第195話 顛末1

 あまり余計な事は話さないようにと言い含めて、女武者っ子を王宮に帰した。

勇者拓哉が勇者パーティーメンバーの女性2人を殺めようとしたことは話さざるを得ない。

俺の関与も拓哉と栄斗が証言するだろうから仕方が無い。

問題はギャル子と優等生っ子が生きていると伝えることだった。

それにより国から2人の返還を求められても困る。

話す時は2人がステータスを壊されていて、ジョブすら無いこともセットでということになった。

ハズレジョブにハズレスキルだった俺を役立たずだと真っ先に追放しようとしていた王女が、ジョブを失った2人を必要とするとは思えないが、ここは慎重にならざるを得ない。


 エルフの大使によって、マーランド王国へ正式に抗議文書が提出された。

勇者拓哉と従者栄斗が外交特権を侵害し、敷地に武装して侵入した件。

勇者拓哉が魔法で建物へと放火して、エルフィン王国第23王女であり特任大使でもあるリュミエール王女を殺害せんとしたこと。

これらの蛮行に対して正式に抗議する内容だった。


 王国側は事の重大さに大慌てで、捕縛された拓哉と栄斗を渡された衛兵隊司令ごと王城へと召喚されていた。


 まあ、後はなるようにしかならないだろう。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


SIDE:カトリーヌ王女


「もう一度言ってくださる?」


 あまりにも酷い不祥事に、カトリーヌ王女は耳を疑った。


「はい、勇者タクヤと聖騎士エイトがエルフの王女が住まうオーブ屋に狼藉を働き、外交特権を宣言されたにも関わらず、それを信じずに武力衝突を起こしたとのことです」


「あそこは勇者崩れにも襲われて、警備に衛兵隊を駐屯させていたわよね?」


 それを指示したのがカトリーヌ王女だった。

勇者絡みは現役も元も彼女の管轄だからだ。


「はい、衛兵隊長が止めたそうですが、勇者特権で押し切られたとのことです。

そして、エルフの王女がいるにも拘らず、勇者タクヤがその建物に魔法で火を放ったそうです」


 カトリーヌ王女が頭を抱える。

自分の耳が正確だったことを再確認できたからだ。


「つまり、勇者特権を笠に着てエルフの王女を殺しかけたということね?」


 カトリーヌ王女は勇者拓哉を女好きだとは思ってはいたが、それもダンジョンで2人の恋人を失ったからだと同情していたのだ。

まさか勇者のジョブを持つ者が、ここまでの問題児だとは思ってもいなかったのだ。


「動機は何かしら?」


「2人の恋人を誘拐されたからだと。

それがオーブ屋に居たので救出に行ったと」


 さすがに勇者拓哉も殺しに行ったとは言えないからな。


「それの裏はとれたの?」


「はい、2人がオーブ屋に居るのは間違いないようです。

ですが、その2人は勇者タクヤに殺されそうになってオーブ屋に助けてもらったのだとシノノメが証言しています」


「シノノメが?」


「どうやら、シノノメは匿われている2人と接触したようです。

そこで本人たちに直接聞いた話によると、2人が訓練ダンジョンで行方不明になったのは、勇者タクヤに斬られて放置されたせいだとのことです」


「恋人を殺そうとしたのですか?

それも2人共?」


「はい、公爵家御令嬢が勇者タクヤのお手付きになったのはご存じでしょうか?」


「あの子ね。 私の従妹ですもの、知っているわ」


「その御令嬢が、勇者タクヤと関係の深いその2人が側室となることに難色を示したそうで、それが原因ではないかと」


「動機はあるということね」


「つまり、オーブ屋への異常な行動と、過剰な攻撃は、その恋人2人がターゲットだった可能性があります」


「それで外交問題を起こしたというの?

勇者タクヤは何と?」


「目的のためだったと。

エルフなど攻め滅ぼして奴隷にすれば良いと」


 カトリーヌ王女が再度頭を抱える。

上手い言い逃れだったからだ。

目的が救出だとも殺害だとも言ってない。

どちらだとしても嘘にならないのだ。


「勇者タクヤに犯罪称号はありまして?」


 それは恋人2人の殺害未遂も含んだ一連の罪についての問いかけだった。


「それが、ステータスが壊れていて確認できませんでした。

今の勇者タクヤは勇者ですらありません」


「どうしてそんなことに?」


「勇者タクヤは特殊スキルを隠していたそうです。

それはステータスの破壊。

表示を弄るのではなく、表示された能力そのものを破壊するそうです。

これもシノノメからの情報です」


「まさか、自分の特殊スキルで自滅したとでも?」


 非常に珍しいスキルが2つ揃うなんて奇跡があるわけがない、それがこの世界の常識だった。

だから笠井が【相似】で完全模倣して使ったなどとは思いもしないのだ。


「どうやらオーブ屋襲撃前に、勇者タクヤは3集団で諍いとなっていたようです。

その中の数人が生きていて、勇者タクヤにスキルを壊されたと証言しております」


「それは本当なの?」


「その生き残りはマルダン侯爵家騎士と傭兵、そして勇者タクヤの手下として動いていた公爵家の騎士なのです。

ステータスの表示は、勇者タクヤと同じ状態に壊れていたそうです」


「公爵家の騎士も殺しているですって?

いいえ、そうでした。

勇者タクヤは恋人も手にかけるぐらいでしたわね」


 既にカトリーヌ王女の中では勇者タクヤは有罪だった。


「審議官を呼んでタクヤの証言を精査させなさい。

特に恋人に危害を加えたのかどうかを調べさせなさい」


 それは有罪を確たるものにする作業だった。

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