第196話 顛末2

SIDE:十人会


「生き残りが居ただと!」


 仲間の仇討ちのために雇った傭兵隊が全滅したとの報告を受けていた商人たちは、その新たな報告に色めき立った。


「はい、重症ですが傷が浅く助かったとのこと。

そして密かにポーションを使い死んだふりをしていたそうです」


「それで誰にやられたのだ?」


「仇である23番だそうです」


「23番に辿り着いていたのだな?

その正体は、何代目勇者崩れだ?」


「いいえ、勇者崩れではありません。

今代の勇者、タクヤだそうです!」


「「「「「なんだって!!!」」」」」


 集まっている商人たちが驚くのも無理はない。

これで仇討ちは頓挫したと言っても良いからだ。


「黒髪の少女は?」


「マルダン侯爵が確保しているだろうということです」


「あの1番札の御仁か……」

「ならば、飽きた女は放出するだろう」

「そこで引き取ると打診し、あいつの墓前に捧げるのだ」


SIDE:マルダン侯爵


「捜索隊が全滅?

獣人は? 黒髪の少女は?」


 マルダン侯爵にとって、心配なのは配下の騎士の方ではなかった。

獣人と黒髪の少女が手に入らない方が重大事だという認識だ。


「それよりも王城から出頭命令です。

闇オークションのことがバレたもようです」


 悪事がバレたと聞き、慌て出す侯爵。


「どこから漏れた?

いや、衛兵隊司令長官のなんとか伯爵は何をしている?」


 闇オークションの件は衛兵隊の司令長官が揉み消したはずだった。

侯爵は、そんな重要な任務をさせている伯爵の名も覚えていないらしい。


「キマイ伯爵ですね?

彼も出頭させられたそうです。

勇者タクヤがエルフの王女を襲ったそうで、それを阻止できなかった責任を追求されているようです」


「こちらが、その関与を疑われているのではないのだろうな?」


「わかりません」


 出頭命令を拒否すれば叛意有りと見做される。

どちらにしろ出頭するしかないのだ。


SIDE:マークスト公爵


「勇者タクヤ乱心!

エルフの王女殺害未遂で外交問題となっております。

勇者タクヤは勇者のジョブとスキルを全て失い、ただの残りカスだそうです」


「終わった」


 マークスト公爵は、部下の報告を聞いて、密かな野望が潰えたことを知った。

それは勇者を自分の家に取り込んで、その力で次の王位を手に入れることだった。

そのために素行の悪い勇者タクヤに娘も差し出した。

誤算だったのは、勇者タクヤの側室となるだろう従者2名が行方不明になってしまったことだった。

その原因が娘の嫉妬だったとは公爵は知らない。

その勇者タクヤが国家反逆罪に相当する罪を犯したうえ、その能力の全てを失ったというのだ。


「そうか。

オレアナの貰い手は一生無くなったな」


 勇者タクヤに宛がった娘オレアナは犯罪勇者お手付きというレッテルが貼られる。

娘のために勇者タクヤを助け謀反を起こすという選択肢もあるが、無能となったタクヤを助けて何のメリットがあるのか?


「それと、勇者タクヤに貸していた騎士隊が1人を残し全滅です」


「なんだと!」


 何をすれば騎士隊が全滅するのか、まさかエルフの王女襲撃に加担させられたのではと公爵は焦った。


「その1人が生き残り、証言しております。

勇者タクヤに皆やられたと。

どうやら、彼の持つ特殊スキルを目撃したこと、勇者崩れを殺害したと知られたことの口封じだったそうです」


 ちなみに勇者崩れ殺害は勇者タクヤの所業ではなく冤罪だ。

むしろ手柄として誇って良いものだが、闇オークション関与に繋がるため隠したいのだろうと思われていた。


「そうか」


 マークスト公爵はホッと胸を撫で下ろした。

騎士隊がエルフ王女襲撃に加担していなかっただけでも有難かったのだ。


やつ勇者タクヤは生かしておけんな」


 だが、これで勇者タクヤを見捨てる決意が出来た。

娘を傷物にされたこと、騎士隊を虐殺したことで勇者タクヤに極刑を求めるつもりだった。


SIDE:カトリーヌ王女


「審議官が使えない?」


「はい、被告人タクヤがこの国の言葉を理解出来なくなったため、通訳にエイトを使っていたのですが、通訳が介在すると審議官の【真偽判定】スキルが使えないそうです」


 本人が審議官の質問を理解し、「はい」か「いいえ」を言わなければスキルが発動しないのだ。


「今までのタクヤの証言は、エイトが通訳したものなのね?」


「はい、シノノメの証言とも一致しますし、そこは間違いないかと。

エイトは使えます。

タクヤに騙されていただけなので、減刑するのが得策かと」


 既に勇者パーティーはタクヤのせいでタクヤ本人も含めて5人中3人が役立たずとなっていた。

エイトを失うのは大きかった。


「そうね。

エイトは建物を破壊しただけで、誰も傷付けていないのよね?

犯罪称号も器物破損のみ。

助ける方向で話しましょう」


 だが、タクヤを助けるのは無理だった。

それに勇者の称号を失ったタクヤをエルフィン王国と争ってまで助けて何のメリットがあるというのか。


「タクヤには、マークスト公爵からも極刑を望む声が上がっております」


「叔父様の立場からしても、そう言うしかないわよね」


 そして、審議官により周辺への聴取が行われ、タクヤの罪が確定した。

衛兵隊に目撃者が多数居たこともあるが、偶然被害者側に居たシノノメの証言が決め手となり、審議官によって勇者タクヤの罪が認定されたのだ。

それによりタクヤの称号欄に要人暗殺未遂と大量殺人が付与された。

これで犯罪称号の無かった者を極刑に処しても誰も罪に問われないこととなる。

それだけ重大な審判だった。


 勇者タクヤは即日処刑され、その首がエルフ大使館に届けられたという。

経済的な損失は弁償され、これで外交問題はチャラとなった。

エルフ側がエイトの処遇に異議を唱えなかったのは、シノノメへの配慮からだったとは誰も知らなかった。


SIDE:十人会


「仇討ちは成就した」

「他人任せだったけどな」

「あとはマルダン侯爵から黒髪の少女を引き取るのみ」


「それが、マルダン侯爵は黒髪の少女を手に入れていないそうだ」

「では、いったい何処に?」

「エルフのオーブ屋らしい」


「あそこは闇ギルドがアンタッチャブル指定したところではないか?」

「今回の勇者タクヤも、あそこに手を出してああなったそうだ」

「危険だな」

「ああ、仇討ちは成ったのだ、これ以上は深入りしない方が良い」

「「「「「そうしよう」」」」」


SIDE:マルダン侯爵


「し、審議官!」


「さあ、喋ってもらおうか」


 マルダン侯爵は闇ギルド主催の闇オークションへの関与を洗い浚い吐かされて失脚した。

特に最新式警備装置横流しの件を衛兵隊司令長官のキマイ伯爵が吐いたため、国家反逆罪が付いたのが大きかった。

その件の主犯ではないが、闇オークションの常連で優遇まで受けていたことが仇となった。

ちなみにキマイ伯爵は処刑された。

これで王都の治安も良くなることだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る