第192話 お泊り

 俺のことを変態扱いする女武者っ子が、オーブ屋に泊まる事になった。

勇者拓哉に真実を知られた或いは己の特殊スキルを知られたと思われたならば、女武者っ子も始末されかねなかったからだ。


 そのターゲットには、その場に居た目撃者として俺と猫っ子犬っ子も対象となると思われる。

俺がオーブ屋の主人だとバレるのは時間の問題だが、ある程度の時間稼ぎは出来るはずだ。

その間に女武者っ子が恋人の栄斗と接触し、王家に通報し助けを求めるなり出奔するなり対策をすれば良い。


 もしかすると、三つ巴の戦いで勇者拓哉が死んでいるかもしれないしな。

そこは情報収集しつつ様子を見るしかない。


 ◇


「覗かないでよ?」


 そして女武者っ子はダンジョンの汚れを落とすために、ギャル子と優等生っ子と一緒に風呂へと行った。

その時俺が言われたのがこの台詞だ。

ラッキースケベでも俺が覗いたことはないぞ?

俺が入っている時に乱入されたことはあるがな。

それは覗きではないのだ。

あえて言うならば見せられ・・・・なのだ。


 まあ、奴隷購入時点で、ギャル子と優等生っ子の裸は検品のために隅々まで見てるからな。

奥さん美人だし、裸なんて風呂が一緒だからいつでも見れるし、あえて他の子を見たいという欲求はないのだ。

なのにこの扱いは理不尽すぎる。


 当然だが何事もなく、女武者っ子は優等生っ子の部屋で寝る事になった。

ギャル子も入れてやって欲しいところだが、そこはベッドが3人では小さいということで我慢せざるを得なかった。

いや、これは言い訳だ。

【密林】を使えばベッドなど簡単に拡張できるのだ。

そんな言い訳をしなければならないぐらい、2人とギャル子の間には距離感があるのだ。


「ここへ来てからは碧唯優等生っ子シノンギャル子の間の溝は埋まって来ていたと思っていたんだがな」


 女武者っ子という親しい存在が、碧唯優等生っ子シノンギャル子の不仲を元に戻してしまいかねない。

気を付けてあげたいところ。

まあ、栄斗という男がいる限り、女武者っ子がここに居付くことはないだろうから、取り越し苦労だろう。


 ◇


 その夜。

衛兵隊が騒ぐと同時に警報装置が作動した。

店舗の正面扉が破壊されたのだ。


「誘拐犯、出て来い!

彩香を返せ!」


 慌てて階段を駆け下りて対峙する。

そこには怒り狂った男が居た。

そして、その後ろには勇者拓哉がニヤニヤしながら立っていた。


 それで理解した。

勇者のすることに、警備の衛兵も止められないでいるのだろう。

王家直属の勇者パーティーの行動を、王国の雇われ衛兵が止められるわけがないのだ。


 だが衛兵隊長は頑張った。


「ここはエルフ王家縁の店です。

店の者への危害は謹んでください。

特にエルフの王女には手を出さないように」


「わかったってば。

店主と従業員に用があるだけだ。

誘拐事件なのだぞ?

邪魔すると、貴様も処分を免れないからな?」


 勇者拓哉にそう言われて、衛兵隊長も成す術がない様子だ。

良く頑張ってくれた。 感謝。


「栄斗! 何やってるのよ!」


 女武者っ子が、男の声を聞いて慌てて店舗に降りて来た。

どうやら、扉を破壊したのは女武者っ子の恋人の栄斗だったようだ。


 そして、その声で栄斗が俺の存在にも気付く。


「貴様が誘拐犯だな!」


 どうやら栄斗は勇者拓哉に有ること無いこと吹き込まれたようだ。

それよりも、勇者拓哉生きてたのか。

それにどうして、ここが直ぐにバレた。


「彩香が王都門で正体がバレて騒ぎになっていたのは聞いている。

そこで言葉巧みに店へと誘い込み、変態行為をはたらく心算だったのだろう!

このロリコン店主が!」


 ああ、あれで女武者っ子が身バレして、彼女と一緒だった俺たちも顔を見られたということか。

衛兵の中に情報を流した奴がいれば、俺の正体も知っているということか。

まだあのクソ貴族に繋がる手下が衛兵の中に居るんだろうな。


 しかも、日頃の面白噂話が裏目に出ている!

否定しても、余所からの噂話が強くて信じて貰えそうにないぞ。

さぶちゃん、どうしてくれるんだよ……。


「栄斗違うのよ!

ここには……」


 女武者っ子は、ここにはギャル子と優等生っ子がいるからと言おうとしたのだろう。

だが、勇者拓哉にはそれを伝えるわけにはいかないと気付き、口籠ったのだ。


「俺にも言えないことがあるのか……。

彩香、まさかもう……」


 おかしな妄想はやめろ。


「違うの!

ここに匿ってもらったのは、拓哉が渚と桃井さんを殺そうと傷付けたって知ったからなのよ。

だから私も危ないって身を隠したのよ」


 黒髪の少女が生きていて闇オークションで売られたことは勇者拓哉も栄斗も知っているだろう。

そこからの情報だろう内容を言ってしまうことは、この店に黒髪の少女が居ると言っているに等しい。

さすがに隠しきれないものだな。


 その告白内容に栄斗も困惑の表情を浮かべる。


「拓哉、そうなのか?」


「俺がそんなことをする奴じゃないって、お前が一番よく知ってるだろう」


 勇者拓哉は友情を盾にするような言い方をする。


「そうだよな。

だが、彩香が嘘を付くわけがないんだ……」


「良く考えろ。

ここは魔導具も売っている店だ。

つまり御禁制の洗脳の魔導具があるかもしれないぞ」


 なんという強引な誘導。

そんな事で騙される奴が……。


「くそ、洗脳されているのか!

今助けてやるぞ!」


 いやがった。

どうする?

ここでこの国の勇者パーティーを制圧するということが、国への敵対となったり、俺の能力バレになったりするぞ。

いや、勇者拓哉は確実に殺しに来ている。

殺らなければ殺られるだろう。

もう国を捨ててでも戦うしか無いのか?

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