第193話 外交問題にする

 この国を捨てて出て行ったとして、ここまでの生活に戻すことが出来るか判らないんだよな。

ダンジョンで食材は取り放題、家も持ち家で好きに拡張できる。

スキル強化に必要なスキルオーブも問屋と繋がっているので楽に仕入れられる。

それらを全て捨てて逃げた先でもっと良い生活環境を得られるとは限らない。


 どうやら勇者崩れ共の本拠地は周辺国にあるらしい。

その所在が判らないというのに、ノコノコ彼らの庭に飛び込むリスクは、余程の事がないと負えやしない。

やはり、この国に残れる道を探るしかない。


「外交特権を発動する。

ここはエルフィン王国直轄店であり、リュミエール王女の屋敷でもある。

ここの敷地はエルフィン王国の管理下にあり、許可なき者の侵入を禁ずる」


「「はあ?」」


 栄斗と勇者拓哉がポカーンとした顔になる。

たかがオーブ屋の主人が何を言っているんだというところか。


「いや、この宣言は有効です。

ここがエルフ王家ゆかりの店だって言ったじゃないですか!

もう扉を破壊していますから国際問題なんですよ?」


 衛兵隊長の指摘に勇者拓哉もマズイという顔になる。

だが、栄斗はピンと来ていないようだ。


「なんで店主がそれを宣言するんだ!?

お前はエルフの大使か?」


「そうだぞ! 権限の無い者の宣言なんて無効だ!」


 栄斗の疑問を受けて、勇者拓哉がここぞと突っ込む。

俺がエルフに見えないので、そんな権限など無いと思ったのだろう。


「俺はリュミエール王女の伴侶で名誉エルフの準王族だ」


 ここぞと俺の身分を告げてやる。


「嘘付くな!」


 あ、これ不毛なやり取りになるやつだわ。

本当のことを嘘だと思い込まれると、いくら本当だと言っても嘘だとしか認識してもらえないやつだ。


「エルフィン王国大使館の大使に連絡を。

そうすれば事実かどうか直ぐにわかる」


 衛兵隊長が慌ててエルフ大使館と上司に伝令を送る。

これで少しは時間が稼げるか。

その間に皆はパニックルームに隠れて、俺は防衛体制を整えることが出来る。

勇者崩れ対策だったのに、まさか崩れでない方の勇者がカチ込んで来るとはな。


 パニックルームが作動した証で、黒髪少女を模したダミー人形が動き出す。

あ、と思ったが遅かった。

それは勇者を引き付けるための勇者ホイホイだった。


「碧唯!」


 それを見て勇者拓哉が店の中に入って来てしまう。

おまえはバカか?

武器を持って他国の治外法権な敷地に入るって、立場のあるお前がやると宣戦布告と同じだぞ。

甘く見ても外交問題発生だぞ。

その迂闊な行動が戦争を引き起こすこともあるんだぞ?


「「警告! 武装不審者の不法侵入です。

速やかに武器を捨て指示に従いなさい」」


 警備ゴーレムのライトとレフトが反応し勇者拓哉に襲い掛かる。

対勇者崩れを想定して造ったゴーレムだからな。

勇者拓哉だろうが、排除できると思われる。


「何をしやがる!

あそこに誘拐された碧唯がいるんだぞ!」


「彩香もこっちに来るんだ!

いま保護してやるから!」


 栄斗も店に侵入した。

剣を抜いてしまっている。


「あーもう、栄斗のバカ!」


 これにより俺たちとこの国の勇者パーティーは交戦状態に突入した。


 偽地竜GDモドキコアを持つライトが栄斗に、飛竜ワイバーンコアを持つレフトが勇者拓哉と対峙している。


「何だこいつら!

ロボットかよ!」


 ムーバルフレームのゴーレムです。

中身のゴーレム骨格が鎧を着ているイメージです。


「M〇だ、〇H!」


 栄斗が驚きつつもパワーで対処し出す。

ビーム兵器が無いからねぇ。

店内での魔法使用は制限しているから、今はただの動く鎧なのよね。


「くそ! こいつらには俺のスキルが通じないぞ!」


 ステータス改竄系のスキルを頼みにしている勇者拓哉にとって、ゴーレムは天敵かもしれないな。


 さて、どうやって彼らを無力化するか。

いくら自衛のための反撃でも殺すと厄介だよな。

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