屋の主人と黒髪の少女の関係が衛兵にバレたということ。

衛兵は任務を持ちまわるので、門番がオーブ屋の警備に来ることがある。

変に噂を流されても困る。

なので咄嗟の判断で姿模倣にエルフ耳を追加してやった。

オーブ屋の主人はエルフだったという偽装だ。

だから変身の指輪を使っていたのだと。

同じ姿から同じ姿に偽装するのは不自然だから結果的に良かったな。


 これは俺が名誉エルフなので何の問題もない。

「オーブ屋の主人はエルフだった!」と言われても「そうだよ?」で終わりだ。

そして、ギャル子と碧唯はエルフの庇護下にあるという印象に繋がるのだ。

これは、外交問題を起こしたばかりのマーランド王国が、手出ししようがなくなるということだな。

俺の正体も隠せて一石二鳥だろう。


 変身の指輪の使用は問題ないということで、門を通った後で使用が許可された。

耳だけだと思っただろうしな。

まあ、上に報告は行くだろうけどね。

エルフの王女の協力者がエルフだったなんて何の不思議でもない。


 そういや、勇者拓哉の前で名誉エルフでリュミエールの伴侶だと口にしているが、その現場には衛兵隊長が同席していた。

当然、上に報告が上がったはずだ。

それも正体を隠すための方便だと思ってもらえることだろう。


「知らなかった。

本当にエルフだったんだ」


 ついでに女武者っ子も騙されてくれた。

まあ、俺が追放された召喚者の1人だとは気付かれたくないから、このまま放っておく。


 ◇


 王城の中を案内されて連れて行かれたのは、俺が入ったことの無いエリアだった。

だが、ギャル子と碧唯には馴染のある場所のようだ。

そこの調度品は豪華で、俺たち巻き込まれ組との待遇の差が歴然だった。


「こちらへ」


 そして、俺たちは応接室へと招き入れられた。


「ようこそお越しくださいました」


 そこにはあのクソ王女が待ち構えていた。

俺たち巻き込まれ組を最初から居なかったかのように冷遇したその人だ。


 俺がエルフ(偽装)で、リュミエールの伴侶だと知ったのだろう、王族でありながら、先に立って待っているなど高待遇だといえる。

その姿は多少やつれている様に見える

勇者拓哉に振り回された結果だろう。


「此度は面談に応じていただきありがとうございます。

非公式の場故、このような場所で失礼いたします」


 その対応は、意外なほどまともだ。

もしかして身分差による差別意識が強い人なのかな?

勇者組は貴族扱いで優遇、巻き込まれ組は平民扱いで無視みたいな。

それは悪しき教育の賜物なのだろうか。

身分問題さえ無ければまともな女性なのかもしれないぞ。


「どうぞ、こちらにおかけください」


 王女が自分の後ろにあったソファーセットに俺たちを誘う。

テーブルが部屋の奥から手前にかけて置かれ、その左右にソファが配置されている。

この世界に上座下座があるのか判らないが、俺の常識では上座に案内されている。

俺、ギャル子、碧唯の順で座る。

奥が上座みたいだからな。

案の定、俺の対面に王女、そして何やら魔導具を持った随員が続いた。


「単刀直入に伺うが、この2人に訊ねたいこととは?」


 さっさと終わらせて帰ろう。

目的はギャル子と碧唯が役立たずになったと証明して見せることだ。


「それは……」


 直球の問いかけに王女が一瞬怯む。

都合が悪いというか引け目がある感じか?


「勇者タクヤ亡き今、安全は確保出来たと思います。

こちらに戻る気はないか訊ねたかったのです」


「無理です。

拓哉にジョブを壊されちゃったし」

「私はジョブとスキルまで壊されてますから、勇者パーティーには戻れません」


「そのステータスを確認しても良いでしょうか?」


「どうぞ」

「構いません」


 そして随員が持っていた魔導具が目の前に移動させられて来た。

テーブルの上をなかなか占拠する大きさだ。

この世界、ステータスを覗き見るのはタブーらしい。

犯罪絡みか本人の許可が無いと見ないそうだ。

まあ、俺は王国側はそうは言いつつ密かに見ていると思っていたんだけどな。

だが、この魔導具の大きさならば、密かに見るのは無理っぽいな。

それと勇者拓哉の特殊スキルを王国側は知らなかったようだしな。

自己申告、あるいはステータスオープンでも項目指定で見せていたのかもしれないな。


「この魔導具ではジョブとスキルと称号欄が見えます。

他は見ないので安心してください」


 何を安心するのか疑問だが、王女が顔を赤らめたからには、そこがタブーに関わる部分なのか?

まさか、性的な情報が載ってるとか?

そういえば、ラノベでも既婚未婚から童貞非童貞、処女非処女、経験人数まで載ってるって作品もあったな。

俺の【鑑定】は育ってなかったから見れる項目が少なくて気付かなかったな。

今は【速攻鑑定】で項目指定して見てるしな。


「どうぞ」


 まずギャル子の前に魔導具が設置された。


「上手く作動しません」


「そう。

位置が悪いのではなくて?」


 そう言うと魔導具を若干ギャル子側にずらし、向きを調整した。

もしかして、俺に使ったってことは無いよね?


「確かに、ジョブ無しですわね」


 俺は必死になってギャル子のジョブを早く復活させてあげようとしていたが、今は間に合わなくて助かったと思ったぞ。


 そして魔導具が碧唯に向けられる。


「ああ、ジョブとスキルまで……。

【異世界言語】だけ無事なのね」


 碧唯の方が被害が大きいのに嘆息がこぼれる。

【異世界言語】は俺が勇者ドロップを渡しただけだ。


 ちなみに、ギャル子と碧唯で被害が違うのは、勇者拓哉の匙加減だろう。

碧唯のスキルに回復魔法があったために、それで助かっては困るということだったんだと思う。


「スキルオーブでスキルは与えられますが、さすがに教会でジョブを授けても、元に戻れる保証はありませんね。

御本人たちの意志も固いようですし、勧誘は諦めましょう」


 どうやら王女も諦めてくれたようだ。

というか、役立たずと判明したとたんに、一気に興味を失ったな。

そこがこの王女さんを気に入らないところなんだよな。

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