第194話 反撃

「【火弾乱雨ファイアレイン】」


 勇者拓哉が無差別に広範囲魔法を放った。

よりによって店内で火魔法とは、この店ごと焼き殺す気か?


「きゃっ!」


 その火魔法が女武者っ子に当たりそうになる。


「拓哉! 彩香を巻き込むな!」


 栄斗も女武者っ子を巻き込む攻撃に怒りを覚える。

そして碧唯優等生っ子偽装の人形にも火魔法が当たり倒れた。

俺は見逃さなかった。

勇者拓哉がニヤリと笑うのを。

間違いない、奴はわざと巻き込むような魔法を使って、碧唯優等生っ子だと思った人形を攻撃したのだ。


「ほらみろ!

渚さんが巻き込まれたぞ!」


 栄斗が勇者拓哉の無差別攻撃に抗議の声をあげる。

その不自然さに多少は気付いたか?


 店の備品に火が着く。

それを俺が水魔法で消す。

さらに勇者拓哉が火魔法で着火する。


 やはりそうだ、こいつ勇者拓哉は店を燃やす気だ。

【密林】で生やした大木部分は生木なので燃えないだろうが、ベッドなどの家具は乾燥した可燃物だ。

燃えてしまえば店内の酸素が消費されてしまう。

パニックルームはそこまで想定していなかったかもしれない。

このままでは皆の命が危ない。


「やりすぎだ! クソ勇者!」


 俺は勇者拓哉に接近した。

俺を見てニヤリと笑う勇者拓哉。

その手が俺に接触しようと伸びる。

俺にステータス改竄系のスキルを使う気なのだ。

それに俺が気付いていないと笑ったのだろう。


「【時の支配者】」


 俺は時間を止めた。

勇者拓哉の顔は、俺にステータス改竄系のスキルを使えると勝ち誇っていた。


「【相似】、スキル模倣。

ステータス表示」


 そこには勇者拓哉から模倣した【ステータス・ブレイカー】があった。

スキルの実体は改竄系ではなく破壊系だった。

俺はそっと勇者拓哉に触れ、模倣したスキルを使う。

奴が使う前に、こちらが模倣したスキルをお見舞いしてやるのだ。


「【ステータス・ブレイカー】」


 たしか、発動条件は相手に触れる事とスキルを大声で叫ぶことだったはず。

そして、勇者拓哉には最後にデコピンをお見舞いしておく。


「【時間停止】解除」


〖停止時間3秒です〗


『ぐわっ!』


 時間が戻り、勇者拓哉が吹っ飛ぶ。

俺のデコピンが効果を発揮したのだ。


「捕えろ!」


 レフトが素早く勇者拓哉を捕まえる。


『なぜだ、力が出ない』


 勇者拓哉が日本語を使う。

【異世界言語】スキルが壊れたからだ。

いや、拓哉はもう勇者ではなかった。

そのジョブとスキルは破壊され、無力なただの召喚者となっていた。

拓哉は有用なスキルとジョブを持たない、追放された時の俺のような立場になったのだった。


 栄斗の方は女武者っ子に剣を突き付けられ抵抗をやめたようだ。

さすがに恋人は斬れないか。

それと勇者拓哉の行動に不信感を持ったのだろう。

彼もライトが武装解除しガッチリ捕縛した。


 そして俺は燃えた店内を消火した。

大損害だ。

この賠償は王国に請求しても良いよね?


「2人の身柄を引き渡す。

外交問題になると思ってくれ」


 俺は衛兵隊長に捕縛した拓哉と栄斗を引き渡した。

その後、どう処分するのかは王国に任せる。

どっちにしろ拓哉は終わりだ。

国も勇者でなくなった厄介者など必要としないだろう。


「たとえ勇者であろうと、この暴挙は許されません。

厳正に対処させていただききます」


『何言ってんだこいつ?

俺は勇者だぞ!!

直ぐに解放しろ』


 言葉が通じずに悪態をつく拓哉。

衛兵隊長の台詞も理解できていないのだ。

その虚勢が通じるのもいつまでなのだろうか?


「王女殿下は御無事ですか!?」


 馬車が駆け付けると、慌てたエルフ大使が降りて来た。

そして開口一番リュミエールの安否を訊ねた。

煙の立ち上るオーブ屋にアワアワしている。


「無事だ」


 先程警報が解除され、パニックルームを出たところだった。

外が燃えても内部の空気は魔導具により快適だったそうだ。

忘れていたが、そんな魔導具を設置したかもしれない。

皆の命の危機だって、やりすぎちゃったよ。


 エルフ大使よりも豪華な馬車がやって来る。

降りて来たのはいかにも貴族という感じの人物だ。


「司令!」


 衛兵隊長が駆け寄り事情を説明したようだ。

どうやら衛兵司令のクソ貴族その人のようだ。


「これは誰が責任を取るというのだ?」


 外交問題と聞いてやって来たのだろうクソ貴族は、勇者拓哉の暴挙に、今までのようには誤魔化せないことを悟ったようだった。


 これで拓哉と栄斗が処罰されて終了、とはならないだろう。

俺が見せた能力の片鱗に王国が興味を持つかもしれない。

保護した元勇者パーティーの2人を返還しろと言ってくるかもしれない。

事と次第によっては、もうこの王都では暮らして行けない可能性もあった。

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